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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
日常編
19/85

電話

やらかした。完全にやらかした。

店を出て、溜め息をつく。

自分は思っていた以上に緊張していたらしい。

最後まで治まらなかった声の震えを恨む。

完全にコミュ障だと思われた。

段々と引き攣っていく店長の顔は見ていられなかった。

もう一回やりたい……。やり直したい……。


 家で待機していると、スマホが鳴った。

すぐにそれを取ると、つちださんのコンビニからのメールだった。

頼む。頼む。

ゆっくりと、瞼を開ける。

不合格だった。案の定、不合格だった。

念の為、目を擦ってみるが、やはり、〝不〟の文字がついている。

深い溜め息をつく。

畜生……。もう一回やりたい……。やり直したい……。

つちださんの同僚になれなかった……。

つちださんと一緒に働きたかった……。


 数週間後。

不採用の連鎖に加え、〝DAYS〟が突然の解散発表をして僅か一週間後という短いスパンで、〝SKY・DRIⅤE〟のボーカルのJUNが覚醒剤所持で逮捕された事によってずたぼろになった精神に、運送業から喰らった不採用の文字が、留めを刺した。

ソファーに腰を落とし、天井に向かって深い息を吐く。

ドラッグストア。

区役所。

カフェ。

本屋。

カラオケボックス。


 もう何度、不採用を喰らっただろうか。

もう、履歴書を書く気力も、面接を受けるそれも残っていない。

もう、何もかもが嫌になってきた。


 冷蔵庫からレモンサワーを取り出し、一気に呑み干す。

もう一本取り出し、また吞み干す。

また一本。また一本。

次第に酔い潰れていく。自暴自棄とはこの事を言うのだろう。

また一本。また一本。


 次の日の夕方。

しつこくこびりついていた二日酔いが、何とか治まってきた。

スマホを持ち、LINEを開く。

ブロックを外す。


 黒いバスローブ姿でソファーに腰掛け、ワイングラスを傾ける自身の画像に変更したらしいアイコンをタップする。

〝一緒にサンタやろうぜぇっ!〟などといったメッセージが画面を埋め尽くす。


 自分にはもう、選択肢がない気がしてきた。

この胡散臭さに乗っかるしかない。

この藁にすがるしかない。

まずは彼と直接会って、話を聞かなくては。


 少し考え、〝突然のLINE失礼します。話がしたいので、会えないでしょうか。都合の日時を教えて下さい。〟と入力した。

そして、送信した。送ってしまった。


 サンタクロースになって子供達にプレゼントを配る。収入は、一晩で一〇〇〇万。

不採用を喰らい続け、窮地に陥れられているとは言え、あんな胡散臭い話に乗っかるなど、自分はどうかしている。

取り消しをしようとした瞬間、既読の文字がついた。

読まれてしまった。もう引き返せない。

すると、すぐに電話が来た。

もう出るしかない。


 「うぃーすっ! おひさぁー!」

鬱陶しいテンションに、思わずスマホを耳から遠ざける。


 「もう、やっと返事来たよー! 待ってぜー!」

レゲエらしい音楽が大音量で掛かっている。


 「サンタクロースに興味持ってくれちゃったわけ?」

 「あっ、まぁ……」

それから、明日の十九時、彼の行きつけらしいバーで会う事になった。

一体、自分はどうなってしまうのだろう。とんでもない展開になりそうな予感がする。


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