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星空で繋がる世界  作者: 江崎涙奈
第1章 リスタート
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13.後日祭<後編>

 


 誰が呼んだのか確かめようと声のした方へ目を凝らしたが、その人物の顔は丁度逆光になって見えない。何やら身振り手振りで何かを伝えると、そのまま会場の裏口から出て行ってしまった。


 一体何だったんだろ?


 疑問に思って首を捻っていると、スイが声を潜めて言った。


「エルナ、まだ劇の途中ですが、ちょっと用が出来たので抜けてもいいですか?」


 用?さっきの人とかな?


 多少の疑問はあったが、エルナは何も言わずこくりと頷く。


「いい子でいてくださいね?」


 スイは優しく頭を撫でると、同じように会場の裏口から出て行った。


 さてと、ゆっくり見るぞぉ……あれ?


 くるりと視線を舞台に戻すと、丁度目の前の人の頭が邪魔になって舞台が見えない。


 う、嘘…劇が見れないなんて、どうにかならないの~~~!?


 楽しみにしていた続きが見れない所為で軽い混乱状態に見舞われていたエルナに、更に追い打ちを掛けるように前から声が聞こえてくる。



『…エル様、用意は全て整いました』

『スケアーか、御苦労…すまないが、始まるまで一人にしてくれないか?』

『はっ』

『………アル…待ってろ、必ず仇は取る…』



 ああもうっ、第二幕始まっちゃってるし!!


 もう仕方ないので行儀が悪いかもしれないが、ここは立って見ることにする。足をぷるぷる震わせ不安定な足場(イス)の上にゆっくりと立つ。膝を曲げての状態でなんとも不格好だろうが、そんなことかまうもんか!


 さぁ、これで見れる!!


 そう勢い良く前を向いた。


 ………。


 一応結果だけ言っておくと、舞台は(・・・)見えた事は見えた。…端をちょこっと見えた程度だったが。


 そして、その後も散々だった


 ひとまず他の席に移動しようと思い席を降りたものは良いものの、あと少しの所で椅子に座ることが出来ず、ならば下でも見える場所を探そうとしたがそんな場所は何処にもなく、そうやってうろうろしている間にも劇は終盤に向かっていったのだ。


 ここまで見れないと諦めがついてくる。むしろ、こんな状態でラストは見たくないので、ここは一旦外に出ることにした。




 * * *




 出てから当てもなく適当に歩いていると、さっきまでとは雰囲気の変わった扉の前まで来ていた。


 そこで行き止まりだったので引き返そうとしたが、なにやらぼそぼそと話し声が聞こえてくる。立ち聞きするのは悪いと思ったが、一方の声がスイだったのだ。


 もし今、何処かに行ったとしたら確実に迷子になるだろう。迷惑を掛けては悪いと考え、話の切りの良い所で入ろうと扉に耳を当てた。


 …断じて、秘密の会談を盗み聞くような背徳感にわくわくしていた訳じゃない


「……セ国との女帝が……を交わしたとか」

「それは………な話ですね」

「あぁ…」

「後、どれ位で…か?」

「さぁ?……という……は無さそうだけど、油断は禁物かな」

「そうですね…の話は一応私から……に御通ししま…」

「ん、此方も……めばまた伝えるよ」


 何言ってるのかさっぱりだったけれど、話が終わったようなので扉を開けてみた。


 少しドアを開けてそこから顔を覗かし、あえてきょろきょろと周りを見渡たす。


「!?エルナ?」


 此処に居る筈のない妹の訪問に、スイは珍しく動揺していた。そんなスイの姿に、エルナは(今なら怒られないだろうという打算の元)ここぞとばかりに無邪気な笑顔で駆け寄る。


「しゅぃーにぃーしゃーまー」


 スイの膝にぎゅっとしがみ付く。


「何故、此処に…」


「こんな長い時間、流石に我慢しきれないでしょ」


 その人はそれに劇のリハーサルも終わってるし、と肩を竦めて付け加えた。


 既にスイの腕の中に抱き上げられて居たエルナは、誰だろうと首を傾げる。


 でも、何処かで見たことあるような…ないような…


 じぃっと食い入る程見詰めていればそんなエルナの様子に気付いたのか、にっこりと笑うと顔を近づけて来た。


「こんにちは」


 息のかかる程に迫る顔に、反射的に手を前に突き出してしまった。


 あっ、やっちゃった


「いてててて…」

「クオイ…貴方は、何しやってるのですか」

「いやー、なんとなく?」


 屈託ない笑みを浮かべていたクオイだったが、エルナと視線を合わし急に改まって手を胸に当てる。


「劇“-lac de sang-”のアルフレッドを演じました、クオイ=ローレンと申します」

「お嬢さん、劇は気に入っていただけましたか?」


 その演技掛かった仕草と口調は、まるで貴族かなにかかのような高貴なオーラを醸し出していた。


 うわぁ、まるで下男→王子に化けたみたい!!


 初対面の人間に対してそんな失礼な事を思ったのは…ご愛敬だ。


 それにしても、何か引っかかるんだけどなぁ

 クオイさん、どっかで見たことあるような気がするんだけど?

 んーそう言えば、さっき演じたとか劇とか言ってたような…もしかして!!


「…ありゅ?」

「はい、アルです」


 スイに正しいのかと目で尋ねるれば、よくできましたと付きそうな笑みで返された。


「ぅわぁ、親、いや兄馬鹿か…」

「それがどうしたっていうんですか」

「もう開き直ってるよ、あーあー…エルナちゃん、君はこの先色々と苦労しそうだね」


 そう言ってクオイは失笑する。何が苦労しそうなのかわからず、ぽかんとしているエルナの頭をいつかわかるよと頭をくしゃりと撫でられた。


「それでは、一応用事も済みましたし私たちはそろそろ帰りますね」

「はいはい」


 ひらひらと手を振っていたクオイだったが、急にぴたりと止める。


「スイ、俺さ明日の夜暇なんだよね」


 そんなクオイの意味深な発言にスイは、くすりと笑う。


「えぇ、分かりました」


 そう言ってあっさりとスイは部屋を出た。




 * * *




 その後あった事をまとめると、何軒か出店に寄ってお土産とおやつを買って貰っている最中、袋一杯にお菓子を詰めたモノを持ったルセとレセに会った。スイは無駄遣いしたのかと顔を顰めたが、何故か二人のお金は一切減っていなかった。そのことを尋ねたスイに苦笑と笑みをそれぞれ浮かべる二人は、口を揃えて別にと言った。スイはそれ以上問い質すことはなかったので、その時はなにがあったのか分からなかった。


 兎にも角にも、タイミングよく合流出来、そのまま家に帰ることになったが、なにやら今晩も城で食べるらしく、家に着いた途端身だしなみを整えて城に向かった。


 通された部屋には既に父母の姿があり暫く談笑していると、王様に続き王妃様たちが席に着いた。その中には機嫌が悪そうなリア姉と眠そうなフォー姉の姿もあった。全員集まったことで席に着くと、隣の席にアースが座った。美味しそうな食事(大変美味しく頂きました。)に気を取られて忘れていたお土産の存在を思い出し、持ってきた鞄の中から取り出して渡せば、始終暗かった表情が少し嬉しそうに笑ってくれた。


 …そう言えば、渡し終わって前を向いたら、母と王妃が秘かにガッツポーズを交わしていたけどなんだったんだろ?




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