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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
日常編
14/85

独裁

十三時過ぎ。十和田が来た。

ガマガエルに似た、シミといぼだらけの醜い顔。いつボタンを弾け飛ばしてもおかしくない、ベルトに乗っかった腹。

憎たらしいその姿は、数人の挨拶に一切反応せず、席に着いた。

コンプライアンスのこの時代に抗い続けるハラスメント部長、十和田のお出ましだ。

空気が、一気に張り詰める。

十和田は椅子に凭れ、天井を眺めている。早く仕事しろよ。


 「コーヒー」

十和田の言葉に仕方なく女性社員が動く。完全に独裁者気取りだ。

せっかく今週はかなりマシな一週間だと思っていたのに。金曜日の午後というラストスパートに来やがって。


 コーヒーを持って来た女性社員に十和田は礼も言わず、新聞を広げながら啜ったそれに「熱っ!」と舌打ちした。


 「風邪の調子はいかがですか」

女性社員は社交辞令で訊く。


 「いかがって、治ったから来たんじゃねぇか」

 「あっ、はい……」

女性社員は席に戻った。何であんな言い方しか出来ないのだろう。

治ったのならさっさと仕事しろよ。というか、大人しくまだ休んでいてほしい。


 ようやくパソコンを起動させた十和田は、ぶつくさと文句を吐きながらキーボードを叩いている。

すると、男性社員が十和田に呼び出された。早速、理不尽な怒号が飛ぶ。


 「三十八度五分の時の俺でもこんなミスしねぇよ!」

 「すみません……」

 「いや、〝すみません〟じゃなくて、しねぇよなって訊いてんだよ」

 「はい……」

 「しねぇよな?」

 「はい……」


 病み上がりでもパワハラとモラハラは健在らしい。

 「お前、熱あんのか」

 「いえ……」

 「ホントか? 熱あるだろ?」

 「いえ……」

 「マジかよ、おい。平熱でそれか? 平熱でそのスキルかよ。ヤバいな、お前。お前の平熱のスキルはな、普通の人が熱出てる時以下だかんな、マジで」


 十和田にハラスメントを捲し立てられた社員は、疲れ切った表情でデスクに戻る。

あんなに虐めて何が楽しいのだろう。周りに敵を作る人生は楽しいのだろうか。他の事に生き甲斐を見出せないのだろうか。


 「おい、ちょっと」

別の男性社員が十和田に呼び出された。


 「お前、またミスばっかじゃねぇかよ。ミスしかしてねぇじゃねぇか」

 「すみません……」

 「お前、何が出来るわけ? 何だったら出来るわけ? 何に特化した人間なわけ?」

 「すみません……」


 それから男性社員は疲れ切った表情で自分のデスクに戻る。

部下をストレス発散の道具にするのはいい加減やめてほしい。むしろ、社員全員がお前にストレスを感じている。


 十和田は、また偉そうに単語だけで注文して礼も言わずに受け取ったコーヒーを飲み終えた頃、体調不良を訴え出し、帰った。

やっぱ体調悪いんじゃねぇか。

一体、あの男は何をしに来たのだろうか。部下にハラスメントをしに来たのだろうか。コーヒーを飲みに来たのだろうか。

甚だ、嫌悪感を覚える。


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