69.閑話、パーカー視点
シャルルちゃんが遊びに来ると聞いて、仕事を休んで、家で待っていた。余計なことに、兄たちも一緒である。ベイリーなんて、村まで会いに行ったりしていたんだから、今日は仕事に行けばいいものを。
シャルルちゃんの到着の知らせを聞いて、ダッシュで玄関に向かった。走るのなら、俺が1番だ!
「シャルルちゃん?」
見てみて、君の薬を愛用しているよ!
アピールしようと思ったのに、何故かシャルルちゃんは、伏せた。シャルルちゃんが開発した薬なのに、使った客の状態が気に入らないって、どういうこと? 倒れるほど似合わなかった? また、よくわからない地雷を踏んでしまったのか?!
「あなた達、一度部屋に戻りなさい。呼ぶまで出てこないこと」
母さんに命令され、渋々引き下がった。
兄と一緒に部屋で待機していたら、俺だけ母さんに呼ばれた。シャルルちゃんのお茶会に参加させてもらえるらしい。やった! と、喜んだが、依頼内容が微妙だった。王子様の仮装をしないといけないらしい。
どんな格好か、わからないうちは良かった。だけど、服を見繕われた後、どうして俺が選ばれたかを察した。1番簡単に陥落させられる、と思われたのだろう。
上は普通のスーツだが、下は蛍光ピンクとグリーンのタイツの上に、オレンジのバルーンパンツを履く。そこに赤い花を乗せた背負子を担ぐのだ。意味がわからない。仮装にしても、何を目的とした仮装なんだよ。王子様って、なんなんだ!
「シャルルちゃんの地元では、王子様が女の子の憧れなんですって」
「本気? 絶対聞き間違いか何かでしょ」
「でも、ジョエルが、こんな格好で馬に乗ったらいいって、言っていたの。貴方たちのことをジョエルと見間違えていたから、貴方でもいいんじゃないかしら。それとも、ペイトンに譲る?」
「行く」
不安しかないが、兄に譲るのも癪だ。どうせ兄が着ても俺と同じ顔だと言われるくらいなら、自分がやって話す機会を逃さない方がマシだろう。
「シャルルちゃん。王子様は、これであっているかしら?」
多少の間違いはあったようだが、王子様の話は本当にしたらしい。
「上半身は、基本白で、金糸銀糸で縁取られてて、袖がレースでバッサバサで、胸元スカーフがビラビラで、、、かぼちゃパンツは、2色の縦縞で赤と黄色だったかな? もしかしたら、紺のチュニックを着てたかもしれないし、そうそう! 赤いマントを付けて、王冠かぶって、、、すみません、タイツと靴は、どんなだったか、記憶にないです」
女2人で、真面目な顔をして話し合っていたが。
「やっぱり、それ、褒め言葉じゃないよね!」
バッサバサとか、ビラビラとか、憧れに対して使う言葉とは思えない。シャルルちゃんは、会話に独特のセンスを発揮することがあったが、きっとこれは、シャルルちゃんの憧れではない。百歩譲って、シャルルちゃんの友達がこれを好きなんだとして、シャルルちゃんの好みの話ではなかったのだろう。
「ありがとう。参考になったわ。張り切って作るから、2人で並んで歩いてね」
俺の役目は、終了した。だけど、部屋に戻る前にお願いしておいた。
「俺の分も作ってね」
「勿論よ」
母さんは、昨晩、とても張り切ったようだ。朝食を食べに行ったら、王子様の服が5着並べて置いてあった。
昨日の仕事の報酬で、1番先に選んでいいと言われたので、上が白のロングトレーナーで、下が脛の辺りで絞られた黒のバルーンパンツ、黒のタイツに黒ブーツの王子様服を選んだ。レースとリボンが付いていない服は、これしかなかった。
次に、ジョエルが出て来たので、止めた。
「お前の服は、もう決まっている。選ぶ必要はない」
「なんでだ」
「この服だ。脛を出して歩ける男は、お前くらいだ。兄貴たちに、これを着せるつもりか?」
「そういうことなら、それでいい。わたし用の服なんだろう」
母さんが、そんなうっかりをするハズがない。ジョエルの服だけは、わかる。何故、ジョエルの服だけわかるのか、もう少し考えれば良かった。
エメリーはモスグリーン、ベイリーは茶色の色違い王子様。白の袖レースシャツにそれぞれの色のベストとバルーンパンツなのだが、タイだけでなく、至る所にリボンが付いている。色付きで、1番目を引く服だとは思ったが、リボンの量が俺には耐えられなかった。
ペイトンは、ハイネックのトレーナーにバルーンパンツ。全身黒だ。金髪なら映えたかもしれないが、今は髪も黒い。パンツが1番ロング丈なのは惹かれたが、服のデザインもへったくれもなく、黒いという印象しか持てなそうな気がした。敵は、あのシャルルちゃんだ。絶対、黒いねーとしか言わないだろう。
着替えたら、出陣だ。
思わぬ反応を得た。
「きゃあぁあ。すっごい、格好いい!」
シャルルちゃんでなければ、よくある光景だが、基本困り顔しか見せないシャルルちゃんが、喜んでいるだと? 服をかえただけなのに??? 服が大事だったのか!
だが、そう思ったのは、まだ早かった。
「大好きです。格好良いです。メロメロです。私も着てみたいですー」
「「「「「「え?」」」」」」
格好良いって、俺のことじゃなかったの? なんで? 服だけ?
「え? これ、女性用ですよね? モデルが男なだけで」
そうだったのか。試着を頼まれたから、てっきり男物だと思っていた。そういえばシャルルちゃんは、ジョエルに着せたいと言っていたのだ。王子様が女物でも、なんの不思議もなかった。
あっという間に、シャルルちゃんは真っ白王子様になって戻ってきた。納得した。王子様は、女の子の服だ。とても可愛い。
ここで、大事な質問が降ってきた。
「ところで、参考までに聞くのだけれど、どの息子が1番いいかしら?」
勇んで母さんの横に並んだ。俺だ! 俺を選んでくれ!!
「どのジョエルも格好いいですけど、私は、このジョエルが1番好きです」
このジョエルって、何だ? 選んだのは、ジョエルだった。
「ですって。良かったわね、ジョエル」
ジョエルの服だけ決まっていた理由が、わかった。母さんは、ジョエルの味方だったのだ。昨日、生け贄になってやったのに、なんてことだ。
「酷いな。母さんは、ジョエルの味方だったんだね」
勝てないのは分かっているが、非難した。
「5人とも、大事な私の息子よ。特定の誰かを贔屓するつもりなんてないのよ。でもね、シャルルちゃんを捕まえようと思ったら、誰が1番有利だと思う? ジョエルがシャルルちゃんを連れて帰ってきてくれたら、誰のお嫁さんになっても構わない、と思っているのよ」
背筋が凍った。まったく勝てる気がしない理論だった。母さんに反発したら、その最終決戦に混ぜてあげないけどね、ということなのだろう。
しかし、それはシャルルちゃんにとっての幸せなのだろうか。母さんに任せておけば、大体上手くいってしまう実績を考えると、不安が大きくなった。
次回、新章入ります。




