55.シュバルツのその後
シュバルツ。泣かないで。シュバルツ。
「おい、こら、テメェ、シュバルツって、なんだ!」
目を覚ましたら、殺し屋がいました。儚い一生でした。
「やめろ。ルルーが泣いてるだろう」
ジョエルいた! やっと見つけた!
「ジョエル、ジョエル! シュバルツを助けて欲しいのー! シュバルツを泣かせちゃったの。助けて!」
「よしよし、もう大丈夫だよ。落ち着いて。シュバルツって何? 犬? 猫? ウサギ?」
「ヒト! 黒い人!」
はたと、気付いた。ここは、城だ。シュバルツは、何処だ?
シュバルツの部屋は、1番上だ。誰かが来ても見つからないように、誤魔化せるように、上に作った。私は、階段を駆け上がった。息がきれて、へろへろになったが、部屋に着いた。シュバルツの部屋があった。
シュバルツの部屋は、黒くなかった。あの日のままだ。観光客さえいなければ、同じだ。でも、増えているものがある。壁に大きく描かれた絵。緑の服を着た黒髪の女。それより背の高い黒い人。シュバルツ。2人が仲良く手を繋いでいる絵だった。
なんだよ。シュバルツ。心配したのに、結構余裕だな!
「この絵、お嬢さんに似てるよね。何処に行っていたの?」
「シュバルツのところ。シュバルツを探さなきゃ」
階段を走り降りようとしたら、先生に止められた。
「シュバルツ博士のところに案内してあげるよ。ついておいで」
私が果樹園を作った方へ、歩いて行った。妄想だったのか、植えた木は一本もない。
「いっぱい木、植えたのにな。全部ダメだったか」
「以前は、見事な果樹があったよ。育つハズのない品種ばかりで、とても不思議だった。博士自身が世話をしないと枯れると言っていた。誰に教えても育てられない、と」
「そっか。シュバルツ、育てられたんだ。だったらいいや」
そこを抜けると見晴らしのいい丘に出て、いくつかの碑があった。
「シュバルツは?」
「これ、全部だよ。シュバルツ博士の功績は、素晴らしいものだった。オレも惜しんだよ」
「また会う約束をしたの。もう会えないの? シュバルツ、寂しがり屋なんだよ。私も会いたいよ」
「悪かった。こんなことになるなら、本人の意思など尊重せずに、生かしておけば良かったね。ところで、シュバルツ博士からの伝言を伝えるよ。『もう一度、穴を掘れ。』お嬢さんには、何のことだかわかるかな?」
「穴?」
私がシュバルツと一緒にいた時間は短い。穴と言えば、あの穴しかないだろう。
「こっち」
水が欲しくて掘った穴だ。結局、あれは役に立たなかったのだろうか。穴を掘った場所に行ったが、元通りの穴のない場所になっていた。
「秘密兵器! あ、、、」
そうだ。でっかいシャベルちゃんは、置いてきてしまったんだ。どうやって穴を掘ろうか。手? 手でいけるかな?
「ちょっと待った、お嬢さん。何にもないが、ここであっているのかい? 掘るなら、許可を取ってくるから待ち給え」
「そうか。許可、、、」
「君とシュバルツ博士の関係性は何か、わかるかい?」
「よくはわかりませんが、かなり濃い血縁の誰かだと思います。髪が同じなだけでなく、顔が双子のようでしたから」
「了解した」
先生は、ぞろぞろ人を連れてきて、穴を掘る許可を取ってくれた。今は、彼らの監視の下、ジョエルとキーリーが穴を掘ってくれている。私は、先生とタケルと近くに座って、それを見ていた。
「なんでこんなに簡単に許可が出たんですか?」
「『穴を掘れ』は、有名な話でね。皆興味があるのさ。ひ孫を見つけたから連れてきたと言ったら、簡単に許可が降りたよ。オレが、ここの管理に金を出してるのもあるだろうけどね」
「私、ひ孫だったんですか?」
「知らないよ。年齢的にはそれくらいだと思っただけで。シュバルツ博士は、君のことを妻だと言っていた。結婚したの?」
「そうですね。長く一緒にいたら、したかもしれません。でも、3日しか一緒にいられませんでした」
「3日であの熱量か。流石だな」
シュバルツのその後の話を聞いた。シュバルツは、結局、ツガイになることなく生涯を終えた。ツガイに迎えられることにはなったのだけれど、その時に、島でいろいろな発明をしているのに目を向けられ、そのまま研究開発を続けることが許されたそうだ。
シュバルツは、浄水システムを作り出した偉大な博士になっていた。私が眠気覚ましや暇つぶしに、ちょっと漏らした情報を熱心に研究したらしい。なんというハイスペック超人。シュバルツが作ったというシステムの模型を見ても、ちょっと理解ができなかったんだけど!
「他にもね。携帯食料を開発したのも彼だったし、窓ガラスを作ったのも彼だった。お嬢さん、携帯食料大好きだったよね?」
バレている。バレている! 先生に疑われている。
「アゴが痛くなるので、1か月は見たくないですよ」
「そうか。それは大変だね」
そっぽを向いて、口笛でも吹いてやろうかと思った時、キーリーに声をかけられた。
「シャルルの馬鹿! 宿のバケツが出てきたぞ!」
ヤバイ。告白する前に、キーリーにバレた。
「ごめんなさい。今すぐ仕舞いますー」
シュバルツ、穴を埋めたなら、バケツも片付けておいてくれたら良かったのに! 早急に証拠隠滅しに走ろうとして、先生に捕まった。
「ちょっと待った。バケツの中身は何かな?」
「中身?」
「バケツだ」
「バケツ」
バケツを取ったらバケツが出てきて、バケツを取ったらまたバケツ。バケツマトリョーシカをどんどんむいていったら、最後に小箱が出てきた。
小箱を開けたら、指輪が2つ入っていた。
「愛する私のシャルルへ、と書いてある。君宛てのプレゼントで間違いなさそうだね」
「シュバルツ、私の手が指輪でいっぱいになっちゃうよ。大変だよ」
試しに、指にはめてみたら左手の薬指にぴったりだった。恐るべし、シュバルツ博士の観察力と記憶力。
次の日、花を持って、またシュバルツのところに遊びに来た。
「シュバルツは、私を妻だって言ってたって言うけど、私が生まれてるんだから、結局、奥さんいたんだよね?」
「いや、博士の妻はお嬢さんだけだ。彼は聡明なだけでなく、美しい容姿に恵まれていたからね。通いの女は何人かいたようだが」
「通いの女? 何人か? 普通に結婚してて欲しかった!」
長生きして、幸せになってって言ったのに。なんでそうなった? どうしようと、シュバルツの勝手なんだけど! だが、なんとなく嫌だ。
「仕方がないだろう。彼は聡明だった。そうしなければ、お嬢さんが生まれないことに気付いたんじゃないか?」
「だったら、普通に結婚しろよ!」
もう意味がわからないよ、シュバルツ!
「で、気は済んだのか?」
「まだだよ。いろんな人に謝らなければならないの。ジョエル、キーリー、ごめんなさい」
シュバルツの墓前で土下座。謝るのに、最も適当な場所かもしれない。
「無事戻って来てくれて良かったよ。心配はしていたけれど、怒ってはいないよ」
ジョエルに抱き上げられてしまった。 怒られずに済みそうなのは幸いだが、理解されていないのも困る。
「ちが、そういうことじゃなくて、ジョエルとキーリーの服を大量にシュバルツにあげてきたの。携帯食料もほぼ全部あげちゃったし、宿の家具も置いてきたし、他にもいろいろ」
「道理で、何処かで見たような家具ばっかだった訳だ」
「そうなの。ごめんなさい」
告白しなくても、いずれというか、既にバレかけていた。ちゃんと謝ることにして良かった。
「無事戻って来てくれて良かったよ。シュバルツ博士が困っていたから、あげてきたんだろう? 博士がルルーの血縁なら、わたしにとっても大事な人だ。物はまた買えばいい」
「そうだな。今なら分厚い財布がある。気にしなくていいぞ」
「ちょっと待て。何故、オレが男に服を買ってやらねばならん」
「シャル、あのケチ男、金が尽きたらしいぞ」
「そうは言ってないだろう。よし、いいだろう。買ってやる。ただし、お嬢さんの服も一緒だ。オレが選ぶ」
そのまま買い物に行く流れになった。
「ジョエル、ごめんね。ちょっとだけぎゅってさせて。お返しはなしで」
「あ、ああ、いいよっ」
唐突な別れが寂しくて、シュバルツの身代わりが欲しかったんだけど。
「やっぱりいいや。ジョエルごついし、後でキーリーに頼むよ」
本当は、体型だけなら先生の方が近いけど、先生は、セクハラキングだからね。シュバルツに会いたかったなぁ。せめて、もっとちゃんとお別れしたかった。
「そっかぁ。そうだね」
次回は、閑話です。




