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【TRPG】怪談白物語用 フリーシナリオ集  作者: 牧田紗矢乃


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3/11

年を越せなかった男の話

【キーワード】


①大晦日

②酒

③チャンネル

④蛇

⑤胴

⑥悲鳴

⑦腕

⑧スマホ

⑨砂嵐

⑩停電











 早いものでもう百話目ですか……。

 では、最後は今日この会に参加できなかった「彼」の話をさせていただくとしましょうか。


 私は去年の【大晦日】、一緒に年越しをする予定で彼と、共通の友人を含めた三人で彼のアパートに集まっていました。

 【酒】とつまみを持ち寄って、紅白を見るともなしに見ながら談笑する。そんな感じのどこにでもあるような年越し風景です。

 小一時間もするとよい感じで酔いも回ってきて、紅白の歌手たちに合わせて歌ってみたり、他の【チャンネル】に切り替えて「つまんねーな」と文句を言ったりよく言えば自由、悪く言えば無秩序な空気になりました。

 そんな時、足にひやりとした硬いものが触れました。

 なんだろう? と足元を覗き込んでみると、そこには白い鱗に覆われた美しい【蛇】がいたのです。

 長さは一メートルくらいでしょうか。大きすぎず、小さすぎずというサイズ感でした。

「おっ? 干支の方から来てくれるなんて縁起がいいな!」

 白い【蛇】の姿を確認した彼は、そんなことを言いながら手を伸ばします。

 私ともう一人の友人は、彼を止めようとしました。

 何と言っても【大晦日】。しかも夜です。

 噛まれて何かあったとしても病院はほとんどやっていませんし、そこに行くまでのタクシーが捕まるかどうかもわかりません。

 しかし、私たちの心配を振り切って彼は【蛇】をがしりと捕まえてしまったのです。

 それも、彼が握りしめているのは【蛇】の【胴】。

 真ん中よりも尻尾寄りの方でした。

 そんなところを掴まれたものですから、【蛇】の方も怒って彼の【腕】にグルグルと【胴】を巻き付けました。

 彼は驚きと恐怖で【悲鳴】をあげ、思い切り【腕】を振って【蛇】をふり落とそうとします。

 すると、【蛇】は負けじと巻き付く力を強め……私やもう一人の友人が引きはがそうとしても無理でした。

「とりあえず噛まれないように頭を掴め!」

 もう一人の友人が指示を出し、彼は【蛇】に巻き付かれていない方の手でその頭をテーブルに押し付けるように捕えました。

 彼はテーブルに体重を預けるような不自然な体勢になり、【蛇】は恨めしそうに赤い目で私たちを睨みつけています。

 この異常事態に、私たちの酔いはすっかりさめていました。

「どうしたらいい? 警察か? 消防か? それとも保健所?」

 もう一人の友人は【スマホ】片手にうろたえています。

「と、とにかく警察に」

 私は、警察ならきっとなんとかしてくれるだろうと思いました。

 もし違ったとしても消防なり保健所なりに連絡をつけてくれるだろう、と。

 もう一人の友人が警察に連絡をしてくれている間、私は自分の【スマホ】で【蛇】を捕まえた時の対処法を調べました。

 私たちがそれぞれに自分の手元に集中していると、彼の細い【悲鳴】が聞こえたのです。

 それに気付いて視線を彼の方に向けると、いつの間にか彼は床に倒れ込んでいました。

 どうやら、【蛇】が暴れる力を抑えきれず、体勢を崩したようでした。

 その隙を見逃さず、【蛇】は頭を押さえつけていた手から抜け出し、口を目いっぱいに開いて彼の指に噛みつきました。

 そして、みるみるうちに彼の【腕】を呑み込み始めます。

 恐怖で目を見開きながら、彼はよろよろと立ち上がりました。

 右手には【蛇】の【胴】が巻き付き、左手はひじの手前まで【蛇】に呑み込まれている。

 そんな状態の彼は私と、もう一人の友人を見据えて言うのです。

「【酒】の空き瓶で俺の【腕】ごと【蛇】の頭を殴れ」と。

 私は無理だと首を横へ振りました。

 もう一人の友人も同じです。

「殴れ」「無理だ」の押し問答をしていると、突然、彼がよろめきました。

 よく見てみれば足元にもう一匹、こちらは墨で書いたような真っ黒な【蛇】がいるではありませんか。

 黒い【蛇】によってバランスを崩された彼は、テーブルの上に尻餅をつきました。

 そのはずみでリモコンにぶつかったらしく、【チャンネル】が切り替わります。

 そして映し出されたのは、【砂嵐】の画面だったのです。

 サァーという音を立てる【砂嵐】の画面に、私たちの目は釘付けになっていました。

 そして、私たちが見ている前で彼の足に巻き付いた黒い【蛇】がテレビの画面に向かって動きだしたのです。

 ずる、ずる、と彼を引きずりながら。

 私たちは慌てて彼を引き戻そうとしましたが、【腕】に噛みついていた白い【蛇】に威嚇され思わずその手を引っ込めてしまいました。

 そこからはあっという間の出来事です。

 【悲鳴】を上げる彼を引きずった【蛇】はそのまま【砂嵐】の画面に消え、その瞬間に部屋が暗闇に包まれました。

 【停電】だ、と気付いた私は【スマホ】のライトで部屋を照らしました。

 その直後、パトカーが到着したのですが、私たちは説明に困りました。

 なにせ【蛇】も、【蛇】に襲われた人間もすっかり消えてしまったのですから。

 しかも、外に出てみれば同じアパートの他の部屋からは光がもれています。

 そのことに気付いた瞬間、部屋の明かりがつきました。

 結局、彼の行方も【停電】の原因も不明のまま年が明けてしまいました。


 ……と、こういうわけで彼は今回不在なのです。

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