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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
日常編
16/85

金髪

目が覚め、何となく時間を確認して再び眠る。

満足するまでそれを繰り返していると、時刻は十時半を過ぎた頃だった。

上体をゆっくりと起こし、伸びをする。蓄積された疲労は、ほぼリセットされたらしい。

 ヘッドホンを装着し、〝SKY・DRIⅤE〟の音楽を再生する。

そして、大音量で放たれる歌声と共に熱唱しながら、掃除機を掛ける。

この時間が、僕のストレス発散方法の一つだ。


 いつもの様に、家中を掃除し終えたのとほぼ同じタイミングで〝SKY・DRIⅤE〟のアルバムは一周した。

窓を開け、息を吐く。熱唱の爽快感と掃除の達成感に、春風の心地良さが加わる。


 インターホンが鳴った。Woltで注文した吉牛のねぎ玉牛カルビ丼とあさり汁が届いたらしい。

だが、魚眼レンズを覗くと、何故かUber Eatsの配達員。何故だ……。

スマホで確認したが、やはり、自分が注文したのはUber EatsではなくWoltで間違いなかった。


 「はい」

 「あっ、ウーバーっすぅ」

 「頼んでないですけど」

 「いや、頼んだっしょ、お客さん」

跳ねた長めの金髪である見た目通りの、口調のチャラさと態度の悪さだ。


 「いや、ウーバーは頼んでないですから」

 「はっ? 頼んでんじゃん」

敬語も使えないのか。大体、客に対して「はっ?」はないだろ。

「ほら」と、金髪男は地図が表示されたスマホの画面を僕に見せる。


 少なくとも五歳程年下の相手の舐めた態度に苛立ちを覚えながら、それを確認すると、表示された住所は隣のマンションのものだった。


 「それ、あっちのマンションです」

僕はそのマンションの方向を指差した。


 「こっちはA館で、その注文の人はB館の人ですから」

僕が閉めようとしたドアを金髪男が掴んだ。


 「はっ? お客さんが間違ってんでしょ」

何でそうなるんだよ。まず、「はっ?」をやめろよ。


 「お客さんが住所の入力間違ったんでしょ」

だとしてもB館に行かないとおかしいだろ。


 「つーか、こっちがB館でしょ、ホントは」

そんな嘘をつく理由がないだろ。確認しろよ。


 「すき家の丼と汁、頼んだでしょ」

すき家じゃねぇし。


 「お客さんのでしょ、これ」

何なんだ、こいつ。


 「いや、違いますから」

早く立ち去ってくれ。その時、Woltの配達員が来た。

金髪男の対義語の様な地味な見た目のWoltの配達員は、「こいつ、Woltとウーバーを同時に頼んだのか」とでも言いたげにきょとんとした表情を浮かべながら、スマホを確認した。


 「えっ、お客さん、ウーバーとWolt同時に頼んだの?」

 「だから、ウーバーでは注文してないですから。僕が注文したのはWoltなんで」

それから二人は、スマホの画面を互いに見せ合う。


 「B館は向こうですね」

Woltの配達員は、ここがA館でそっちの配達員がB館である事をぼそぼそとした声で金髪男に説明した。


 「えっ、マジでっ? ここA館? やぁっべ!」

金髪男は慌てて去って行った。

さっきから言ってるだろ。何なんだ、あいつは。変な奴だ。

Woltの配達員は何事もなかったかの様にリュックを開け、ビニール袋に入った品物を僕に渡した。


 地獄の平日から解放された事に因って気の緩みが生じ、ストレスの耐性が弱まっているらしい。それとも、週末という安全地帯を妨害されたストレスが加わっているのだろうか。

何なんだ、あいつは。ムカつく奴だ。


 久し振りに、辰元暁匡の作品に手をつけるか。

棚を埋めるタイトルの数々を眺め、〝一輪の薔薇と、あの日の時雨。〟を取る。


 巧妙なトリックと、明快な推理。壮大で爽快感溢れる、見事な伏線回収劇。吸い込まれていく世界観。感情移入していく心理描写。

彼の作品は網羅しており、何周もしているものも少なくないが、毎回、初めて以上の快感と衝撃を覚えている。

何れも魅了されるもので、甲乙つけがたいが、自分の中でこの作品は少なくとも五本の指に入るだろう。


 やはり、この作品は面白い。やはり、彼の作品は面白い。

改めて実感しながら捲っていたページに読みづらさを覚え、窓を見ると、空は夜に移ろいでいた。


 皿に盛りつけたレトルトのミートソーススパゲッティとレモンサワーをテーブルに置き、YouTubeを開く。

ゆーきが絶叫しているサムネをタップする。

テーブルの前でゆーき以外の三人が並んで座っている。


 「今回の企画は、ゆーきの猫嫌いを克服させよう大作せーん!」

そう言ったダイゴ。は拍手し、他の二人もそれに倣う。


 「ゆーきと言えば、無類の猫嫌いですよね? そんな彼に今回、ドッキリを仕掛けたいと思いまーす!」

再び拍手するダイゴ。は続ける。


 「これからゆーきには、我々立ち会いの下、猫カフェに行く事をゆーきには事前に説明するのですが、それはウソ企画で、ホントは〝澤田の実家に突撃訪問してみよう〟という企画だと説明します。でも、ホントのホントは、ホントに猫カフェに行って沢山の猫ちゃんと戯れてもらう、というわけです!」

二人は手を叩いて笑う。


 「ゆーきは澤田がターゲットだと思ってるわけか!」

 「逆逆ドッキリって事か!」

それから動画は、澤田以外の三人に因る偽オープニングに切り替わった。


 「じゃあ、急に実家訪問されてタジタジの澤田が見られるんだな!」

ウソ企画の説明をされたゆーきは大はしゃぎだ。

動画が再び切り替わると、AKITOはメンバーを乗せた車の運転を始める。


 「えっ、どこに行くわけぇ?」

助手席でアイマスクをしているゆーきは、おどおどした演技をしてる。


 「それでは、今回の企画を発表します! 名付けて、〝ゆーきの猫嫌いを克服させよう大作せーん!〟」

ダイゴ。が発表すると、それがウソ企画だと思っているゆーきは、絶叫する演技を始める。

それから、〝そしていよいよ、猫カフェへ到着!〟というテロップが表示された。


 「えっ、俺の実家じゃん!」

澤田の合図の言葉を言うと、ゆーきは「テッテレー!」と、満面の笑みを浮かべながらアイマスクを上げた。


 「と言う事で、猫カフェに着きましたぁ!」

ダイゴ。がそう言うと、ゆーきは「は?」と拍子抜けした。


 「いや違うって、違うって! おかしい、おかしい!」

三人に手足を引っ張られて無理矢理車を降ろされたゆーきは、しゃがみ込んで抵抗している。


 「だから言っただろ、猫カフェ行くって」

 「何でだよ、おい! 逆ドッキリだろ、おい! ふざけんな、おい! 澤田の実家だろ、おい!」


 さっきの演技を遥かに上回る怒りと絶叫だ。

それから、〝次回、いよいよ猫カフェへ!〟というテロップと共に次回予告が始まった。

店内を逃げ回ったり、店を飛び出したりしながら絶叫するゆーきの姿で、動画は終わった。


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