85.二度と会いたくなかったアレ
「博士、この辺りでよろしいですか?」
「ああ、そうだな。シャルル、釣りと投網とどちらがいい?」
川に行くと聞いていたのに、池か泉のようなところに着いた。川に繋がっているから、間違いではないけれど。
「獲れれば何でもいいよ。どうせ私は見てるだけだし」
「投網は無理でも、釣りならできるんじゃないか?」
「私もそう思ってたけど、釣り竿を長いこと持ってるのも辛いし、引きがあったら持ってられる気もしないよ」
もともと底辺を這っていた筋力だが、比喩表現でもなんでもなく箸しか持たないような生活をしていて、更に落ち込んだ。身体に仕舞ってしまえば、物を手に持って運ぶ必要も発生しないし、意識的に筋トレをしないと全く筋肉を使わないんだけど、筋トレって面倒臭くない? 全然続かないんだよ。
「創薬しかしてなかったのに、ミキサーを作ったからな。筋力が落ちるばかりだな」
「助けて、シュバ衛門〜」
「なんだ? 改名すれば良いのか?」
「違うよ。魔法的なアイテムで助けて欲しいんだよ」
「そんなことばかりしてるから、筋力が上がらないんだろう」
「そうなんだよ」
シュバルツと先生が、魔法で魚獲りを始めた。持って帰るなら、無傷で生け取りがいいだろう、という判断らしい。私の手伝う隙は、まったくない。次々と魚が獲れる。種類まで指定で獲れるのだから、まったく無駄がなかった。ついてくる必要なかったな、と思った。
人の気配を察知して魚が隠れるとか、まったく関係ない漁法なので、水面に近寄ろうが、うるさく騒ごうが、影響はない。私は、水を触ってみようと近寄って行った。前に、川に落ちたことがあるので、注意していたのだが。近寄った水面が急に膨らんで、私に向かって飛んできた。私は、避けることができず、そのまま池に引き摺り込まれた。
「がぼがぼがぼべっ」
意図して水に入ったのではない。水に落ちたのでもない。水が、こちらにやってきたのだ。視認するのが遅れて、息を止めるのが間に合わなかった。苦しい。上下がどちらなのかも、わからない。急がなくては息がもたないが、どちらに向かって泳いだらいいかすら、わからない。じっとしていれば浮力が働いて、上下がわかるかと思ったけれど、そんなこともなかった。何故だ。どうしたらいい? 適当に泳いで、逆方向だったら、最悪だよね? 間に合わない!
「ルル! 起きろ、シャルル!」
「んあ?」
ずぶ濡れのシュバルツが見えた。シュバルツに助けられてしまったのか。もう姉の座は、諦めなければならないのだろうか。小さい頃は、可愛かったのになぁ。
「いいか? 気を強く持てよ? 錯乱するなよ?」
シュバルツが何か言っているが、無視だ。それどころではない。口から大量に何かが出てくる。苦しい。
「落ち着け。大丈夫か? もう終わりか?」
口から出てくる物は終わったが、なけなしの体力も終了した。しばらくは、転がっているしかできない。もう寝ちゃってもいいかな。
ごろんと頭を転がしたら、見てはいけない物を見た。慌てて、頭を反対向きに動かす。
「見たな? 落ち着いてるか? いけるか?」
怖すぎて、返事もできない。もう2度とお目にかかる予定のなかったものが、そこにいた。銀色のでっかい水棲恐竜のような何か。あれは何だ。夢だ。寝て起きたら、宿屋のベッドだ。
「こら、寝るな。用が済んだら寝てもいいから、まだ寝るな」
「私、あれ、苦手なんだよ。今まで食べてきたお魚さん、ごめんなさい」
「食わせないから。守るから。娘の証とか言うのを出せ」
「私は娘じゃないよ。お姉ちゃんだよ」
「お前は、アレの娘なんだろ? 忘れてるだけで」
「そんな訳ないじゃん。あれ、シュバルツの親族なの?」
「俺は、ただのクロだ。お前は、特別のクロだろう? もういい」
「おい、竜。この娘には、記憶がない。娘の証とは何だ。ちゃんと説明しないと、理解しないぞ」
シュバルツは、物怖じもせずに、竜? に話しかけた。いつぞやのジョエルのようだ。なんでみんな怖くないのか。今度は、シュバルツのお友達なのか? みんな顔が広すぎだ。
「シャルル、青の宝石だ。持っていたら、出せ」
「青の宝石? 知らないよ、そんなの」
私がドラゴンのところからくすねてきた宝石は、黒と茶色と緑だ。選別が面倒で、ごそっと持ってきたのに、青が混ざっているだろうか? 探してみよう。
「あ」
手からやたらとでっかい宝石が出て来た。冒険屋の海の雫だ。そういえば、そんなものもあった。すっかり忘れていた。
「やっぱり忘れてたんだな」
「そうだね。ちょっと違うけど、そうだね」
私には、シャルルの記憶がそもそもないのと、先生の魔法による記憶喪失と、うっかり忘れの3択があるのだが、そのどれでもいいのであれば、そうなる。記憶喪失ということにしといた方が、格好がつくような気がするので、そういうことにしておこう。
「え?」
シュバルツは、海の雫を鷲掴みにすると、竜に投げつけた。
「それで、満足か。もう帰らせてもらうぞ」
私は、シュバルツに抱き上げられて、運ばれる。
「え、と、どういう状況?」
「シャルルは、水に攫われた。変な結界があって、鳥頭と小さいのは、入れなかった。俺は入れたけど、出られなくなった。シャルルが竜の娘なら、結界を解いてくれるというから、くれてやった。悪かったな。お前のなのに」
「あの竜、目をすわらせて、踊ってるけど、大丈夫?」
「踊って? ふざけるな!」
「ひぃいぃっ!」
竜から、衝撃波が飛んできて、シュバルツの足元がえぐれた。シュバルツは、飛んで回避しているから無傷だけど、私は腰が抜けたよ。
「何なにナニ何? シュバルツも、ガチ喧嘩で友情深めるタイプなの?」
話してる間も、間断なく何かが飛んでくる。シュバルツを信じてても怖いものは怖いし、シュバルツがどっちに避けるかわからないから、舌を噛みそうだ。
「騙された。アレを渡したら用済みって、シャルル、竜の声が聞こえないのか?」
「え? あれもしゃべるの?」
「さっきから、ベラベラとうるさいくらいだ」
「まったく聞こえないし」
「回避は任されるが、何か攻撃手段はないか? シャルルに言っても無駄か?」
「あれ、倒しちゃっていいの?」
「俺は、回避しかできない。このままいたら、殺されるぞ?」
「シュバルツ。お姉ちゃんはね、ジョエルより強いっていう設定なんだよ。ジョエルは、ドラゴンとソロでガチ喧嘩ができる男だよ。なら、お姉ちゃんは、ドラゴンを倒せてもいいよね?」
「手段があるんだな?」
「ある。ダメージを与える確証はないけど、ある。但し、一回こっきりな上、使うと2、3日起きない」
「射程は?」
「見えれば、どこでも。但し、近いほど威力はあがる」
「よし、最大出力でいこう」
「巻き込まれたら死ぬから、シュバルツは、可能な限り私にくっついていること」
「了解だ。接近する。気を確かに持て」
シュバルツは、ドラゴンに向かって走り出した。時折り衝撃波が飛んでくるので、直線真っ直ぐとはいかないが、最短距離で進む。
元々、100mほどしか離れていなかったのだから、ドラゴンに近付くのは、すぐだ。衝撃波も恐ろしかったが、風切り音と共に鉤爪や尻尾がスレスレを通り過ぎるのが、怖い。迫力がありすぎる。遊園地のアトラクションの如く、座って見てるだけだけど、こちらは安全の保証はまったくないのだ。涙が止まらないが、目を逸らすのも許されない。
「カウントゼロに合わせろ」
そう言われて、出番を待っているが、そううまくはいかないのだろう。カウント3までいって、また5に戻ったりするのを繰り返している。
「もうこの辺でいいよ。的が大きいし、適当に合わせるよ」
多分、シュバルツは、私にドラゴンに触らせようとしているのだろうが、私はさわりたくはない。もう近いし、いいんじゃない? 最大出力行っくよー!
「カマイタチ!」
一応、シュバルツだけが入れた理由もあるのですが、書いた方が良かったでしょうか。
難しいですね。
次回は、意識を失った後の話を聞きます。
この小説、一人称のくせに主人公気絶しすぎだよ。




