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星空で繋がる世界  作者: 江崎涙奈
第1章 リスタート
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9.誕生祭<中編>

 


 主賓である筈の幼い少年は、テラスの外でぼんやりと夜空を眺めていた。


「退屈そうですね、アレスティア様」

「…アルバスタどのか」


 にこやかに近付いて来るアルバをちらりと見やると、再び外に視線を戻した。


「三度目のお誕生日おめでとうございます」


 アルバが失礼の無い程度の簡潔な祝言を述べると、空を仰ぐアースの表情は三歳とは思えない程の憂鬱なものへと変化していった。


「ああ」


 そう言ったきり黙りこんだアースに、アルバは失礼と言って隣に立った。


「綺麗な月ですね」


 紺色の空に突如ぽっかり空いた円から溢れる眩いばかりの金色の光は、街灯の無いこの世界ではより一層輝いて見えた。


 何時見ても綺麗だけれど、夜の空にはちょっとなぁ…


 そっと後ろに控えるフレイの腕に抱かれていたエルナも、真上に浮かぶ満月を眺めていた。


 ずっと見上げていた所為か首が疲れてきたので視線を下に戻すと、黙って月を見上げるアースの様子に眉を顰めた。


 眩しそうに細めた目はどこか虚ろで、生気が感じられない。


 そんなアースは視線を月に向けたまま、ぽつりと言葉を漏らした。


「…つれもどせと、おうにいわれたのか」

「王ではなく父上と呼ばれても」

「いわれたのか」


 茶々を入れていたアルバだったが、確りと向けられたアースの真剣な目にひと息付いて答えた。


「…それとなり仰ってはいましたが、アレスティア様に話し掛けたのは私の意志です」

「そう…か」


 アースはそう言ってアルバから視線を外すと、ふと目が合った。


「そのものは?」


 アルバは後ろを向き、嗚呼と頷いた。


「あと二月程で一年を迎えます、娘のカルティーエルナです」


 顔を綻ばして言うアルバの親馬鹿な姿にフレイは失笑していると、そんな母の様子を不思議そうにエルナは覗き込んだ。フレイは何事も無かったかのようにエルナの頭を撫で、アースの方に体を向けさせた。


「エルナ、初めましては?」


 言われた通りエルナがぺこりと頭を下げると、アルバはアースの事も忘れて褒めちぎった。そんなアルバをフレイはこっそりヒールで足を踏み付けると、聞こえる悲鳴も無視してエルナを興味深そうに見つめるアースにある提案をした。


「アレスティア様、少しの間エルナを見ていて貰えませんか?」


 幼くとも主君に当たる者に対して言う言葉ではないが、普段から大人の汚い部分に囲まれているアースには純粋な子供との触れ合いが必要に見えた。それに、エルナは相手の心を汲む優しい心があるとフレイは感じていたの事も理由の一つだった。


「かまわないが…」


 アースは驚いた顔を隠すのも忘れて呆けている。それでもなんとか頷いた。


「ありがとうございます。ではお願いしますね」


 一礼するとエルナをアースの横に座らせ、未だ足の痛みに悶絶するアルバの腕を引き、テラスから出て行った。


 エルナはそんな二人を見送りアースの方に視線を戻すと、アースはエルナと同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。


 地面に裾が付いちゃってる…高そうなのにいいのかな?


 首の襟から裾の先まで余す所無く金の刺繍と宝石が鏤められた服を、遠慮もなく扱う少年に前世からの庶民的思考の抜けないエルナは、気付かない内に何とも言えない目でアースを凝視していた。


 同じようにエルナをじっと見ていたアースとエルナの二人の視線が絡み合い、暫しの沈黙が流れた。先に耐え切れなくなったエルナは、アースから目を背け空を見上げた。後ろから微かに聞こえる喧騒も忘れ星空に見入っていると、アースは唐突に口を開いた。


「つきはすきか?」


 問われた問いに瞬時に反応が出来ず、きょとんとしていると次いで逆の質問をされた。


「じゃぁ、きらいか?」


 エルナは「ん~」と小首を傾げて言った。


「おちゅきしゃま きれいりゃの」


 要領を得ない返答に困惑していたアースだったが、まだ何か伝えたそうなエルナの舌足らずな説明を待つと、エルナは突然表情を曇らせ『でもね』と続ける。


「おほししゃまには まぶちちゅぎるの…」


 そう言ってエルナは、小さな両手で月を遮る用に塞いだ。


 夜空を煌々と照らす月は美しいが、小さな光を灯す星の光を遮ってしまう。これじゃあ、星が見えなくなってしまう。


 確かに月の無い夜は暗いけれど、宝石箱をひっくり返したようなあの空が私は好きだから…


「ほしには、まぶしすぎる…」


 そう呟いたアースは、途端目を見開いて身を乗り出す様に空に釘付けになっていた。


 隠れていた星の存在に気付いてくれた事に少し嬉しく思いながら、レセも空を見上げた。


 どれ位時間がたっただろうか、後ろから仕切られたカーテンを開き、眩しい光が漏れた。呆然と星を眺めていたアースは、それに気付いたのかぴんと背筋を伸ばすと、もう王子の顔をしていた。


「アレスティア様、陛下が御呼びです」

「…わかった」


 アースは肩膝を付いて伝言を伝える王の側近に一言返事をすると、エルナをちらりと見遣った。


「…レイスどの」

「はい、クライヴ家のカルティーエルナ殿ですね。私が連れて行きます」


 アースの言わんとしている事を察したレイスは、「失礼します」と断るとエルナの体を抱き上げた。



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