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魔法使い

以前書いた短編の連載版です。

 2×××年、某日。



「指令。ホテルアリーシへ到着しました。既に周辺住民には避難誘導は完了」

「了解だ。先行部隊の方は?」

「既に人造魔法部隊は全滅。敵はやはり……」




 暗い車内の中、指令と呼ばれた彼女は金髪に染めた長い髪を手ですかし、口にガムを放り込む。



「天然ものって事だろう。どうしても人魔と天魔じゃ差がありすぎる。ただそれにしても俺の部隊を全滅ってのは……敵やはりはDTか。おい、剣崎、桑原、準備はいいな」



 後ろへ振り向くと暗い車内で二人の人物が座っていた。



 一人は丸眼鏡をかけ、病的なほどやせ細った30代の男。



「あのですな。拙者、荒事は無理なのですが?」

「うるせぇ剣崎。俺の先陣の部隊が負けた以上お前らしかいない。働け、でないとフィギュアを壊すぞ」

「そ、そんなことッ! ゆ、ゆるしませんぞぉ!? あと現場では拙者の事は博士と呼んでくれと」

「うるさい、働け」

「はっはっは! 博士。安心したまえよ。吾輩がいるじゃあないですか」



 人一倍大きな声で笑う大男。はち切れんばかりの筋肉と肩まで伸びたロン毛が特徴的な男だ。こちらも年齢は30代を超えている。



「おい、ビルダー。プロテインを飲んでないでお前も出動の準備をしろ」

「ええ。お任せください。か弱い幼女を救うのは紳士の勤めでありますからな」

「変態筋肉。記憶に残らないからって変なことをするなよ」

「いえいえ。ノータッチが基本ですからね。大丈夫お任せください。しかし――」



 筋肉は周囲をゆっくりと見渡す。




「1人足りないようですが?」



 そうビルダーが話すと、指令は手を震わせ始めた。




「あのバカは、この事態だってのに……ラーメンが来たから伸びる前にすぐ食べてから来ると言いやがった」

「そ、それはそれは。まあ週に1回の楽しみといってましたからな。さて、吾輩も屋内の戦闘は苦手なのですが、行くとしましょうか」












 ホテルアリーシの5階廊下。客室の扉が並び、間接照明が照らす少し前まではおしゃれな空間であった。しかし今は違う。あちこち破壊されており赤い血が壁や床を汚している。そこは完全に戦場と呼べる場所。そこに3人の男が対峙している。



「この巨人野郎、しぶと過ぎだろ」



 手に持った血が滴るナイフを振り、刃についた血液を落としながら帽子を被っている男は言った。



「伊崎さん。相手は対魔法使いの特殊部隊です。同志から殺しは避けるようにと言われてますけど――」

「わかってるって。でも硬すぎだ。さっきも割と本気で刺したのに皮膚しか切れてないぜ」






 ビルダーは苦手な屋内と自身と相性の悪い魔法使い相手との戦闘を続けており、ただ防戦となっていた。そこでようやく待っていた言葉が耳に入る。


『ビルダー殿! ようやく彼が来ましたぞ!』



 その言葉にビルダーは心から安堵した。屋外で思いっきり暴れるならともかく狭い屋内で、しかも人質のいる場所では十全に動けず完全に手詰まりになっていた所であったからだ。



「それは助かりますな。正直この手の搦め手は面倒で仕方ない」



 そう呟いた時、ビルダーは左から迫る気配へ咄嗟に反応する。振り上げた左の拳は空を切り、そこから生まれた死角に転移した伊崎の刃がまたビルダーの肌を切り裂いた。だがビルダーはそのまま部屋から廊下へ向けて走る。



「なんだ。また逃げるのか」


 後ろから聞こえる嘲笑する声を無視してビルダーは破壊した部屋の扉を引き寄せ、廊下へ出た瞬間土門へ向かって放り投げた。その行為に土門は流石に廊下の壁へ身を寄せ回避する。そしてその隙にビルダーは廊下の端へ走る。その後ろから攻撃をしようとした伊崎と土門だったが、攻撃の手を止めた。それは廊下の端から現れた新たな人物がいるからだ。



 その男は普通としか言えなかった。まるで遊びに来たかのような軽装の男。だがその男からただならぬ気配を感じる。



「ビルダーさん。お疲れ様です」

「まったく後でステーキをおごってもらいますぞ、それにしても隊服は?」

「いやぁ着替える時間がなかったんです。まあ後は任せて下さい」



 そういうと男がビルダーの肩を叩く。すると傷だらけであったビルダーの身体が一瞬で傷一つない身体へと変わる。それに土門と伊崎は驚愕した。




「ッ! 治癒系魔法の使い手か?」

「いや……それにしては何か妙ですね」

「とはいえ2対2……いやあの筋肉達磨下に戻って行ったか? 俺たち相手に1人ってのは舐めてんのかね。とりあえず俺が突っ込んでみるから、土門は様子みててくれ」

「分かりました。気を付けてください」




 そうして男はゆっくりと廊下を歩いてくる。その不気味さを警戒しつつ、伊崎もゆっくりと歩を進める。互いの距離はまだ30mほどある。そしてその瞬間、伊崎の姿が消えた。

 伊崎の持つ魔法の能力。それは対象の死角へと転移する魔法。その転移によって男の後ろへ音もなく転移する。



(ちょろいな、とりあえず足を潰すか)



 男は反応できていない。下手に振りかぶらずただ切る事だけを目的とした最適なナイフ捌きで男の足を切ろうとし、刃が男の足に触れ切り裂こうとした瞬間であった。









(よし転移してまずアイツの動きを見るか)



 伊崎はそう考え()()()()()()()()()()だった。目の前には男がおり、眼前へ拳が迫っている。何が起きたか伊崎は把握できなかった。さっきまで30m先にいたはずの男がいつのまにか目の前にいた。今まさに転移しようとしていた瞬間であったこともあり伊崎の動揺は計り知れない。そして何も出来ぬまま伊崎は男の拳を顔面に受ける。陥没する自分の顔、粉砕される自分の頭部を想像し死を覚悟した瞬間だった。




「不味いもっと弱いくか」



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分が転移しようとした出鼻をくじかれ動揺していた。自分の腹部にめり込む拳、吐き出される酸素と血液。そのまま伊崎は壁に激突し気絶した。




「……なんだ今のは」




 そしてソレの一部始終を見ていた土門は戦慄していた。




 伊崎は間違いなく転移を行い、男の背後へ回った。そしていつも通りナイフによる攻撃が加えられるという瞬間、伊崎は突然元居た場所へ戻っていた。そして一度顔面へ攻撃を受けた伊崎と攻撃を加えた男。だがまた次の瞬間には二人の動きが逆再生されたように戻り、次に伊崎は腹部へと攻撃を喰らい倒された。




 そのあり得ない現象を目の当たりにして土門は思い出す。同志絶猫が言っていた言葉。




『フリージアの東京支部にいる天国堕としに気をつけてね』




 天国堕とし。それは数々の魔法使いを恐怖に叩き落とすある男の異名である。同志絶猫の唯一の脅威。




「貴様……天国堕としかッ!」

「もしかしてその変な呼び名DTの中で流行ってます?」

「ちッ! そのまま眠れッ!!」





 連射する2丁のエアガンから発射されるBB弾は男に迫った瞬間。触れる直前にすべてのBB弾が土門の目の前まで戻っていく。そしてエアガンのあった場所まで戻ると重力に従って床へ落ちた。




 勝てない。そう確信した土門へ男は急接近し拳を放つ。だがその拳は人ではないものをとらえていた。それは巨大なクマのぬいぐるみ。






「あれ」




 周囲を見渡すが誰もいない。あの伊崎という男も、土門という男も。すべてぬいぐるみに変わっている。





「この魔法。――猫さんか」

『どうした守』

「逃げられました。猫さんの魔法です」

『くそッ! あの野郎結局何がしたかったんだ! ――まあいい。人質を救助し撤退だ。人員は送る、救急車や警察も手配した。もうお前らは戻っていい』

「了解です」




 


 仕事を終え、ホテルから離れる。しばらく歩き町の大通りで家族連れで楽しそうに話す人々を見ると毎回思う。ああ、恋人がほしい。さっさと童貞を卒業したい。




 



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