表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空で繋がる世界  作者: 江崎涙奈
プロローグ
1/37

0.人生の終わり?

 


「お願いします! 私たちの為に死んでください!!」


 …これが私に向かって言われた第一言ってどうなんですか?


 いやいや初対面の人に言う言葉じゃないでしょ、と突っ込みたいのは山々だったけども


 尻尾あったり猫耳やら兎さ耳やら鬼の角っぽいものまで生やしてらっしゃる人とは流石に思えない人々(あれ人々っておかしい?)が、皆さん鬼気迫る顔で懇願してくるものだから呑気に突っ込めなかった。


 でもやっぱり説明が欲しいんですけど…


 そんな私の切実な思いは無視され話は続いていく。


 さっきまで隅の方で体を縮こ込ませて、脅えからか目に涙を浮かべているお綺麗な服を纏った少年が、おずおずと前に出てきて他の方々に向かっていった。


「みんな…待ってくれ。この者が死ななくても私が死ねば……」


 そういうと皆さんは顔を真っ青にしていわれた。


「そんな!?」

「王!」

「それはいけません!!」

「…しかし」

「あなたが死んでしまったら私たちはどうなるのです!?」

「っ…だが、見知らぬ者を無理やり呼んで代わりにするのはあまりに…」


 なにやら皆さんはこの魔王と思しき(皆さんこの少年のことを王と呼んでるのできっと魔王だと決めつけてみた)少年を死なせない代わりに私に死んで貰おうとしてるらしい。が、少年はそれに反対と…


 いやでも待って下さい。私の命なのに意見を言う権利はないんですか!?


『あの~』


「だめです!」

「お願いです!!」


『ちょっと…』


「だめだ!!」


『話を…』


「お願いです!!」

「王!!」


 ………だめだこりゃ。全然人の話聞いてくれない……


 なんかあそこだけで盛り上がってらっしゃるし。


 つか、なんでこんなことになったんだろ?




 * * *




 あの日確か、私は真冬の真夜中に星を見に行こうと、家から少し離れた丘の上で星を眺めていた。


『さむ~~~』


 あ~もうなんでこんな寒い日に限って手袋忘れたんだろ…


 両手を擦り合わせ息を掛けながら、ベンチに座って空を眺めた。


 久しぶりに見る満天の星空にささくれた心も少し癒えてきた。


『あっ…』


 目の端で捉えた夜空を奔る流れ星に、“流れ星が消えるまでの間、願い事を3回言えたらその願いが叶う”とかいう幼いころは誰しも試してしまう迷信を思い出した。


 3回も言うなんて絶対無理だし…


 昔、初めて流れ星を見た時に必死になって試したが結局言えず、諦めた筈なのにその後何度も試した事を思い出す。後々になって、あれは他に頼らず自分の願いは自分で叶えろというという事だと自分なりに解釈し、それはその後の私に大きな影響を与えることになった。


『にしても…なんだこれ!?』


 星に見とれて気付かなかったが、何やらえっほえっほ言いながら足を這い上ってくる生物がいる…


 何かと思い襟首のようなものを掴み、目の高さまで持ち上げてみた。


 ………私は昔から幽霊やら妖精やらとは、残念ながら無縁な平凡な人生を歩んできたつもりだ。


 だからこそ目の前にいるこの奇怪な生物が理解出来ない。


 ……小さい人みたいのがいるんですけど


「おぉ、たすかったぞ…」


 うわっ! 喋った!?


 思わず掴んでいた襟首から手を放してしまった。


 ふぎゃ


 なんか足元で悲鳴が聞こえてきた。


 まぁ、気のせいだろう。


「こら! お主あんな高い所から急に落とす奴がいるか! 儂でなければ死んでいたぞ!?」


『嗚呼、生きてたんだ』


 本当に残念だ。死んでいたら今のは見なかったことにしようと思ってたのに…


「物騒なことをいうな! 全く、近頃の若者は命の尊さというものがわかっておらぬ…うおっ!?」


 わざと足をぶつけようとしたが間一髪のところで避けられた。


『ごめんごめん小さすぎるから見えなかった』


「空々しい嘘を吐くな!」


 わなわなと小さい体を震わせこちらに指をさしてくる。


 …人に指さすなって習わなかったのか。


 せっかく人が良い気分で星空を満喫していたのに、それを台無しにした罪は重い。


 さて、どんな風にご退場願おうかな?


 そんな不穏な空気を感じ取ったのか、脅えた顔でこちらを見上げてきた。


「な、なんじゃ?」


『いや? 別に』


 目を細めて、敢えて作った笑みを浮かべてみせた。


 ひぃぃぃと悲鳴を上げる姿を見て、少し気が晴れてきた。


『あ、そうだこんな事してる場合じゃなかった…』


 もともと星を見て暫くしたら帰るつもりだった。


 明日も朝は早いのであまり夜更かしをする訳にはいかない。


 ましてや、こんなよく分からない生物の為に時間を割くなど言語道断。


『さて、帰るか』


 くるりと方向転換をし家路につく。


「待て! お主…」


 後ろで何か騒いでるがそんなものは無視だ。


「くっ…人を無視しよって…まぁどちらにせよ接触は出来た…後は待つだけだ…」


 こんな事を呟いているなんて、颯爽に去った私が知る由もなかった。




 家に着いた私は今日出会ったあの得体のしれない生物のことは既に記憶の隅に追いやって、何も知らず安らかな眠りについた。




 そして冒頭に戻る…




 * * *




 いやどう考えても分からない…


 普通にあの日も私のベッドで寝ていた筈なのに何故目が覚めたらこんな所にいるんですか!?


 おかしいでしょ!!


 …はっ、これはもしや夢なのか!?


 もし夢なら、痛くない筈だ…


 むに…ぎゅーー…


『いたい…』


 夢じゃないみたいでした。


 もう、いろんな意味で涙出てきそうだ。


 一人で感傷に浸っていると、なにやら皆さん一悶着あったようだ。


「大変だ! 勇者が来たぞ!!!!」


 へーやっぱ魔王もいれば勇者もいるんだ~


「そんな!?」

「もう来てしまったのか!?」


 ざわざわと皆さんがパニックに陥っている時、一人の執事のような格好をした青年が少年の前に進みでできた。


「先に無礼をお詫びいたします…申し訳ございません」

「なっ! ぐはっ……」

「…今あなたの命を失うわけにはいかないのです」


 鳩尾に拳をいれられ少年は呻きながら気を失った。


 おお、なんかマンガとかにありそうな場面!


 自分が関わっていないことを良いことに、随分不謹慎極まりないことを考えていた。


「頼みます」


 倒れた少年の体を受け止め後ろに控えていた人に渡すと、青年は大きな扉を静かに見据えた。


 騒いでいた皆さんもどうやら落ち着いた様子で青年と同じように扉の方を固唾を飲んで見ていた。


 ばたばたばた


 ん? なにやら外が騒がしい?


 ばーーーーーーん


 青に統一された服に輝く甲冑。肌は色白で無駄に整えられた顔。靡く髪は金色で煌めいていて、華奢そうに見えて意外とついている筋肉に、はためくマントを翻し、そんないかにも理想的な勇者って感じの青年がドアを蹴破って入ってきた。


 ……器物損害で訴えられないのかな?


 見当違いなことを思いつつ、第三者のつもりでぼんやり眺めていると、勇者はこちらの方に剣を突き付けてきて言い放った。


「魔王! 覚悟!!」


 …どう見ても私の方見て言ってるよね


 自分の知らないところで火中の真ん中に放り込まれていたようだった。


 えっ? これって死亡フラグ決定!?


 私に向かって直線に走り出す勇者。


 ちょっとーーーーーー!!


 私の心の叫びは聞き入れられずなんの抵抗の出来ないまま、ずぶりと音をたて剣を胸に突きたてられた。尋常じゃない痛みが全身を駆け巡り、悲鳴さえ上げられない。神経がもうショート寸前で、胸が血で染まるのを見たのを最後に完全に意識を手放した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ