73.閑話、ジョエル視点
シャルルに頼まれて、クロの家跡地というところに行くことになった。昔、黒髪の人間が沢山住んでいたところで、シャルルの先祖がいたかもしれないところだそうだ。
もう既に廃墟になっているようなところに、わざわざ行く意味はわからないが、シャルルがべったりくっついてくるのは、悪くない。
「ジョエル、絶対守ってね。先生を近付けないでね」
女扱いをされるのはどうかと、ここ最近は男装でいたが、女装に戻ったからくっついてくるのだとすれば、どちらが正解なのか、まったくわからない。本当に、シャルルは難しい。
「ここだ。ここだ。大分崩れてしまっているが、なんとか入れるようにしよう」
クロの家は、岩壁に人工的に穴を開けて作った洞窟だった。
中に入ると、壁や天井に異常はなさそうだが、遺留品は朽ちていた。これという見所も、黒髪の情報も何も残っていなそうだった。
部屋はいっぱいあったが、ただの四角い穴に朽ちた何かがあるだけだ。一つひとつ確認する必要はないと思うのだが、地下の小部屋に入ると、空気が変わった。黒髪の男が座っていた。
「シャルル!」
男がシャルルに飛びついて来たので、シャルルごと横に避けた。シャルルの家族かもしれないので、一応、反撃はしない。素人の様だから、慌てて倒す必要はなさそうだった。
「え、と。シュバルツ?」
滅多に人の名前を覚えない、シャルルが名を呼ぶと言うことは、知り合い確定だ。シュバルツ? これが、あのシュバルツ?
見た目は兄妹のようだが、この年の兄妹にしては、妙に親しげで馴れ馴れしすぎはしないか? 一体、どんな仲なんだ。
イライラするが、兄妹や友人関係にまで口出しするのは、やりすぎだ。久しぶりの再会で、気分が高揚しているだけかもしれない。シャルルは、殊の外、そういうところがある。兄だったら、似た様な性質なのかもしれない。
そんな訳あるかと思いつつ、見守っていたが、決定的に許せない言葉が飛び出した。
「シャルルと一緒なら、どこでも構わない。俺のツガイがシャルルなら、ここでもいい」
「ルルーは、お前のツガイじゃない!」
それだけは、許してたまるか! シャルルを引き寄せて隠した。
「ここは、クロの家だ。クロのツガイが暮らす場所だ。シャルルは、出荷するには育ち過ぎている。シャルルにツガイがいないなら、俺のツガイは、シャルルだろう」
「違う!」
シュバルツの顔は冷淡だった。シャルルが好きでツガイになる訳じゃなく、渋々一緒になってやろうということなのか? そんなもの、より一層許せるものか。
「ここはシュバルツたちの世界だから。ジョエルの世界の常識を持ち出しても、通じないんだよ」
シャルルの反応は、より淡白だった。なんでそんなに無頓着なのか。
それとも、あれか。前にわたしに、シュバルツと結婚しろと言っていた件だ。土壇場でわたしとツガイにする予定だから、自分は関係ないとでも思っているのか? シャルルの結婚を阻止するためなら、誰と結婚するのも辞さないけれど、結婚する必要性がまったく感じられない。
「これが、海の城でルルーが体験した現象ね? でも、シュバルツは、じいさんじゃないじゃないの!」
「シュバルツは、そのうちじいさんになる予定なんだよ。前に会った時は、もう少し小さかったよ。可愛かったんだよ。そうだ。シュバルツ、ちょっとこっち来て」
シャルル自らが、危険人物に抱きついた。何でだ!
だけど、兄妹のようにしか見えない2人が、まるで姉弟のような会話をしているのに気付いた。見た目が大きいだけの子どもだというなら、わたしが大人気ないだけだ。そうは思うのだが、やっぱり許せない。なんとか引き剥がせないかと、シャルルの服をぐいぐい引っ張った。
「シュバルツを助けて欲しいんだよ。ここの施設から連れ出して、シュバルツが安心して暮らせる場所を見つけて欲しいの。前は3日しかいられなかったの。時間がないんだよ」
シャルルから、断りにくい依頼をされた。シュバルツと一緒に暮らしたいという話ではなかった。これは、完遂しないといけないものだ。
「連れ出すのは簡単だけど、暮らす場所は難問ね。以前いた場所には戻せないとすると」
シュバルツの世界の知識がない。どうすればいいのだろう。
「まあ、でも時間がないのなら、とりあえずここを出ましょう。先々のことは、出ながら考えるしかないわね」
洞窟の作りは、入ってきた時と同じだ。ドアが付いていたり、鍵がかかっていたりしたが、面倒なので全て蹴破って行くことにした。やりすぎると洞窟ごと崩れるが、シャルルだけは守りきれる。問題ない。
2つドアを蹴破った辺りで人に見つかったが、ドアごと抜く。黒髪以外は、死んでも気にしない。シャルルにさえ見えないようにすれば良い。どんどん先に行こう。
洞窟から出て、しばらく歩くと、絶好の窪みを見つけた。シャルルを窪みに隠して、シュバルツに剣を貸した。
「用を済ませてくるわ。ここで隠れて待っていてね。何かあれば、大声で呼べば戻るから、それまでは、これでシャルルを守っていてね」
単身、洞窟に戻った。
追手を差し向けようとしていたのか、入り口に男が沢山集まっていたので、まとめて殴り飛ばした。何人か混ざっていた黒髪は、見逃す。
「あなたたちは、助けてあげるから、仲間を集めて入り口に集合なさい。黒髪は、全員助けてあげる」
男たちは、散って行ったので、わたしは端から一階の部屋を開けて行った。黒髪の女だけの部屋は、話すだけで済んだけど、男が一緒の部屋は面倒だった。遊んでるだけの男は、まだマシだったけど、黒髪の女を人質にしようだなんて、うっとうしい! シャルルの血縁だったりしたら、どうするんだ!!
一気に近寄って、両腕を掴んでしまえば抵抗もないのだが、手間をかけさせられた分、容赦する気も起きなかった。
全ての部屋を確認し、いらない男を殲滅して、黒髪を余さず全員集合させた。
「これから全員で、ここから出ましょう。ついて来たくない人は残ってもいいけれど、その後の手助けは一切できないわ」
殲滅した男に未練を示す子もいたけれど、結局、全員ついて来た。
ごめんね。先に言ってくれたら、多少考慮したんだけれど、もうやってしまったものは、手遅れだ。だけどそれは、他の子と遊んでた男だし、忘れた方がいいと思うよ。
「ルルー、お待たせー。無事で良かった」
黒髪をぞろぞろ連れて戻ると、2人仲良く窪みに座って待っていた。待ってろ、と言ったのは自分だということを棚上げして、イラっとした。
「ルルーの親戚かもしれないでしょう? そのままにしておくのも忍びないから、連れてきたの。それに、シュバルツ1人を隠すより、沢山いたらみんなで守りあえるかと思ったのよ」
特にあてもないので、村に行ってみることにした。途中の街で物資を調達したり、その辺りで肉を調達しながら徒歩で行くのだ。遅々として進まない。30人くらい抱えて走ったら良かったかもしれない。
「おかしいわね。森はあるのに、村がないわ」
目標の村は、大して開発もされていないような場所だった。家さえ建ってれば絶対ここだと言えるくらい見覚えのある場所なのに、村がなかった。街道がない時点で怪しんではいたが、田舎すぎて無視されている訳ではなかった。
「あの村、最近できた村だったんだね」
「丁度いい。新しく作ればいいだろう。最初は大変だが、変なヤツらがいない方が安全だ。必要なら、ここにも施設を作る。シャルル、道具を出してくれ」
今まで、シャルルとイチャイチャしてるだけで、何もしてこなかったシュバルツが、急にリーダーになった。黒髪のリーダーは誰でもいいが、わたしとシャルルは、指揮系統に入れるな!
絶対ダメだと主張したのだが、シャルルはシュバルツと同じテントに入ってしまった。確かに姉弟なら同じテントでも構わない。だがシュバルツは、ツガイがどうとか言っていた。あまり詳しく説明するのは憚られ、言い負けたわたしも悪いが、本当にシャルルは年上なのだろうか。
仕方がないので隣のテントで聞き耳を立て、いざとなれば、助けに入らないといけない。
隣のテントの声は筒抜けだが、全く会話の内容がわからなかった。エックスオダイニュウって何だ? ヒナワジュウって何だ? 話が右から左に飛んでいるような気がするのに、シュバルツは楽しげに相槌を打ち、時には、意味不明な質問をして、謎の回答を引き出していた。
あの会話に混ざれと言われると、確かに対応に困るが、だからと言って、2人を放置する訳にはいかない。いかないのだが、シャルルの声を子守唄にしてしまった。
一生の不覚だ。シャルルを放って寝てしまうなんて! だが、これまでも大して寝てなかったし、限界だったんだ!!
結局、2人は謎話に興じていただけで、何もなかったようだが、本当なのか、確かめる術はない。八つ当たりを兼ねて、木を根っこごと引き抜いたり、鳥を投石で落としたりして過ごした。誰かの役に立っているうちは、八つ当たりを指摘されることはない。
だが、夕飯を食おうと皆が集まる場所に行くと、シュバルツに話しかけられた。
「シャルルは、もう帰ったぞ。お母さんは、いつまでここにいるんだ?」
「帰った? どこに???」
「シャルルが何処から来て、何処に帰るのかは、俺は知らない。お母さんの方が、詳しいだろう」
「場所はわかるけど、帰り方はわからない」
「そうか。俺は、ここが片付いたら城に帰るが、お母さんは好きなだけここにいればいい。お母さんの住居も用意するよう伝えておこう」
「ありがとう」
何も有難くないが、そう言うしかなかった。
こちらに来た時も突然だった。シャルルがこちらに来ようとしている気配は感じなかった。帰るのも同じくらい突然だったのかもしれない。わたしは、どうしたら帰れるのだろうか。シャルルが迎えに来てくれるといいけれど。
次回、ジョエルを探します。
母さんは、忘れなかった。




