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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
日常編
15/85

入会

疲労とストレスが括り付けられた体で、会社の玄関を出た。

ようやく、一週間が終わった。解放感に因って、深い息が出た。

ようやく、一週間が終わった。やっと、やっと終わった。

よし、つちださんに逢いに行こう。

 店内に入ると、カップラーメンの陳列作業を行うつちださんの後ろ姿を見付けた。

チャンスだ。つちださんと沢山話せる。

だが、足が重い。胸が苦しい。

思わず、つちださんから逃げる様にパンのコーナーに向かう。

何を話そう。陳列される音を聞きながら、カップラーメンのコーナーの真裏に並んだスナック菓子の列を見つめる。

せっかくのチャンス。全身に緊張が走る。

「あっ、こんにちはぁ」

少しずつ近付き、つちださんの視界に入ると、笑顔を向けてくれた彼女に返事をする。

一週間、頑張って良かった。頑張った甲斐があった。

金曜日のつちださんはまた、格別に見える。


 「今日は暖かいですよね」

つちださんが僕に話し掛けてくれた。「そうですね」と、慌てて返す。


 「何だかこの時期って、気温が上がったり下がったりで、服装が難しいですよね」

そう言われて必死に探って出た、「ホントですよね」という言葉のしょうもなさに呆れる。


 「あっ、そうだ」

つちださんは目を見開く。


 「お店のアプリって入会されてないですか?」

再びつちださんに話し掛けられた事に驚きながら、「いえ」と返す。


 「良かったら、会員になりませんか?」

透き通った声が発する〝良かったら〟という言葉の魔力のせいなのか、お茶にでも誘われるのかと一瞬、構えたが、流れ的にもそんな訳ないよなと、我に返る。


 買い物する毎にポイントがつく事。入会費は掛からない事。定期的に値引きクーポンが発生する事。

つちださんは、アプリ会員になる様々なメリットを丁寧に説明してくれた。


 「あと、新規会員様限定で十パーセントの割り引きになるクーポンが使えるんです」

つちださんが僕に、説明してくれている。


 「入会します」

そう言った僕をつちださんはレジに案内し、冊子を出した。


 「では、こちらを読み取ってもらってもいいですか?」

スマホをポケットから取り出し、つちださんが指すQRコードを読み取る。それから、名前や住所を入力し、入会が完了した画面を見せる。


 「あっ、オッケーですね。入会ありがとうございます」

つちださんは微笑みを見せてくれた。

〝入会すると、高い壺とか買わされたりしないですかね〟という冗談を思い付いた。

〝そんな、宗教的なのじゃないですよ〟などと、笑いながら返してくれるだろうか。

そう思ったが、一歩を踏み出せず、いつもの様に、アメリカンドッグを注文した。


 浴室を出て、レモンサワーを傾ける。

ソファーに腰を落とす。一週間が終わった。やっと、一週間が終わった。

何気なく、アプリを開く。

つちださんが、沢山話し掛けてくれた。それが何よりの特典だ。ポイントやクーポンはどうでもいい。

しばらく、つちださんの余韻に浸りながら、ぼんやりと画面をスクロールしていく。

夕飯にするか。キッチンに向かい、棚に並んだレトルト食品を眺める。


 親子丼と岩下の新生姜をテーブルに置き、テレビを点ける。

工場での製造過程のVTRを凝視し、勢い良くボタンを押して大声で答えるも、不正解のタレント。

小学生の問題に頭を抱える芸人。

主人公の指示で炎を吐くポケモン。

久し振りに、〝SKY・DRIⅤE〟のライブでも観るか。

レコーダーの横に並んだDVDの中から、結成十周年ライブが収録されたものを取り、それを再生した。


 ステージ上に現れたメンバーのシルエットに、歓声が上がる。

幕が下ろされ、更に会場が沸く。

赤いレーザー光線が無数に照射される中、歌が始まった。

ボーカルのJUNが地名を叫び、観客が歓声で応える。このライブの一曲目は特に好きな曲だ。

サビに入り、気分が高揚していく。

〝SKY・DRIⅤE〟はやはり最高だ。それを再認識した。


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