ss.元旦デー
「らーらーらららーらーらー」
私は、今日も、厨房の住人になっていた。寒いのは、初雪の日だけじゃない。雪なんて降ろうが降るまいが、寒いのは毎日寒い。ジョエル好みのフリフリ服じゃ、生きていけない。ドテラか何かが欲しい。
「シャルルちゃん、おはよう」
「あ、ダコタさん、おはよー。今日も1日ここにいるから、気にしないでね」
「今日は、何を作ってるの?」
「祝い肴っぽい一の重。すっごい彩り悪くて困ってるの」
「キレイな色だと思うけど」
「材料の時点では、黒豆だったんだよ。なのに、煮たらピンクになっちゃってさ。魚卵は青だし、小魚は緑に変色しちゃった。まめまめしくて、子沢山で、豊作な条件は外れてないかもしれないけど、私の作りたかったのはコレじゃないんだよ」
こちらには、ニシンやカタクチイワシなんて魚はいない。海街までタケルでかっ飛ばして、食べれるよと言われた魚からそれっぽいのを選んで買ってきただけだ。日本でだって、エビに火を入れると赤くなったりした。調理して色が変わることもあるかもしれないが、予想外の色になると、困惑しかない。ままごとのおもちゃなら、キレイねーと気にしないが、20年見てきた日本の伝統がハロウィンお菓子のような彩りになってしまうと、ちょっと引く。
こんなくっそ寒い中、買い出しになど2度と行きたくないのだから、受け入れるしかないが、引く。
「重箱は、それっぽいのを作ってもらうのに成功したんだけどなぁ」
「シャルルちゃんが食べないなら、ボクが食べていい?」
「ダメ! まだニの重、三の重があるから。せめて全部作ってから、決める」
「そっかぁ。頑張ってね。できたら、ボクにも味見させてね」
「りょーかーい」
ニの重は、口取りだ。
栗の甘露煮とさつまいも蒸しを作りながら、白身魚ペーストを作る。三枚おろしにして、皮を剥がして、すり潰すのが、超面倒臭い。頑張ればいけるなんて言わないで、大きい魚を探してくれば良かった。魚を捌くのは好きじゃないのに、ちびた魚がいっぱいで辟易してる。人の所為にできないのが、ツライ。
食紅がないので、どうやって紅白かまぼこなんて作るんだよ、と思っていたが、黒豆の煮汁がピンクだった。ケガの巧妙じゃね? と思ったのだが。できたかまぼこは、小豆色と緑色だった。はんぺんも緑になったから、伊達巻きは、黄緑になってしまった。田作りもそうだったが、昆布巻きは調味料が足りないので、味が違う。唯一、栗きんとんだけはそれらしいのができたが。
蓄財と勝負運と学業成就と長寿は達成したけど、魔除けと清浄には、どう考えても失敗している。魔除けは黒豆さんに代行していただくとして、清浄をどこかから持ってこないといけない。
三の重は、焼き物だ。
魚や海老は、焼けば良い。多少色が変になるのは、もう想定内だ。彩り重視で選んできた魚が、全部緑に変色しても泣かない。醤油がないので、照り焼きは諦めた。全部塩焼きでいい。食べる直前に焼きたいから、今は放っておく。
紅白なます、酢蓮根は、大根、ニンジン、レンコン、酢的な食べ物があるので、多分できる。問題なのは、チョロギだ。
正直、チョロギなんて日本でだってどこで買えるのか、私は知らない。なんとなく毎年いただき物で食べていたが、チョロギってなんだ。形が大事なのだと思うが、こちらでは噂も聞かない。無理だ。
立身出世と見通しのいい一年は、なんとか揃えたのだから、不老長寿は諦めよう。昆布巻きがあるから、大丈夫だ。そして、かまぼこの代わりは、なますさんにお願いしてしまおう。
これに煮物を合わせる。煮物は、山の幸ならなんでも良かったハズだ。適当に、その辺で見つけた根菜っぽいものをぐらぐら煮込めばいい。
あとは、ヤツを仕上げたら、完成である。カヌレ型は準備した。絶対に食わせてやる!
「明けましておめでとう御座います」
昨日作ったおせちに塩焼きを追加して、朝からどどーん! っと出した。
「おはよう、ルルー。今日はまた、すごいご馳走だね」
「ダメ。今日の朝のご挨拶は、『明けましておめでとう御座います』なの。今日は、元旦デーだから」
「またおかしな風習か。元旦デーって、なんだよ」
「スノーデーから7日経ったら、元旦デーなんだよ」
「今度は、何をする日なんだ?」
「年神様を迎える日。神様にご挨拶に行ったり、お酒を飲みながら、おせちを食べたりする日かな?」
「朝からお酒を飲んでいいの? それは、いい日ね」
「神様んちは、ちょっと遠いから、今日行くのは諦めろよ。あとお前は、飲酒禁止な」
「神様の家なんてあるの?」
「前に行ったでしょう? あのくそ竜は、神様みたいなものなのよ」
「あー、それなら、初詣は行きたくないデス」
「よし。夜中に妙な仕事とかもないな?」
「御座いません。朝から飲んだくれるだけでいいデス」
「飲むのは、俺とジョエルだけだ」
「悔しいけど、今は我慢します。まずは、一の重、祝い肴から、どうぞ」
「「アケマシテオメデトウゴザイマス。いただきます」」
「完全に、酒のあてだな。こんなの出して、弟妹が喜ぶのか? どうせ弟妹のために作ってたんだろ?」
「おかずとしては、人気あったよ。でも、そうだね。ちびっこ向けには、二の重、口取りだね。食べてたべて」
「ルルーのごはんは、相変わらず、見た目がキレイなだけじゃなく、本当に美味しいね。こんなに美味しいごはんを毎日食べれたら、幸せね」
流石、日本の伝統お節様。呑兵衛たちに刺さったらしい。
「いや、かまぼこなんて毎日作ってられないよ。かまぼこなんて、材料買ってくるよりできたのを買ってきた方が安いし。おせちなんて、年に一回だから頑張れるんだよ」
「7日前も、年に一度のご馳走を食べたばかりじゃない。ルルーが気付いてないだけで、毎日ご馳走を作ってたんじゃないの?」
「ど、どうかな? 金額的には質素だけど、鈴白と田平の笑顔のためなら、いくらでも頑張れるよ」
「一応、順番通りに出したけど、どう考えても一番最初に食べて欲しいのが、三の重焼き物だよ。面倒臭いから、煮物も出しちゃう。冷める前に食べちゃって」
「どんだけ作ったんだよ。食い切れねぇぞ」
「一食分じゃないんだよ。沢山作っておいたら、お姉ちゃんがサボれるんだよ」
「それは沢山作っておかないと、大変ね」
「そう思うじゃん? だけど、こんなシチ面倒臭い物作るなら、毎食いつものごはんを作る方が楽な上に、家族の人数が多いから、おせちも一瞬でなくなっちゃうんだよ」
「なんのために作ってんだ」
「お年玉は、餅しかあげられないから。クリスマスプレゼントも文具だから。でも、世間の皆様と同じ行事を体験させてあげたいじゃん」
「お前、、、バカすぎんだろ。よく生きてたな」
「シャルルがいなかったら、今頃、死んでたと思う。あ、チョロギは食べちゃダメだよ。死ぬから」
「死ぬ?」
「なんかね。致死性の毒があるから食べちゃダメだって、前にキーリーが言ってた」
「そんなものを食卓にあげるな!」
「だって、チョロギっぽいの、それしかなかったんだもん。大体、ダジャレとかだけど、おせちのメニューには、全部意味があるんだよ。家族仲良く円満に暮らせますように、とか、元気に働けますように、とか。なるべく揃えたいじゃん!」
「それで、うっかり死んでたら、これっぽっちも元気じゃねぇだろうよ」
「さあさあ、お待ちかねのデザートだよ」
私は、カヌレ型で作ったお菓子を山盛りにして、2人の前に差し出した。
「まだあるのね」
「これが最後だよ。一番の自信作だよ。これを食べて欲しくて、おせちを作ったんだよ!」
「しょうがねぇな。もっと早く出せよ」
キーリーが、大口を開けて、カヌレ風にかじりつくのをワクワク見守った。
「!! お前、なんだこれ! 美味いだと?」
よし。勝った。頑張って作った甲斐があった。
「ふふふふふ。とうとう食べやがったな。キーリー君よ。エールギースだよ。7歳おめでとう!」
「おま、、、そんな阿呆な台詞言うためだけに、あの料理を作ったのか。真性バカだな!」
「違うよ。エールギースをマズイ菓子だって、バカにしたのが許せなかったんだよ。美味しかっただろ。エールギースに謝れ!」
「コレは、エールギースとは別物だろう」
「そんなことないよ。ちょっと臭み抜きして、お菓子って設定諦めて、酒の肴にしただけだよ。見た目は、お菓子にしたじゃん」
「エールギースだ!」
キーリーが、急に立ち上がって、抱きついてきた。
「離せ、酔っ払い!」
シャルルの身体では、相手を殺しでもしないことには、引き離すことができない。むしろ、うっかりやってしまうのが、何より怖い。
だが、困る前に、ジョエルがキーリーを取ってくれた。両腕が、あらぬ方向へ曲がっているのだが、いいのだろうか。
「シャルル、俺の子どもには、こっちのエールギースを食わしてやってくれ!」
キーリーは、泣きながら、まだエールギースについて何か語ってる。そんなにエールギースに痛めつけられていたのか。まだ腕の具合に気付いた様子はない。
「ジョエル、申し訳ないんだけど、腕を元通りの向きにして治しておいてくれない? キーリーに近付きたくないから」
「このまま放っておけばいい」
「腕が治らないと、放っておけないよ。一日中かかりきりで介護したくないんだよ」
「このまま放っておけばいい」
「わかった。酔いがさめたら、完全介護するよ」
「治す」
「ありがと」
ジョエルに特級傷薬を渡して、治療を見守った。
結局、今日は一日中、食堂で飲み会をやっていた。沢山作ったおせちも完売だ。キレイに食べてくれると嬉しいね! と思っているところに、創薬を終えた村人Dの姿が見えた。
「あ、ごめん。全部食べちゃった」
「うん。スタートから呼ばれなかった時点で、そうかな、って思ってた」
「エールギースだけなら、まだあるよ。食べる?」
「ごめん。それだけは、食べない。なんで、そんなの作ったの?」
「キーリーの好き嫌いを直そうと思って」
「大人になったら、もう食べる機会がないのに?」
「克服したから、子どもには絶対食べさせたい、って言ってたよ」
「そうして被害が広がっていくんだね」
そうか。呑兵衛に嬉しいアテを可愛い子に食べさせたくて、始まった習慣なのかもしれないね。
お正月記念ssでした。
次回、閑話です。




