祠を壊した話
【キーワード】
① 祠
② 子供
③ 夏休み
④ 自由研究
⑤ 神様
⑥ おかっぱ頭
⑦ 夜
⑧ 影
⑨ 寝言
⑩ 首筋
皆さま覚えておられますでしょうか。少し前に「あの【祠】を壊したのか⁉」というオカルト系のネタが流行りましたよね。
あれが流行るよりもずっと前、私が【子供】の頃に一度だけ、本当に【祠】を壊してしまったことがあるんです。
あれはたしか、【夏休み】でした。
宿題に【自由研究】ってありますよね。あれで毎年苦戦していて。
何かいいネタはないかなと探しているうちに【夏休み】も後半に差し掛かっていました。その時、遊びに行った祖父の家の近くに小さい【祠】があるのを見付けたんです。
ずいぶん古びた【祠】で、蹴とばせば崩れてしまいそうでした。
「これってなんの【神様】?」
祖父にそう尋ねたのですが、祖父もそれが何を祀っている【祠】なのか知りませんでした。
そこで、【自由研究】のテーマをこの祠にしようと決めたのです。
私はひとまず、なにかヒントはないかと【祠】の周りをぐるぐる歩き回りました。
それから、近くにある神社をいくつか回ってみました。地域の資料がおいてある図書館や博物館にも行ってみました。
けれど、【祠】が小さいせいなのか、宮司さんも知らないと言うし、資料もちっとも見つからないんです。
そんな時、同じ年くらいの【子供】と出会いました。
【おかっぱ頭】のその子はトモと名乗っていましたが、見た目では男の子なのか女の子なのか判別がつきませんでした。
私は一か八か、トモに【祠】のことを何か知らないかと聞いてみました。
すると、トモは「知ってるよ」と言うんです。
ただ、今は教えられないから【夜】に【祠】の前で話そうと、そう提案してきました。
私はやっと得られたヒントに舞い上がっていて、よく考えもせずに「いいよ!」と返事をしてしまったんです。
その日の【夜】、みんなが寝静まったのを確認して私はそっと祖父の家を抜け出しました。
廊下を歩いている途中でいとこの男の子が何かしゃべっていて、ドキリとしたのを覚えています。
内容は覚えていませんが、たぶん【寝言】だったのでしょう。
冷ややかな月明かりに照らされた【夜】の田舎道を【子供】一人で歩いていると、なんとも言えない気味悪さがまとわりついてきました。
街灯のせいで自分の【影】が二重、三重になって違う生き物のように見えるんですよね。
そんな気味悪さに耐えながら歩いて行くと、【祠】の前に【おかっぱ頭】のシルエットがありました。トモが先に着いていたんです。
トモは私が一人で来たことに驚いたようでした。
今までも何人かに同じような話をしたことがあったけれど、本当に【夜】に家を抜け出してきたのは私が初めてだったようです。
正直なところ、私はそのくらい【自由研究】に切羽詰まっていたんですよ。
「ほら、ちゃんと来たんだから教えてよ。これってなんの【神様】?」
私はトモに尋ねました。
すると、トモは首を横に振ります。
「これは【神様】のじゃないよ」
トモが何を言いたいのか、私にはよくわかりませんでした。
どういうこと? と聞くと、トモはにこりと笑いました。
「ここはトモの家。男の子も女の子も、トモが気に入った子はみんなみんなここに入るんだ」
そう言いながら私の手をぐいぐいと引いて、トモは私を【祠】の方へ連れて行こうとします。
トモは【子供】とは思えないほど力が強く、私は抗うことができませんでした。
私の体はあっという間に【祠】に押し込まれ、入口の扉が閉められようとしていました。
みるみるうちに迫る闇。
【影】に呑み込まれるような、そんな感覚とでも言えばいいでしょうか。
私はとっさに奥の壁を蹴り飛ばしました。腐っていた壁は簡単に壊れ、私はその隙間に身体をくぐらせて逃げ出しました。
背後からはトモの憎らしげな声と、蛇のようにくねくねと動く【影】が追いかけてきます。
逃げても逃げてもトモの声は追いかけてきて、ついに足がもつれて転んでしまいました。
その隙を見逃さず、氷のように冷たい【子供】の手が私の【首筋】に回されました。
その時、私は両親に揺さぶられていることに気が付きました。
なんでも酷い悪夢を見ていたようで、【寝言】で「【神様】、【神様】」と繰り返していたようです。
心配顔の両親をよそに、私はすべて夢だったんだという安堵感に包まれて再び眠りにつきました。
次の朝、私は両親と共にあの【祠】の場所へ向かいました。
すると、【祠】はもう跡形もなくなっていたんです。
それだけじゃなくて、私以外の全員が【祠】のことをすっかり忘れていました。
おかげで【自由研究】が振り出しに戻ってしまったのが一番怖かったですかね。
……え?
冷たい手に触れられた【首筋】ですか?
気になるならお見せしても構いませんが……。見て後悔しても知りませんよ。