52.クロ
すみません。
午前中に投稿したつもりが、失敗しておりました。
いなくなったのは、ジョエルたちだけじゃない。激混みでうじゃうじゃいた観光客もいなくなっている。ちょっと道をハズれたとして、1人になることがあるとは思えない。私は、どうしてここにいる?
「誰だ!」
背後から声がした。振り向こうとしたところで、ダン! と力づくで押さえつけられた。
「痛いっ」
「お前は誰! っだ?」
「ゔーっ」
ひどい。また頭打った。痛い。私が一体何をした? お前こそ誰だよ!
「なぜ、泣く?」
組み付いて来たのは、男だった。こちらに来て、初めて見た黒髪の男だった。
「頭打って、痛いからだ!」
「避ければ良かっただろう」
「避けれなかったんだよ!!」
勝手に押し倒してきて、何という言い草だ。ひどすぎる。避けれるものなら、そりゃあ避けていただろうよ!
「お前もクロなんだな。悪かった」
やっと離してくれた。全く意味はわからないが。
「クロじゃないよ。シャルルだよ」
「シャルル? 名前か?」
「そうだよ。あなたは?」
「クロに名などない。クロはクロだ」
えー、何それ。また新ルール? 覚えなきゃいけないヤツ? もうそういう訳わかんないの、いらないよ。
「クロって、髪の毛の色のことだよね?」
「そうだ」
「髪の毛黒い人の名前が皆『クロ』だったら、わかりにくくない? 誰かが付けてくれないなら、自分で付けたっていいと思うよ」
「お前は、自分で付けたのか?」
すごい驚いた顔をしている。なんかこの顔、どこかで見た顔じゃない? 思い出せないけど。
「私の名前かー。誰が付けたんだろね? 私、ここ数ヶ月くらいの記憶しかないからさ。その前からシャルルって名乗ってたって聞いただけで、名付け親が誰なのか、わからないんだよ。考えたこともなかったし」
「記憶がない? 記憶がなくて、大丈夫なのか?」
「大丈夫とか、大丈夫じゃないとか関係ないよね。ない物は、どうしようもないよ」
「強いんだな。悪かった」
2人でずっと床に座ってたんだけど、クロは立ち上がって、手を差し出してきた。仲直りの握手かな? 立つの手伝ってくれるのかな? また投げられるのかな? ドキドキするね!
どうしたらいいか考えあぐねて手を見ていたら、腕を引っ張られた。立たせてくれるヤツだった。
「ありがとう」
「俺が転ばせたからな」
「そういえば、そうだったね」
「お前、、、、、」
「今、頭打ったからね。忘れたんだよ」
「すまなかった!」
表情がすごい困ってる。悪い人ではなさそうだ。
「記憶喪失ジョークだよ。気にしない、気にしない」
さっき上ってきたハズの階段に戻って、ちょっと降りたところの窓の外を見た。
「やっぱり」
「どうした?」
クロがついてきた。
「ここ、海の中の城だよね?」
「そうだな」
窓の外の景色は同じなのに、部屋の中は同じじゃなかった。部屋の形は多分同じだが、色が違う。床や腰壁は焦茶で、壁と天井はベージュっぽい色だった。同じお城で色違い。ジョエルがいなくて、クロがいる。これって、どういうことだと思う?
「まぁいいか。ちょっと向こう向いててくれる?」
ダン、ダン、ダン! 私は、さっきの部屋に戻り、テーブルとイスを2脚取り出した。
「何だ? これは、どうした?!」
「あー、手品? 魔法? こんなこともあろうかと、色々持ってるんだよ。私」
私の収納能力の底が今のところ見えてないのをいいことに、邪魔なものを仕舞っといてという人がいるのだ。私は今、家数軒分の家具を持ち歩いている。いちいち出したりしないから、テントとかも常時持っている。カタツムリやヤドカリと、たいして変わらない生活をしてるのだ。
「まぁ、座ってよ。今、お茶を入れるから」
お湯は持っていない。水筒から、マグカップに入れるだけのお茶だ。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう。、、、、、にがっ、なんだこれ!」
「濃い目の緑茶風飲料」
黒髪ならいけるかと思ったが、村人Dと同じ反応だった。残念だ。
「お前は、普通に飲むんだな?」
「まぁ、私による私のための飲み物だからね」
おお、おお、クロが、すごい我慢して飲んでいる。いい人じゃないか。村人Dは、絶対に飲まなかったよ。
「ここが何処か、聞いてもいい? 私、なんでここにいるか、わからないんだよね」
クロは、クロの父とクロの母の下に生まれ、男はいらないと、この島に住まわされているらしい。クロのツガイが何組かおり、娘が生まれると出荷され、息子の場合は、ツガイに欠員ができるまで放置されるという。たまに食料が届く場合があるが、期待してはいけないそうだ。
似たような話を想像したことがあった。あの時は、ただの冗談だったが、こちらは実話だ。とてもひどいと思うのは私だけで、クロはそれが普通だと言う。
「クロ以外を羨ましいと思わないの?」
「俺は、あんなヤツらになりたくはない」
「そういう意味じゃなくて、、、わかった。少し改善しよう」
そろそろ日暮も近い。暗くなる前に、頑張ろう!
全ての部屋を見て回ったが、見事なまでに何もなかった。1番上の階にクロの部屋を作る。ベッドを置き、布団を乗せる。チェストを置いて、ジョエルとキーリーの服を入れる。もう1つのチェストは、瓶詰めだ。ここまでで、今日の作業は、終了だ。暗すぎるので、カンテラを付ける。
「すごいな。シャルルは」
「私は何もすごくないよ。すごい人が、これをくれただけだよ」
正確には、もらっていない。無断使用しているだけだ。罪は後で償おう。償う機会に恵まれればだが。謝って許されるように、大事な品が含まれていなければいいね。
「にしても、寒いね。暖房器具は持ってないなー。困ったね」
まず、窓が全開なのが、どうしようもない。ガラスの窓とは言わない。木戸でもなんでも、とりあえず塞がないと、温まるものも、温まらないよね。
「よく何もなくて寝れたね」
「寝るのは昼だ。夜は徹夜で走っている。動いてないと死ぬ」
「マジか! そんな体力ないよ。今夜死ぬよ! 死んじゃうよ!!」
ありったけの服を着込めばなんとかなるかなぁ? とりあえず冬服に着替えてみる? 寝袋だったら、いける?
この部屋の窓は、タンスを出して、塞いでみた。あまり塞げていない気もするが、ないよりはマシになったと思う。
「死なせない。一緒に頑張ろう」
寝ないで、おしゃべりをした。頑張って起きていたけど、予想通り、いつの間にか寝ていた。




