81.閑話、ジョエル視点〈後編〉
不覚にも、また先に寝てしまった。真ん中のベッドには猫がいて、壁際のベッドに2人が寝ていたのだけど、今度こそ怒ってもいいだろうか。
「眠くなった時が、寝時なんだよ」
とシャルル。
「床側に俺がいないと、シャルルが落ちる」
とシュバルツ。
微塵も悪びれることがない2人に、目眩を覚えた。今日は昼寝をして、完徹しよう。
日中も、シャルルから離れられない。食料調達のため、時々は森に付き合ってくれるが、連れて行ったらいったで、2人とも何でも口に入れようとするので、目が離せない。魂の双子とは、この2人のことか。絶対にお似合いとは思わない!
毎日楽しそうにしているように見えたが、ある日、シャルルがヘタレた。わたしとずっと一緒は、ツライらしい。ショックだった。シャルルが、ずっと手を握っててと言ったのに。
実際は、目に入る範囲にいる程度で、手をつないでいるのは、シュバルツだ。それなのに、わたしが悪いのか。
元の時代に戻るためには、結婚式とやらが必要らしい。結婚と名が付く物など、冗談でもやって欲しくはないのだが、これでシュバルツがいなくなるとすれば、諦められる。
シュバルツが、シャルルと結婚式をするためだけに作ったという建物に来た。結婚式とは、なんなのだろう。冗談で作れるような代物ではなかった。実家をまるっと売りに出しても、作れるかどうかわからない。金額だけでなく、技術力が真似できない。
シャルルに好意を持っているのは、知っていた。だが、結婚式をするのは、シャルルを帰すためだ。帰してしまえばもう会えなくなるのに、それでもシャルルの希望を叶えようと言う気持ちに、わたしの方が上だと胸を張って言えるだろうか。
シュバルツが用意したドレスに身を包んだシャルルは、とても可愛いかった。わたしは、母に頼まなければ、用意できないだろう。
「ルルーが、こんな時まで可愛くて、腹立たしい!」
「ありがとう。ジョエルも、今日は、いつもより格好いいよ」
褒められても気は晴れなかった。これからエスコートして、シュバルツに渡さなければならないのだ。仮令、自分の方が劣っていても、負けたくないのに。
「俺の幸せには、シャルルが不可欠だ。シャルルなしには、楽しみも喜びも得られない。シャルルの幸せの為に尽くす。だから、俺と結婚して欲しい。俺を選んで欲しい」
とても共感した。
「新郎シュバルツは、シャルルを妻とし、病める時も、健やかなる時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、妻として愛し、敬い、この命ある限り真心を尽くすことを誓います」
シュバルツに、文句を言う気も失せた。
「新婦シャルル。あなたもまたシュバルツを喜びに充ちた時も、悲しみ深い時も、ともに過ごし、互いに支え合うことを誓いますか?」
「はい。誓います」
そうか。2人は両想いだったのか。道理で仲良しだった。異分子は、わたしだったのだ。
だが、そう思ったのは、勘違いだったのかもしれない。2人が何やら言い争っている。そして、シュバルツが無理矢理シャルルの口をふさいだ!?
気がついたら、剣を振り抜いていた。シュバルツだけを斬る予定だったが、避けられた。
「本日、私たちは母御の前で結婚の誓いを致しましたー。今日という日を迎えられたのも、シャルルを支えてくださった母御のおかげですー。これからは、2人で力を合わせて苦難を乗り越え、喜びを分かち合い、笑顔あふれる家庭を築いていくことを誓いますー。だから、もう俺に任せて消えるがいい!」
許さない。許せない。絶対に斬る。斬る。斬る。
「ジョエル、手!」
シャルルの言葉よりも、シュバルツだ。斬る。
そう思ったのに、シャルルには勝てなかった。
「ジョエル! 私を無理矢理抱きしめて! シュバルツから奪い返して!!」
剣を捨てて、全力で獲りに行った。絶対に逃がさない。絶対に離さない。力づくで、ガラス細工を奪う。優しく優しく包み込む。
目が覚めたら、トリスメギストスさんがいた。なんで、こんな人を抱きしめていたのだろう。
「ルルーは?」
「着替えに行ったよ」
「ここは、いつだ?」
「君の時代だ」
「帰って来たのか。そうか」
同じ姿で200年生きている妖怪を見ても、まったく実感が湧かなかったが、シャルルを見て、幸せな気分になった。やっぱりシャルルは、緑のワンピースがよく似合う。
「遅いぞ、シャルル!」
外に出たら、シュバルツがいた。少し育っているが、絶対にシュバルツだ。
シャルルに会えなくなるとしても希望を叶えるのだと、感動していたのに違った。騙された。もしや、全てまやかしだったのか。
剣はないが、今度こそ仕留めよう。シャルルも騙されているに違いない。タケルも走った。負けない。
結婚式場でも避けられたが、シュバルツは、攻撃を避けるのが上手い。タケルと連携して死角から攻めても、何故か避ける。攻撃に気付いた素振りがないのに、どうしても紙一重で避けられる。わざと大振りをしても、あえてギリギリで避けるのは、どういうことだろう。クセでは片付けられない、奇妙な動きだ。シュバルツの運動能力では、あり得ない。何の魔法だ?
フェイントをかける意味がない。正面から全力で魔法ごと斬ればいけそうだが、シュバルツだけでなく、タケルも死んでしまいそうだ。シュバルツを仕留めれば、タケルも笑って許してくれるだろうか。
シュバルツは、急に戦闘態勢をといて、シャルルのところに行ってしまった。もう少しで倒せそうだと思ったが、あちらも余裕が残っていたのかもしれない。惜しかった。
「ルルー。何でそんなに落ち着いているの? 奪い返して、って言っていたのに」
「え? 私は、ジョエルを迎えに行ったんだよ。ジョエルをこっちに戻すのが、最優先じゃん。後は些事だよ。確かに、シュバルツと結婚するつもりも予定もなかったけど、二代目シュバルツが夫じゃなくて、兄なら特に影響ないよね。とりあえず、お風呂入って、寝たいなー、って思ってるんだけど、もう寝てもいいかな?」
シャルルは、騙されてるとか何とかいう次元にいなかった。わたしをこちらに戻すという目的だけを持って、自分の結婚も口付けも、まったく考慮に入れていなかった。なんて危険な、なんて真っすぐな思いだろう。その中心に自分がいたことに嬉しくなるが、好意ではなく、贖罪だ。わたしの所為で、あんなことをさせてしまったのだ。わたしが怒るのは、筋違いだ。
自分の結婚をどうでもいいと言い切るシャルルを守るには、剣だけでは足りない。シャルルに人格矯正を求めるよりも、わたしが苦手を克服するべきだ。課題が、山のように積み上がった。確かに、このままでは大穴にも入り得ない。
次回、村に帰ります。変なものが増えてます。




