90.鳥頭の罪状
お昼は、念願の川魚の塩焼きだ。
あんなことがあったのに、魚は律儀に持ち帰られて、池で泳いでいたので、すくいあげて囲炉裏で焼く。
「鳥の羽もむしれないくせに、魚の内臓をえぐり出せるって、どういうことだ」
キーリーの中では、鳥の羽むしりの方が気軽な作業らしい。確かに、鳥の羽むしりは、村では子どもの仕事のようだった。私は、子どもじゃないから、むしれるようにならなくてもいいね。
「うちの地元では、基本、魚しか食べちゃいけないんだよ」
魚の方こそ高価で滅多に食べれなかったが、たまに釣り人がくれたからさ。処理くらいできるようにならないといけなかった。あんまりやりたい作業じゃなかったけど、だからこそ弟妹にやらせることはしないよ。
「肉を食わせちゃ、いけなかったのか?」
「食べちゃいけないことになってるんだけど、鶏は柏だよね、って植物だってことにして食べるんだよ」
「鶏みたいな植物があるのか。見てみたいな」
シュバルツの中で、着々と日本が魔界になっていそうだが、楽しそうなので、放っておく。
「ウサギは鳥、馬は桜、鹿は紅葉、この間の猪も牡丹だって、言い訳して食べるんだよ。でも、その道のプロがさばいてくれたのを買ってくるだけだから、自分でさばく機会がなくてね。自分でやるものだって意識がない」
「そうなのか。まったく似てない物に例えるのが、お前の故郷らしいな」
感嘆してる顔をして、失礼なことを言うのはキーリーらしくて、腹立つね。
「私が生まれる200年くらい前の話だけどね」
「なんの話なんだよ」
「シュバルツとのジェネレーションギャップを埋めようと、姉として奮闘中」
昔の人には、昔話が親近感が湧くのではなかろうか、という私の気遣いだ。
「俺は、こないだのシスーホーテーシキの続きの方が、聞きたいが」
「ホントに、何きっかけで、そんな話が始まるの?」
「オネエチャン、スーガクオシエテ」
シュバルツの私転がしテクの一片を知った。恐ろしい。すっかり掌握されている。
「お姉ちゃんは、酒が飲めるようになりたい。魔法薬作って」
お魚が美味しかっただけに惜しい。鱒の塩焼きに米も酒もないなんて! 魚を焼く前に、麦でも炊いておけば良かった。失敗した。
「今日が終わって良ければ、飲めばいい。が、その前に、確認したい事項がある」
「何?」
今度は何を企んでいるのだろうか。
「シャルルが両親を探している、と聞いた。間違いないか?」
「まさか、シュバルツの知り合い? 両親が存命なら、生活に困ってないか、心配なんだよ」
シュバルツと同じクロなのだ。クロネットワークでもあるのだろうか。それとも、この村の住民だったとか? 村人みんな、常識ハズレレベルで、シャルルに優しかった。誰かの娘だったという線もなくはないのか?
「いや、知り合いではない。恐らくは、特に困り事もなく、シャルルのように暢気に生きてると思うぞ」
「なんで、知り合いでもないのに、わかるのよ」
「これだけ特徴的な娘の親が、他にいるとは思われん。なんで鳥頭に探せないのか、理解に苦しむ」
「え? シャルルの親って、有名人なの?」
「一般的に有名かどうかは、知らん。だが、魔法使いを名乗っていて知らないのは、恥ずかしいだろう」
「!! 私、魔法使いなんだけど! 自分の両親なんだけど!!」
姉面がどうこういう前に、人として恥ずかしいレベルだと思われていた。そこまでだったか。お姉ちゃんまでの道は、遠そうだ。
「シャルルは、記憶障害だ。致し方ない」
期待されても困るのだけれど、諦められちゃいけないレベルで諦められていることを知った。初対面時のちょっとしたギャグが、ここまで尾を引くとは思わなかった。なんてこった。
「そういう訳だ。鳥頭、今すぐシャルルの両親の居場所を特定して来い」
「ですが」
「金と魔法以外の手段で、贖罪するんだろう?」
「今すぐ、出立致します」
部屋の隅っこに座らされてた先生は、外に出て行った。
「さて、どんな妨害をしてやるか」
「え? 体良く追い出しただけじゃないの?」
なんのヒントも与えず、放り出したのは、ただ追い出したいだけだと思ってた。
「追い出しただけなら、いずれ戻ってくるだろう。戻って来れないように、叩き潰してやる」
シュバルツの背中に、黒いモヤモヤが見えるような気がする。シュバルツは、いつも一緒にいる割に、先生の扱いが酷い。先生は、すみっこでじっとしてるか、シュバルツの命令を聞いてるだけなのに。
「あの先生、一体、シュバルツに何したの?」
「家のヤツらと変わらない不遜な態度で、何もかも気に入らなかったが、一番は、俺の全てを否定しながら、発明を盗もうとするところだ。栄誉など欲しければくれてやるが、あの姿勢はおかしい」
「ああ、多分、今でも気付いてないと思うよ」
盗もうとしたことは反省しているかもしれないが、それ以外の方が重罪だったとは知らないに違いない。
「そうだろうな」
まだ魚を食べてる途中なのに、抱えあげられた。
「ちょ、何? こぼすよ。やめてよ。充電切れ?」
「いや、ここにも気付いていないのが、いたから」
? シュバルツ相手に不敬? 確かに、毎日してるけど、怒ってたの? 追い出されちゃう? 魚を食べ終わってからにしてくれないかな。
「忘れているのだろうが、プロポーズと誓いの言葉は、本気だった。今でもまったく変わりない。俺の全ては、シャルルだ」
「ぶふっ」
このシチュエーションで、急になんてことを言い出すんだ。そんな話をされるなら、やっぱり酒飲んで寝てしまえば良かった!
「シャルルが、夫より兄弟の方が上だと言うから甘んじているが、逆転した時は、覚えていろよ?」
「兄は興味ないデスが、弟妹に勝るものはないデスヨ」
「夫になった後も、弟でいられるぞ」
背後からブツブツぼやかれるのも心をえぐられたが、今度は顔を両手で固定されて、向き合わされた。終わった! 魚バリアが効かない。助けて!
「あのね。私、弟妹のためなら、なんでもできると思ってたの。だけどね、前に弟妹のために結婚しなくちゃいけなくなった時に、受け入れられなくて、逃げ出して、今ここにいるの。弟妹のためでも、結婚できなかったの。弟妹に会えなくなるとしても、結婚が嫌だったの。だから、結婚は一生無理だと思う。恋人も欲しくないというか、嫌なんだよ」
「弟妹のためだろうと、好きでもない相手と結婚したくないのは、普通のことだろう」
「そうなの?!」
なんてことだ。これ以上ない程、引け目を感じていたのに! それは、こちらの常識か? 向こうの常識は、どうなんだろか。
「心配するな。俺には既に、子も孫もひ孫も、もしかしたら玄孫もいる。結婚できなくとも、困らない。だから、震えなくていい」
やっとシュバルツの声音が、いつも通りの抑揚のない無感動トーンに戻った。許してもらえたのだろうか。
「私、口説いてくる男とか、べたべた触ってくる男とか、イケメンとか、怖くて嫌なの。恋愛に巻き込まれたくないの。シャルルは若くて可愛いかもしれないけど、私はもうお局様で恋愛関係ないゾーンに突入してるんだよ。今度茶髪に染めて、一緒に埋没しない?」
「髪色なんぞ何でも構わんが、埋没は難題だな。俺もシャルルも、無理じゃないか?」
ローちゃんさんに続き、トリトリ先生も追い出しました。
会おうと思えば、簡単に会いに行けるし、
復活させようと思えば、いくらでも出せるけど、
人ばっかり増やしてもね。
次回は、村の発展。
かなり前に村人Dさんが、シャルル様と呼んでた理由です。




