76.恥ずかしい歴史遺産
「やはり結婚式場じゃないかな」
先生が言うままに、付いてきてしまった。
城で充分海景色はお腹いっぱいなのに、あえての岬の見晴らしのいい結婚式場だ。こちらの世界では見たことのない教会風の建物があった。
「何コレ」
「なんだか知らないけれど、お嬢さんの趣味じゃないのかい? 博士の作った何かは、大体お嬢さん関連だ。心当たりはないの?」
「ある。あるが、違う」
ピンクの屋根に、謎の十字架が刺さっている。そんな物は、こちらに来て、とんとお目にかかったことはない。そもそも、結婚式なんて文化も聞いたことがない上、私の適当臭い結婚式場のイメージにぴったりの建物だ。きっと何かの拍子に話したんだろう。ただの世間話で憧れでもなんでもなかったのだが、私が欲しがっていると思って、作ってくれたに違いない。小っ恥ずかしい歴史遺産を増やさないでくれないか!
「ああ、もう、違うのに」
先生に先導されて、中に入れてもらう。今度こそ怪しいので、タケルは頭に乗せて、先生は触らない。それが大事だ。まぁ、先生なんて、頼まれたって近寄りたくもないんだけども。
白を基調としたツヤツヤてかてかとした材質の床と壁は、一体、どうやって作ったのだろうか。どう考えても、無人島に押し込められている人間の所業とは、思えないんだけど。
もう見るのも恥ずかしい。やめて欲しい。回れ右して帰りたい。
そのまま歩いて、チャペルに入ると、予想通りシュバルツが立っていた。
総ガラス張りのドーム型のチャペルだった。バージンロードの先には海が開け、城の姿も目に入る。室内にあるのは森だ。チャーチチェアの外側に植えられた木々は、天井を覆うように枝を伸ばし、溢れんばかりに花が咲き乱れている。スキルを使えば実現は容易かもしれないが、やりすぎだ。
「シャルル、待ってた!」
シュバルツが走り寄ってきたのを、手で静止する。
「ごめん、待って。シュバルツと何かすると、強制送還されるから。その前にジョエルを探さないといけないの。私のお母さんは、どこ?」
「あの人は、クロの村にいる」
「わかった。迎えに行ってくるから、ちょっと待ってて」
危ないだの何だの止められてしまったが、タケルに騎乗してしまえば、こちらの勝ちだ! 馬より速いから逃げ切れると思ったのだが、私がもたもたしてるから、同乗されてしまった。そうだ。頭だけじゃなく、身体能力も負けてたんだった! くう。シュバルツから離れれば帰還フラグが立たないなら、別行動の方が安全なのに。失敗した。
私が気を失っている間に、村に着いたらしい。宿の食堂のような部屋で、ジョエルに抱かれている状態で目覚めた。
「やっと見つけた。ジョエル、置き去りにして、ごめんね」
「迎えに来てくれると信じてたから、大丈夫」
第一段階クリアだ。良かった! シュバルツが一緒でも、気絶していればフラグが立たない。タケルも、グッジョブ!
「あのね。私、いつ帰るかわからないの。常にそばにいてもらっていい? ずっと手を握ってるくらいで、丁度いいの」
「え。あ。うん。わ、わかった」
よし、これで安心! 私が、うっかりジョエルの存在を忘れたりしても、ジョエルがフォローしてくれるだろう。
「もう、用事は済んだ?」
「あ、シュバルツ」
ヤバイ。シュバルツが、めちゃくちゃご機嫌ナナメな顔をしている。私はさっきぶりだが、シュバルツはどのくらいぶりに私に会ったのかわからない。それなのに、再会の挨拶も何もなく、ここまでかっとばしてきた。もしかしたら、休息もなしにタケルに乗っていたのかもしれない。不眠不休は、さぞかし辛かろう。
「ごめんね。シュバルツも気付いてるかもしれないけど、シュバルツと何かすると終了フラグがたつみたいだから、その前に用事を済まさないといけなかったんだよ」
「へえー。俺と結婚するより大事な用事なのか」
「結婚?」
「それなんだけどさ。結婚式をあげたら、今回はそこで消えちゃう気がしない? もう消えて欲しい?」
「結婚式?」
「そうか。折角用意したんだが、それならいらないな。シャルルは式をあげなきゃダメだと言ったが、ツガイになるのには、特に必要のないものだ」
「ツガイ?」
「あとね。ジョエルはお母さんなんだけど、キーリーっていうお父さんもいてね。結婚するかも、って言っただけで怒っちゃってさ。今、口もきいてくれなくなっちゃって、悲しいんだよ。お父さんの賛同がなくちゃ、結婚できないよ」
「そうね。お母さんも反対よ。断固反対するわ!」
「ごめん、ジョエル。今、シュバルツと話してるから、黙ってて」
「はい」
「シャルルは、俺と結婚するのが嫌なんだな」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ。デスフラグだ! シャルルが消えてしまう。シャルルが消えてしまったら、私はどうなる?
「そうじゃなくてさ。私は、シュバルツのお姉ちゃんになったつもりだったんだよ。夫婦じゃケンカしたら、それでサヨナラでしょ? でも、姉弟なら、ケンカしても、死んでもずっと姉弟でいられるでしょう? そういう関係だったらいいな、って思ってたんだよ」
怒らないでー。わかってー。伝わってー。
シュバルツは、ため息をついた。
「わかった。まだ早かったんだな? 今は、兄妹でいい」
やったー! 大勝利!!
次回、黒いシュバルツさん。




