62.魔法薬の作り方
「なんで何も言わずに帰ったかな?」
いつも通り毛染め剤を作っていたら、10日くらい前にお世話になってたトリトリ先生が、遊びにやってきた。
「バリケードが邪魔で、戻れなかったからだ」
「ジョエルと歩いてるのを見つかって、すごい怖かったもんね。ジョエルを女装させて、実は女でした、って言って、なんとか逃げてきたんだよー」
「こっちだって帰る予定がないところを強行軍で帰って、死ぬかと思ったんだからな」
「それに、海に着いた時に言ったよね。置いて帰るって」
「「計画的だったのか」」
「まぁ、過ぎたことを言っても、仕方がないね。お嬢さんが、オレの話を聞く訳もない」
「学習したな」
なんか失礼なことを言われている気がする。別にいいけど。
「気を利かせたんだよ。あれだけお姉さんがいたんだもん。後は若い人に任せて退散したんだよ。モテモテ先生は、結婚式の招待状でも持ってきたのかな? 仲人を探してるなら、相談に乗るよ?」
「仲人って何だ?」
「知らない」
「「、、、、、」」
「オレの理想は高いんだよ、お嬢さん。今日は、嫁よりも配達と教授しにきた。忘れ物だよ」
先生は、大量の荷物を浮かべて持ってきていた。
私は体内に仕舞えるからいいけれど、そうじゃない人はそうするのか。やっぱり魔法は便利だね。
「何これ?」
「薬草問屋で買い物したんだろう?」
「ああ!」
そういえば、キーリーが何か買っていた。アレか。
「何買ったんだろう」
箱を開けて、ゴソゴソ始めたら、先生が頭を抱えていた。
「興味のある事柄で、それなのかい? 何をしたら響くのか、見当もつかないな」
毛染め剤をキリのいいところまで終わらせたら、先生による魔法薬教室を受講することになった。
「各種薬草や触媒を使って作るのが基本の魔法薬の作り方なのだが、材料を揃えるのが面倒になってしまってね。オレの場合は、材料を魔法で精製するところから始める。このように」
先生は、聞き取れないほど早口で何か言うと、指先から緑のドロっとした液体が出てきた。
「気持ち悪っ」
「っ。これができないと話が始まらない。練習してみよう。手を貸してくれるかな?」
先生は手を差し出してくるけれど。
「セクハラは、ノーセンキューですよ」
私は、手を差し出さなかった。
「違うよ。もう嫌がられてるのが骨身にしみたから、やらないよ。魔力の動かし方を指導したいんだよ。頼むよ。手を握らせてよ」
「、、、、、」
「今まで大変失礼なことを致しました。お許し下さい」
「次は、ないからね」
「寛大な御心に感謝致します」
「お前ら、本当にそれでいいのか。おかしいだろ」
先生の手にふれたら、何か気持ち悪い物が身体の中に入ってきた。
「何コレ。最悪に気持ち悪い」
野球のボールが入ってきて、身体の中をぐるぐる動き回っているようなイメージだ。痛みはないんだけど違和感がすごくて、気持ち悪い。
「オレの魔力だよ。お嬢さんの型に大分寄せてるから、害はないハズだ。身体の中で動いているのは、わかるだろう?」
「うーわー。先生、腕だけにしてよ。気持ち悪いって。吐きそうだよ。無理だよ」
「腕だけ? なかなか高度な要求だな。オレは兎も角、お嬢さんは自分で覚えるんだよ? できるのかい?」
こんな気持ち悪いのは、無理だ。耐えたくない。耐えずに練習する方法が必要だ。そうだ。私が耐える必要はない。
「ぐうっ」
「ちょっと待て!」
私は、先生の真似をして、自分の魔力を先生に放り込み、身体の中をぐるぐる動かした。なるほど。やり方は理解した。
「何をするんだ、お嬢さん。オレを惚れさせたいのか?」
「いや、まったく。これっぽっちも」
人にやれと言うヤツがやれ! と思っただけだ。惚れさせたいなら、私だってもう少し人を選びたい。これという人は、思いつかないが。
「型を合わせていない魔力を入れてはならない。気持ち悪い程度で済まされないんだよ」
「シャル。手を離せ。惚れるって、何だ?」
繋いでた手をキーリーに離させられた。
「お嬢さんの才能だよ。特殊なのは理解したつもりだった。だが、何の予備知識もなしに、オレの魔力障壁を突破するとは、想像以上だ。惚れるしかないだろう」
舞台で演劇でもしてんのかい? という発声とポーズを決められても、ねぇ。いらないよ。
「「「惚れなくていいよ」」」
「続きをしよう。もう好きに魔力を入れてくれて構わない。こちらで対応する。そちらの方が早そうだ」
やったね。自分の中に魔力を受け入れなくていいなら、頑張れそうだ。一気に終わらせてしまおう。
「これだけ自由に動かせれば、魔力の存在は認識できているよね? 次は、これを属性毎に分離する。お嬢さんは風属性に強い。まずは、風属性を分離してみよう」
先生が、何度か風属性を分離しては戻すことを繰り返してみせてくれたので、真似してやってみる。ミックスジュースから、りんごジュースだけ抜き出すような作業だ。即座にできる先生はおかしい。何かコツがあるのだろうか?
混ざった何かを分けると言えば、分留か? 再結晶か? クロマトグラフィーか? 抽出や昇華だと面倒が起きそうだよね。もっとパッと分けれる簡単な物はないか? そうだ、砂鉄! 田平が集めてた砂場の砂鉄! 風属性だけがくっつく磁石があればいい。磁石で集めて掃除機で吸うイメージで。風ちゃん、集まれ〜。
「何をした?」
「ん? 風属性だけ分かれてませんか?」
「分かれている。かなり高純度だ。何故、できる?」
「先生が、やれって言ったんだよね」
「言ってできた生徒は、お嬢さんだけだ」
「先生、ひょっとして教え下手なの?」
やれと言って、実際にやって見せてはくれたけど、コツも何も説明はなかった。そうか。たまたまできた人しか、できる人がいないな。
「オレは、ただの研究者だ。教えを乞いに来たヤツは山程いるが、教えるのは専門外だ。仕方あるまい」
「うわー。教わる相手、間違えたー」
他に人脈がないので、選択肢はないけどね。そういえば、先生って、なんで先生になったんだっけ? もっと普通の人いなかったのかな。無料に釣られて、この先生を選んじゃったのかな?
「お嬢さんは、できている。問題ない。次は地属性だ。地属性はコレだ。分離してみなさい」
風属性と地属性と水属性と無属性は、分離できた。だが、それ以外の属性は、磁石が作れず失敗した。磁石方式以外の方法が必要だ。
属性の種類は7つ。火(赤)、地(橙)、光(黄)、風(緑)、水(青)、闇(紫)、無(白)だ。このうち、風と地と水と無はわかる。これを組み合わせて、なんとかならないか。
風と地と水と無とそれ以外に分けてから、ぐるぐる動かしてみる。水とそれ以外を合わせたら、水に何かが混ざった。それ以外を遠ざけて、水と何かを分離する。
「先生、これ何?」
「火だねぇ。やっぱりできるんじゃないか」
一手間かかるけど、一応、分けられた! 火にくっつく物は?
「それは、光だよ」
一度、火を水にくっつけて分離し直す手間はかかるが、できないよりはいい。
「やった。分けれたね」
先生の合格をもらったので、続きを進めることにした。
「魔法薬の原材料には、それぞれ魔力が込められている。専用の薬草を使えば、そのまま使えるが、その薬草と同じ属性比率の魔力が用意できれば、薬草はいらない。魔力で材料を揃えれば、存在しない属性比率の薬草を材料に加えることも可能だ。 この薬草と同じ属性比率の魔力を作ってみなさい」
先程分けた魔力をそれぞれ液体化させてコップに出す。最初に先生が出したスライムみたいなヤツだ。大体レインボーカラーだ。
「え? 薬草の属性比率って、どうやってわかるの?」
「見れば、なんとなくわかるだろう?」
流石、教え下手! まったく参考にならなかった。
仕方ないから、薬草を手に取って、魔力を通してみる。そして、先生のなんとなくわかるだろうの意味が、少しわかった。確かになんとなくわかる。風と地とそれ以外の配分が。それ以外の配分を理解するの、激ムズじゃない? 感覚だけでやるのは、職人技すぎるよ。もっと科学的にやろうよ!
「先生、私、気付いたんだけど」
今までのクダリを全否定する大変なことを思いついてしまった。大変だ。
「何をだい?」
「こんな魔力液作らなくても、見本の薬草使えば足りるんだよね」
手に入らない貴重な品物なら、魔力で作り出すのも致し方ないけれど、普通に薬草屋さんで取り寄せいらずで買えた品を苦労して作る価値はあるのだろうか。
「そうだね。でも、魔力で作れば利益も大きい」
「作り方を知りたいだけなら、いらないよね」
「何故だ。その後の研究開発のためにも、必須技能だよ!」
むしろ、その後の研究開発に巻き込まれたくはない。面倒臭いだけだ。
「いや、病気になったように見せかける薬とかいらないから。解毒剤だけできればいいから。解毒剤を作るのに、存在しない薬草とかいうのを使うの?」
「使わない」
「無駄な時間だった」
もっと早く気付けば良かった。そうしたら、気持ち悪い体験とかいらなかったじゃん。
「オレは楽しかったぞ」
「シャルルの手を握りたいだけのセクハラ時間か」
「!! せーんーせーいー」
「違う。断じて、違う! お嬢さんの性能の高さに嬉しくなっただけだ。女性の手を握るのは、落とすために必要な作業であって、楽しみではない。むしろ煩わしい」
どちらにしても、最低だと思う。
魔法薬の作り方は、普通の薬を作るのと大差なかった。薬草を刻んで、潰して、煮る時に魔力を込めてぐるぐる混ぜるだけだ。ひーっひっひ、とか笑いながらやると、それっぽいと思った。
次回は、お礼のレシピ提供です。




