昼間に花火をした話
【キーワード】
①ラスト
②集落
③個人商店
④ジュース
⑤花火
⑥仏壇
⑦サンダル
⑧導火線
⑨塀
⑩視界
今日は皆さん、納涼会に参加してくださりありがとうございました。
暑さを怪談で紛らわそうということでこの会を企画しましたが、どうでしょう?
少しは涼しくなりましたかね?
これからお話しする体験が今日の百物語納涼会の【ラスト】になりますので、どうぞ思い切り怖がっていってください。
あれは、私が小学生の頃のことでした。
お盆の墓参りのため、母方の祖父母の家に両親と私、そして弟の四人で泊まりに行ったんです。
祖父母の家がある【集落】は都市部から離れた所にあって、近くにある店と言えば昔ながらの【個人商店】くらいでした。
祖父は私たち孫をよくその【個人商店】へ連れて行ってアイスや【ジュース】を買ってくれました。
小さな【集落】ですから、当然祖父と【個人商店】のおじさんはよく知った仲です。
「大きくなったね。何年生?」なんて声を掛けられてドキドキしながら受け答えをしていると、おじさんは店の奥から【花火】を持ってきました。
「うちの孫のために用意しておいたんだけど、使わなくてね。去年のだから湿気ってるかもしれないけど、よかったら持っていきな」
そう言って弟に【花火】を手渡したんです。
それは、お店で買ったら数千円はする打ち上げ【花火】のセットでした。
私たちはお礼を言って、【ジュース】と【花火】を持って祖父母の家に帰りました。
祖父母の家は【集落】の端の方だったので、家の敷地内で【花火】をしても迷惑をかけることがありません。
とはいえ、夜になるまでは暇です。
仕方がないので家の中に入って【ジュース】を飲みながらテレビでも見ようかと思った時です。
弟が【仏壇】からロウソクを持ち出して、父の手を引いて外へ飛び出していきました。
変だなぁと思って母を見ると、母と祖母も外へ出る準備をしています。
そう。全員が【花火】をするための準備をしていたんです。
どうしてこんな昼間から?
そう尋ねるのも気が引けるほど、ごく当たり前のように準備が進んでいきます。
家の前では弟が並べたらしい打ち上げ【花火】の【導火線】に、父がチャッカマンで火を付けようとしているところでした。
じゅぅぅぅという音がしたかと思うと、小さな光が空へ飛んで行って弾けました。
たしかに、音はきちんとした【花火】です。
しかし、当然ながら昼間に見るとあの美しさは感じられないんですよね。
それでも、父は次々と【導火線】に火を付けていってしまいます。
大きな音と、それに見合わないわずかばかりの光。
それを私以外の全員が楽しそうに見上げていました。
昼間の【花火】を一人だけ楽しむことができず、腰ほどの高さの【塀】の上に腰かけて足をブラブラさせていた時です。
つま先が地面にこすって、履いていた【サンダル】が脱げてしまいました。
数メートル先へコロコロと転がっていくピンクの塊を追いかけて、私は【塀】から飛び降りました。
その瞬間、【視界】が暗転したんです。
立ち眩み……ともまた少し違う感覚なんですが、うまく言葉では表せないですね。
数秒すると目が慣れてきたのか、周囲の様子がわかるようになりました。
その時、【視界】の端に弟よりも小さな手が見えて、ピンクの物体をかっさらっていったんです。
「あっ」と声を上げると、父の視線がこちらを向きました。
その背後に、鮮やかに開いた打ち上げ【花火】。
さっきまで明るかったはずの空が、いつの間にか濃紺に変わっていたんです。
父は「駄目だぞ」と言って再びしゃがみ込みました。
どうやら、【導火線】に火を付けたがっていると勘違いしたようです。
私は一瞬で夜になったことに納得がいかないまま、空に打ちあがっていく【花火】を眺めていました。
そして、【ラスト】一発が終わった後、私は両親に【サンダル】を片方失くしたことを告白しました。
いつもなら怒られるのですが、その時はなぜか「ああ、そう」と言われただけで終わりでした。
翌朝、母が【仏壇】のお水を変えようとした時に奥に転がっているピンクの【サンダル】を見付けました。
そこには二歳の時に亡くなった母の妹の遺影も飾ってあったのですが、それが何か関係していたのでしょうか。
今となっては、知るすべはありません。