49.閑話、キーリー視点
うちの問題児1号が、また面倒なことを言い出した。やっと元に戻って落ち着いたばかりなのに、もう飽きたらしい。
村のバイトより実入がいいので、最近は、シャルルの仕事を手伝っていたのだが、草だの木の実だのを一日中すり潰してるだけの日々は、確かに嫌になった。ローワンをもう一度連れて来ようかと悩む程度には、俺も嫌になった。どこか旅に出れば、発注の山から逃げられるだろう。幸いにも、この仕事で大分荒稼ぎした。バイトも本業もいらないくらい金ができた。
「と、じゃじゃ馬娘が言ってたぞ」
「また温泉に行きたいのかしら? しばらく北も西も行きたくないのだけれど」
北はドラゴンが出て、西はジョエルの実家がある。確かに行きたくないところだ。
何かいい案がないものか、あーだこーだと話していたら、呼んでもいない白髪男が混ざってきた。
「何言ってるんだい、君たちは。この季節にお嬢さんと出かけるなら、南一択だ。それ以外にないだろう?」
「うるせぇよ。お前は他人だ。会話に入ってくるな」
何か言ったところで、意味がないのはわかっていた。シャルルに酷い扱いを受けても、まったく諦めない妖怪を排除しようとするのは、時間の無駄だ。だが、仲良くやりたくない。なし崩しに仲間面をされると、腹が立つ。
「そう邪険にするものじゃないよ。ちょうど南に別荘を持っていてね。街の中心部だが、騒音対策でぐるりと塀で囲っている。お嬢さんがフードを脱いでくつろいでも問題ないだろうね。塀で囲ってはいるが、海は見える。気に入ってもらえると思うよ」
「いらん!」
「そうかい? 海に連れて行けば、お嬢さんは水着を着ると思うけどね。別荘に泊まれば無料だから、ここに来たと言えば、何の疑問も持たない子じゃないか?」
「「!!」」
「絶対、南には行かねぇ!」
そう思っていたのに、結局、南に来てしまった。
物を深く考えないとんでも娘は、到着後すぐに、はしゃいでいた。多分、どこでも良かったんだ。すり鉢さえなけりゃ、どこでも楽園と答えるのだろう。
もう少し自分の容姿を考えて、男がついてきてるのを気にして欲しいものだが、気付かれたら俺が終わる。気付かれたら、負けだ。
「ルルーは、海好きだったんだね」
そう満足してる張り切り男は、女装をやめた。女装を続ける限り、うっかり娘が女だと思い込んで、まったく相手にしないのに、ようやく気付いたのかもしれない。折角、似合っているのだから、一生女装で過ごせばいいものを!
ジョエルの顔は、シャルルを引き止める切り札の一つではあるのだが、同時に脅威だ。あの阿呆は、急に何に引っ掛かるかわからないから、安心はできない。点数稼ぎをしなくては。
「よし、シャル出掛けんぞ。付いて来い!」
南に行くことにした理由の1つ。冒険屋に行く。子ども騙しのしょっぱい商売なのだが、シャルルを放り込むには丁度いい。ジョエルの介入なしで行けるダンジョン攻略など、ここくらいしか考えられない。
きゃっきゃうふふと遊ぶシャルルを眺めるだけの会の予定だったのだが、受付をする段階で雲行きが変わった。受付のジジイどもが、くそむかつく。誰がこんなところで本気を出すかと言いたいのだが、ぐっと堪えた。
お望みとあらば、大人の本気を見せてやろうじゃねぇか!
俺の本気など大したことはないのだが、他の2人の目付きも変わっている。もう未来は決まった。
洞窟に入るにあたって、シャルルの靴問題に気付いたが、無視する。今回、シャルルは、ただのマスコットだ。ジョエルの手荷物にしておけば、それでいい。そんなことよりも、最速で全ての景品をかっさらってここを出る。何よりも、それが重要だ。
宝箱など、見えてしまえばいくらでも取る方法がある。ちょっと高いくらいなら、俺1人だってイケるくらいだ。見えないところに隠されていても、魔法使いの先生が威信をかけて見つけ出す。余計なことしかしない男だが、魔法の腕だけはそれなりだ。天然のダンジョンすら死角があるかわからない2人を抱えているのだ。子ども向け施設など、敵ではなかった。
最後には、みっともない悪あがきをされたが、ジョエルと魔獣の足から逃れられるような男は、こんな商売をしていないだろう。俺が捕まえられるくらいだった。
予定通り、全ての景品をかっさらってやったが、大して面白くもなかった。ジジイどもは凹ましてやったが、シャルルは宝石をもらって喜ぶ女ではない。気軽に俺たちに宝石を配って歩く方なのだ。きっと、宝箱の中の菓子の方が腹が満たされていい、くらいのことを言うハズだ。ムダに疲れた気にもなる。
もう宿に戻って、ダラダラしたい。そこらの市場で食い物を買って帰る。焼くだけなら、シャルルができるだろう。前に、焼いているのは見たことがある。俺は、後は酒を飲んで寝るだけでいい。
男+魔獣は、酒を飲んでも大して変わらないのは確認済みだが、シャルルはダメだ。以前、飲ませたら一口程度で完全に出来上がっていた。あの時は、俺だけだったからのんきに眺めてられたが、今は余計なヤツがいる。酒に弱いと知らせることも避けたい。本人は飲みたがっていたが、身体はシャルルだ。多分、無理だろう。一度飲ませてやらないと諦めなさそうだが、どうしてやろうかな。
次回も閑話です。
お久しぶりな2人です。




