68.閑話、オーランド視点
誤字報告ありがとうございました。
気付くの遅くてすみません。
修正しました。
私は、オーランド。34歳。生活用品の行商と、各種ギルドの連絡要員をしている。
私の1番の収入源は、黒髪の村にいる冒険者ジョエルさんへの手紙の配達だ。
黒髪の村は、多少辺鄙なところにはあるが、自前で馬車が用意できるのであれば、そう遠くない好立地にある。しかし、配達先のジョエルさん本人が偏屈で、話しかければ無視されるし、機嫌を損なえば、脅され殺されかけるとなれば、全く人気のない仕事になった。
そんな人物を抱える冒険者ギルドの正気を疑うのだが、高ランク魔獣の討伐が可能な人材を切れば、多くの人が困るのも事実。やりたくはないのだが、皆、ジョエルさんに不興を買って、人がいないと泣きつかれては、どうしようもなかった。
いくつかの注意事項を頭に叩き込み、村へ行った。ただ手紙を渡すだけで、3ヶ月くらいの稼ぎと同等なのだ。上手くいけば、いい仕事なのは確かだ。
注意事項は、主に2点。
ジョエルさんの容姿を褒めないことと、仲間のシャルルさんの容姿を褒めないことだそうだ。勿論、貶してもいけない。
大した話ではなかった。なんで、そんな注意が必要なのか、まったくわからなかった。なんで、それで死人が出るのか、まったくわからなかった。
だけど、実物を見て、これは常識は通用しないな、ということだけは、わかった。
ジョエルさんは、豪奢な金髪に宝石のようなキレイな瞳。スラリとした均整のとれた身体付き。見たことのない極上の美女だった。女性としては高すぎるほどの高身長ではあるものの、実際には男性なのだから、致し方ない。これで、心が女性だというなら納得だが、男性だというのだから意味がわからない。だったら何故、そんな格好をしてるんだ! その出立ちで、高ランク魔獣を討伐すると言われても、全く信じられない。何がどうして、そうなった。
びっくりして放心しているだけなら、勘気に触れないらしい。初仕事は、完遂した。
何度か通う間に、問題のシャルルさんを見かけることもあったが、フードを目深に被っている上、無言で歩いているだけだ。あれだけきっちり隠しているのだから、中身に問題があるのだろうが、配達仕事に何の影響もないことだ。前任者は、一体、何をしていたのだろうか。
だが、帰ろうとして、宿屋を振り返った時に、大変な物を見てしまった。2階の窓から外を見ている女の子の姿だ。誰に確認した訳ではないが、あれがシャルルさんに違いない。フードをかぶる理由が、一目でわかった。
呆けて見上げていたら、襟首を捕まえられていた。ジョエルさんの仲間のキーリーさんだった。殺されるかと思った。
一時期、シャルルちゃんが、フードを被らずに過ごしていた。愛嬌のある娘さんで、本人には何の問題も感じないのだが、少し話しかけただけで、仲間の2人に睨まれる。軽く睨まれるのではない。挨拶程度で、殺意を向けられる。何もしていないのに、誘拐犯に仕立てあげられそうになる。理由はわからないでもないのだが、恐ろしくて縮み上がる。担当を外れたくなる気持ちが、よくわかった。
そんな状態であるのに、シャルルちゃん本人にジョエルさんたちは抜きで、行商について行きたいとお願いをされた。
ジョエルさんと一緒であれば、構わない。ジョエルさんの許可があるなら、構わない。だが、許可を取ってはいけないという条件付きだった。その上、断ることも許してくれないらしい。詰んだ。
状況説明と、行き先と、謝罪をしたためた手紙を宿のご主人に託し、出発した。
この辺りで見つかってしまえばいい、という気持ちと、既に処刑ラインを超えてしまっているのではないか、という考えがせめぎ合う。
連れ出した時点でアウトだが、連れた先で事件に巻き込まれてもいけない。無事生還するためには、どうしたら良いのだろうか。
こんな仕事をしているのだ。多少は腕に覚えもあるが、シャルルちゃんを守りきる自信は、まったく持てない。護衛として連れて来たのは、ちっちゃい男の子だった。護衛対象が増えた気分にしかならなかった。
誘拐した訳ではない、という弁明のために、移動速度を落とすことにした。毎日、隣街にしか移動をしない。何も起きないうちに、早く迎えに来て欲しいのに、ジョエルさんは来なかった。追い越されてしまったのだろうか。
なんだかわからないが、パンを売ることになった。一銭の得にもならないが、命を天秤にかけてまで断ることではない。だが、シャルルちゃんの手伝いは、断固として断るべきだった。こともあろうに、シャルルちゃんは、フードを取って、頭を晒したのだ。その上、人に見せてはいけないのではないかと思われるスキルを披露している。
ジョエルさんがいても、どうにもならないのではなかろうか。そう思われるほど、人が殺到した。ジョエルさんに殺される前に、暴徒に圧死させられるかと思った。
パンどころか、私の商品もあっという間になくなった。残るのは、毛染め剤だけだ。急いで片付けを済ませ、店舗に避難させていただくことにした。
だが、避難しても無駄だったらしい。シャルルちゃん目当ての誘拐犯が、店の中になだれ込んできた。人数が多すぎる。止められない! 万事休すかと思った瞬間、男たちは帰って行った。タケル君が、何かしたらしい。どうにかできるなら、私が突き飛ばされる前に止めて欲しかったが、シャルルちゃんが無事だったのだから、何も言うまい。彼は、シャルルちゃんの護衛以外、する気はないのだろう。
長居すれば、こちらにもご迷惑をかける。宿に撤収した。
もう商品もなくなってしまった。急ぎ最終目的地に 向かった方がいいだろう。
そう話し合いをしたはずなのに、シャルルちゃんとタケル君は、昨日のパン屋に行ってしまった。止める間もなかった。タケル君は、姿形まで変わっていたが、あれは一体どうしたことだろう。あれが本来の姿なのだろうか。
折角、旅支度を済ませたところだったのだが、もう一度、馬車を宿に預け直して、パン屋に走った。
幸いにも、パン屋に着くと、シャルルちゃんとタケル君は無事な様子で、お茶を飲んでいた。なんだか知らないが、問題は解決したそうなので、今度こそ街を出る。急いで出る。この街は鬼門だ。
次の街こそ、最終目的地ジョエルさんの実家がある。ジョエルさんの実家に連れて行くだけなら、誘拐ではないという屁理屈だ。大事な言い訳だ。ジョエルさんが許してくれなかったら、奥様に助けて頂こうという、保険付きだ。シャルルちゃんさえ連れて行けば、味方になって下さるだろう。
「いらっしゃい、オーランドさん。シャルルちゃん? どうしたの? 何かあったの???」
やっと着いた! 無事に辿り着けた!!
着いたはいいのだが、シャルルちゃんの様子がおかしい。シャルルちゃんは、奥様にお任せして、エメリーさんたちと、商談させていただくことになった。
商談とは言っても、話すことは特にない。シャルルちゃんの名前を出せば、値切られることもなく、即決だ。途中で、パーカーさんがいなくなってしまったが、売る量は変わらなかった。
当初は、髪を黒くする染料なんて危険なものを買う客はいる訳ないと思ったし、そんな物に高額な値を付けたシャルルちゃんの言葉に耳を疑った。だけど、ここに持ってきたら即決で売れたし、宣伝までしてくれて、他所でも売れるようになった。
ジョエルさん抜きで、シャルルちゃんに頭が上がらなくなった。ジョエルさんへの配達も、シャルルちゃんを介すと簡単に渡せるようになったし、今となっては、私の商売は、シャルルちゃんなしでは回らなくなっているかもしれない。
商談を終えて部屋を出ると、ジョエルさんがいた。平身低頭平謝りした。ジョエルさんは何も言ってくれないが、怒っていることだけは分かる。謝っても許してもらえないのもわかる。だが、謝ることしかできない。
永遠とも思える時間をシャルルちゃん直伝の土下寝で過ごしていたが、奥様に助けて頂き、無事、帰ることができた。目標であった、生還を果たすことができた。今までで1番の売り上げ付きで。
そろそろ、これからの生き方について、真剣に考える時がやってきたようだ。
これを書きたいだけの五章でした。
満足しました。
もう一本閑話を入れて終了です。
二章と同じ内容になるので、おまけは付けません。




