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死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります  作者: 穂村満月
第五章.空虚無用

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66.毛染め剤のお客様

 到着が遅かったので、昨日は宿で寝ただけだが、また新しい街に来た。今日は、おじさんの太客のところに毛染め剤を売りに行く。やっと本題がやってきた!

 村とも、昨日の街とも違う、とんでもない地域に来てしまった。住宅地に家が沢山あるのだが、とても家とは思えない建物ばかりなのだ。ヴェルサイユ宮殿ほど大きくはないが、装飾は似たような建物が並んでいる。3〜5階建てのマンションか、小学校みたいなものが、一軒の家なんだってさ。あるところには、あるんだね。こんなところなら、毛染め剤を高いと思わない人が住んでても、納得だわ。

「おじさん、こんなところに私なんて連れてきちゃって、大丈夫? お客様に失礼を働くよ」

「うるさい人もいるけれど、今日行くところは大丈夫だと思うよ。優しい人たちだし、シャルルちゃんに会いたがっていたから」

 会いたがっていた? もしかして、凄腕薬師を期待されている? 無理だよ。毛染め剤の作り方は知っているけれど、どうして染まるのか聞かれても知らないし、開発中のエピソードもないし、新しい商品の依頼をされても困る。そういう話は、弟子にしてくれないと! 本当に行って大丈夫なのだろうか。

 おじさんの後ろで、置物になっていよう。耳と口がないことにしよう。そうしよう。フードを目深にかぶって、地面だけを見て、ついて行った。



「いらっしゃい、オーランドさん。シャルルちゃん? どうしたの? 何かあったの???」

 聞き覚えのある声に前を向くと、お母様が立っていた。相変わらず、可愛らしいお顔立ち、優しいお母様だ。

「お母様? ここのおうちは、お母様の?」

「そうよ。私の家よ。そして、シャルルちゃんのおうち。お帰りなさい、シャルルちゃん」

 お母様の家なら、ジョエルの実家だろう。絶対、私の家でも、シャルルの家でもない。私の家だったらいい、とは思うけどね。

「ありがとうございます。お母様」

 でも、お母様の髪は金色だった。お客様ではない。それとも、戻ってしまったので、商品の到着を待っていたのだろうか? そう気付いたところで、騒々しい物音が響いた。

「シャルルちゃん?」

「シャルルちゃんだ」

「ようこそ」

「おかえりー」

 ジョエルが、4人も出てきた。みんな頭は黒かったが、どう見ても全員ジョエルだ。

 先日、分裂したらいいのにとか言ったから、本当に分裂して増えたのだろうか。なんでもできるって思ってはいたけど、ここまでしなくていいのに。

「お母様、ごめんなさい」

 なんの役にも立たないが、誠意の土下座だ。

「どうしたの? 息子たちの髪色が気に入らなかったのかしら。あなた達、一度部屋に戻りなさい。呼ぶまで出てこないこと」



「うふふふふ。シャルルちゃん、違うのよ。あれはジョエルじゃないわ。ジョエルには4人兄がいるの。5人兄弟なのよ。似ているけれど、よく見ると、ちょっと違うのよ」

 お母様と、久しぶりのお茶会だ。

 この世界では、お茶会はドレスを着ないといけないのだろうか。私の部屋のワードローブというのを見たら、凄まじい量のドレスが入っていたのだけど、私も分裂することを望まれているのだろうか。お母様が大好きだし、恩も感じているので、応えられそうにない期待が重い。辛い。悲しい。

「すみません。ジョエルは超人だから、ひょっとしてと思ってしまったのです」

「最近のジョエルは、どうかしら」

「あ、ちょっと前に海に連れて行ってもらったんです。お土産があるので、後で渡しますね。

 ジョエルはどうしてか男装で出かけたんですけど、少し目を離したら、お姉さんに取り囲まれて、宿もお姉さんだらけになって、すごかったんですよ。ジョエルは、お嫁に出すよりも、嫁をもらう方がいいんじゃないかな、と思いました」

 さりげないフォローもしといたよ! 次は、女性の釣書がもらえるようにね。

「、、、。ジョエルの男の姿、シャルルちゃんは、どう見えたかしら」

「キラキラしてました。王子様みたいでした。真っ赤なバラを背負って、タイツの上にかぼちゃパンツ履いて、白馬に跨っても似合うだろうな、って思いました」

「それは、格好良いのかしら?」

「そうですね。私の地元では、女の子の憧れだったと思います」

「ちょっと待ってね」

 お母様は、部屋の外に行ってしまった。


 お母様は、偽ジョエルに王子様の扮装をさせて連れて来た。

「え? 本当にコレでいいの?」

などと、こそこそ話してるのが、聞こえてる。私は、また失言をしたようだ。

「シャルルちゃん。王子様は、これであっているかしら?」

 急遽用意した所為だろう。彩りがチグハグだった。タイツなんて右と左で色が違う。蛍光ピンクと蛍光グリーンだ。笑わせにきてるとしか思えない。お母様が、真剣な顔で悩んでいる風で、笑える雰囲気ではないのが困る。一体、これは何の時間だ。

「上半身は、基本白で、金糸銀糸で縁取られてて、袖がレースでバッサバサで、胸元スカーフがビラビラで、、、かぼちゃパンツは、2色の縦縞で赤と黄色だったかな? もしかしたら、紺のチュニックを着てたかもしれないし、そうそう! 赤いマントを付けて、王冠かぶって、、、すみません、タイツと靴は、どんなだったか、記憶にないです」

「やっぱり、それ、褒め言葉じゃないよね!」

 そうだね。童話のイラストを昔見たなー、って言う薄っすらとした記憶で話したんだけど、リアル王子様が出てくると、本当にこれでいいのかな? って、私も思ったよ。偽ジョエルもイケメンだったのに、今は面白さが全面に主張している。もうどうにも修正できない感じだ。

「ありがとう。参考になったわ」

「参考?」

「私ね、服飾のお店をやっているの」

 店! それはヤバイ。これを流行らせられたら、困る。腹がよじれる。外に出られなくなるよ!

「お店には出さないで下さい。ジョエルにしか着こなせないと思います」

「そうね。張り切って作るから、2人で並んで歩いてね」

 えっ、私も着るの? いや、ジョエルにだけ着せるのは申し訳ないけれど。え? 着るの???

次回、王子様が増えます。

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