8.誕生祭<前編>
日も沈んだ頃、宮廷の一角の二番目に大きな会場で贅沢の限りを尽くしたアルカドス国第二王子の誕生祭が行われていた。
そこでは、豪華絢爛を纏った紳士達はグラスを片手に花を愛で、派手な装いの貴婦人達は自慢話に花を咲かせている。そんな最中、王座の前で、クライヴ一家はアルバを先頭に臣下の礼を取っていた。
「アレスティア様の誕生祭、お招きありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
アルバが先導し祝言を述べ、スイ達はそれに続いた。
「うむ、楽しんでいってくれ」
そうディーリスが言うと、王の横に立っていた青年が降りてきた。
「お久しぶりですね、カーティス様」
「ふっ、久しいなスイ」
恭しく礼をするスイを、カーティスは目を細めて笑った。そんな彼らから、こっそりと逃げようとするリアを横目に捕らえたカーティスは、瞬時にリアの方を向いた。
「こいつを借りるぞ」
「えっ!?」
カーティスの発言に顔を引き攣らせたリアは逃げようとしたが、後ろからスイに肩を掴まれた。
「愚妹を宜しくお願いします」
「言われなくても」
二人、目を合わせてニヤリと笑うと、スイはリアを受け渡した。そのままリアは、カーティスにがっしりと腕を掴まれ、垂れ幕の裏に連れて行かれてしまった。
「お父様、お母様。もう宜しいですよね?」
もう用は済んだでしょうと言うスイに、フレイは笑顔で頷く。
「ええ、いいですよ」
「では、私はこれで」
「…私も…行って参ります…」
何事も無かったようにその場で一礼するとスイは、煌びやかな会場の中央へ歩いていった。逆に、スイに続いて礼をしたフォーは会場を後にした。
そんな兄姉の姿を見てレセは我慢も限界に達したのか、ルセの腕を勢い良く引っ張った。
「ルセ! 向こうの料理食べたい!!」
「ちょっ、レセ待って…」
そんなレセを踏み止まらせたルセは、フレイとアルバの前に向き直った。
「お父様、お母様。向こうに行っていいですか?」
そんな二人の対照的な姿に苦笑するアルバと、微笑みながらも密かに帰ったらはマナーをみっちり教え直そうと心に決めるフレイ。
「嗚呼、構わん」
「気を付けるのよ」
特にレセに、と言外に匂わせるフレイに、それを感じ取ったルセはそれに対して了解した。
「はい、分かりました」
そんな母と片割れの思いなど露も知らないレセは、自分の思うままに行こうとルセの腕を再度引っ張る。
「ルセ~早く~早く~」
「わかったから…」
諦めたように着いて行くルセの姿を、エルナは同情の眼差しで見送った。
「くっ、相変わらず面白い家族だな」
自由な子供達の姿にディーリスは笑いを堪えられずにいた。
「あなたに言われたくないですよ…」
そう言ってアルバは溜め息をつくと、始めから疑問だったことを尋ねた。
「それにしても、アレスティア様のお姿が見受けられませんが…」
ディーリスは失笑し、そのまま視線をテラスに向けた。アルバも同じようにテラスを見ると、そこには宝石に飾られた幼い少年が立っていた。
「あれは…アースは年齢の割りに聡過ぎる、その上繊細と来た」
視線を戻したアルバに、ディーリスは本当に誰に似たんだかと首を振った。
「なぁ、アルバスタ…あれの話を聞いてやってくれないか?」
親の私では駄目だと無力そうに語るディーリスの顔は、一国の国王の顔ではなく子供を思う一人の親の顔だった。
「…御意」
それを嫌という程分かるアルバは、その思いに応えるべくアレスティアの元に向かった。