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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
日常編
1/85

熱弁

サザエさんのエンディング曲が、終わった。

終わってしまった。

カツオが次回予告を終えると、サザエさんがチョキのプレートを見せながら微笑む。

それから、彼女に因る提供読みでCMに切り替わった。

サザエさんが、終わった。

思わず、画面に向かって深い息を吐く。

サザエさん症候群というらしいこの症状を、入社以来、毎週患っている。

恐らく自分が人類で最も重度である事を自負している。

サザエさんが、終わった。終わってしまった。

土日というオアシスが、間もなく終焉を向かえる。

明日から、また地獄の五日間が始まる。


 アラームが鳴っている。

手で、スマホの在処をしばらく探る。

布団の中にあったそれをようやく掴む事が出来た。

日に日に嫌いになっているアラームを止める。

時刻は七時十分だった。六時半から十分毎に設定しているこの忠告は、もうこれで最後らしい。


 眠い。まだ三時間は眠れる気がする。

精神的疲労の積み重なりなのか、職場に対する拒否反応なのか、近頃、どんなに眠っても寝足りない。

上体を起こし、息を吐く。月曜日が、始まった。憂鬱だ。

歯を磨いて顔を洗い、髭を剃って、トーストとコーヒーの出来上がりを待つ。

テレビを付けると、役者二人がそれぞれのSNSで結婚を報告した文章を女子アナが読み上げていた。度々ネットで見掛けていた噂は、どうやら事実だったらしい。


 思わず溜め息が出ながら、スーツに着替える。体が、憂鬱に浸食されていく様だ。

再び、溜め息が出る。

名前を呼ばれた女子アナは元気な返事と挨拶をすると、桜の咲き具合を紹介し、天気予報を始めた。

家を出なくてはならない時間が近付くのに比例して憂鬱が増していく。


 自分の星座は一位だった。〝思いも寄らない幸運が訪れます〟という、ありきたりな言葉が添えられている。微塵もそんな一日になる気がしない。

ラッキーパーソンは、仲の良い同期や同級生。そんなもんいねぇよ。そんなのがいる奴は占い関係なくそもそもラッキーじゃないか。

十二位の星座が発表され、番組が終わると、次のそれのロゴが表示された。

二人の司会者がお辞儀をし、挨拶をする。

時間だ。時間になってしまった。

テレビを消し、重い腰を上げる。


 バスが、職場に近付く。溜め息が出る。

地獄の五日間が、また始まるのか……。


 「うぃっす、汰駆郎(たくろう)っ!」

席に腰掛け、パソコンを立ち上げて間もなく、背後から肩に手を置かれた。

一浦が鬱陶しく元気な笑みを見せる。


 「うぃー!」

そのまま力強く肩を数回揉まれる。

朝からこのテンションに付き合わされ、早速不快だ。


 「昨日観たか? ヤバくないか、あれ」

月曜日恒例の常套句になり始めているそのフレーズに呆れる。

僕は観ていないと何度も言っているにも関わらず、いつもの様にそのドラマを熱く語り出した一浦は、満足気にデスクへ向かう。

あの男は、入社した日から僕に対して呼び捨てだった。

しかも、あの男が僕に掛けた第一声は、「好きな歌手とかいんの?」である。

「えっ、いや、別に」と思わず返すと、全く知らないバンドを熱弁される羽目になった。完全に学生ノリだ。


 自分も新入社員という立場であるにも関わらず緊張感の欠片もない様子に因って、僕の嫌いな人間である事が確定し、あの男に対する危機管理能力が働いた。

同期という理由だけで馴れ馴れしく接してくるくせに、肝心の仕事はミスを繰り返してばかりあの男に、毎日苛立ちを覚えている。


 「ところでさぁ、先週のジャンプって買ったぁ?」

新入社員でも犯さない様なミスを短時間で連発した一浦は、休憩時間になるや否や、僕の元へ来ると、何事もなかったかの様に言った。

僕は普段、ジャンプを買っていないと何度言えば分かってくれるのだろう。

それからまた、熱弁が始まった。一体この男は、何をしに職場に来ているのだろう。

甚だ、嫌悪感を覚える。


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