ss.メリースノーデー
すみません。
本編と季節が違いすぎて、幻の時間。。。
今日は、雪が降った。寒くて、創薬ルームに行きたくない。宿で1番暖かいのは、厨房だ。火傷するくらい火にあたりたい。
「メリースノーデー!」
厨房に居座るために、今日の夕飯は、自分で作ったよ。客が勝手に店の厨房でごはんを作るとか、有り得ないと思いつつ、時々、やっている。黒髪だと言うだけで、誰にも咎められないのは、いいことだ。
「なんだ、こりゃ」
「初雪が降ったから、お祝いだよ」
嘘だ。真っ赤な嘘だ。ただ厨房に居座りたかっただけだ。
「今日はまた、随分と凝った物を作ったのね」
「見た目だけだよ。メニュー的には、いつものと大して変わらないよ」
普通に作るだけでは、あっという間に作り終わってしまう。私の目的は、あくまで厨房で忙しそうに居座ることだ。だから、唐揚げを積み上げて茹で野菜を飾って、ツリーを作ったり、ポテトサラダを3段重ねにして雪だるまにしたり、ミートローフをリース型にしてみたり、トマトで小人を作ったりして時間を伸ばした。1番時間をかけたのは、切り株ケーキだ。卵の白身を気合いでツノ立たせてやったぜ!
「こんなの作ったって、食べたら一瞬だろ」
「キーリーは、可愛くないなぁ。鈴白だったら、目をハートにして喜んでくれるのに」
お金をかけないで作るご馳走シリーズを1番楽しみにしてくれたのは、妹の鈴白だった。鈴白1人のために飾り切りを習得したと言っても過言ではないが、鈴白に会えない今、そんな面倒なことをやる気は起きない。
「スズシロって、なんだ?」
「!! 聞かないで!」
「妹かしら。弟の話は時々聞くけど、妹の話は珍しいわね」
「聞かないで! 妹は私の天使なんだから、ジョエルでも手を出したら、許さないからね!!」
「え? わたし?」
「鈴白は、絶対、ジョエルの好みなんだよ。嫌だよ。鈴白は、私のだから!」
ジョエルは、なんでもできるマンなので、本気を出したら、あちらに行けるかもしれないじゃないか。私だって、会いたいのに、許さん!
「弟妹がいっぱいいるって言った割に、弟の話しかしないのは、そういう訳か」
「周りが男ばっかりだから、話題にのぼらないだけだと思う。女友達が欲しいよ」
「そこのイケメンとソーヤーさんで手を打てよ。あと村に、ちっこいの何人かいたろう? 充分だな」
流石、女なら何でもいいと言う人は違うな。女装子とおばあさんとちびっこが、同じ枠なのか。もしかしたら、ジョエルより気をつけた方がいいのかもしれない。いや、キーリーでは、あちらの世界までは行けなそうだな。じゃあ、いいか。
「ジョエルと女子トークしても、怒られるだけだから嫌だよ。それより食べよ。冷めちゃうじゃん。いただきまーす」
「ご相伴に預かろう。いただきます」
よし! お姉さんのお仕事は、ここからだよ!!
「お前は、何をやってるんだ」
「ひぃっ」
「そこは、お前の部屋じゃないぞ。変な格好しやがって、夜這いか?」
こそーっと出てきたつもりだったのに、キーリーに見つかってしまった。蝶番か? 朝だけじゃなく、夜半でもバレるのか?
「しーっ、しー。静かにしてよ。みんな寝てる時間だよ」
「お前も寝ろよ」
「私は、これから秘密の仕事があるんだよ。後で、キーリーのところにも行くから、寝ててよ。良い子に寝てるといいことがあるんだよ」
「ジョエルの後に来られても嬉しくねーし。どうせ来るなら、先に来い」
「ダメだよ。寝てないじゃん。寝静まったら行くんだよ」
「今から寝静まるから、いいから来い」
「しょうがないなぁ」
キーリーに続いて、部屋に入った。白い布袋から靴下を1つ出して、枕元に置く。
「メリースノーデー。いい夢見てね。じゃあ、これで」
部屋から出て、次に行こうとしたら、キーリーに腕を掴まれた。
「なんだ、これは」
「スノーデーには、謎の赤烏帽子さんがやってきて、寝てる間にいつの間にか、良い子にプレゼントを置いていってくれるんだよ」
「どこからツッコんでいいか、わからねぇな? お前、その赤装束で隠密行動をするつもりか?」
「これが赤烏帽子さんの伝統衣装なんだよ。私が考えた訳じゃないよ。しょうがないじゃん。赤烏帽子さんは、スーパーヒーローだから、どんな格好をしてたって誰にも見つからないんだよ」
「で、初っ端のジョエルに近付いた時点で、とっ捕まって、骨を折られる訳だな?」
「えっ? それは嫌だな。でも、ジョエルを悪い子にはしたくないよ」
「わかった。廊下で100数えてろ」
廊下で待ってたら、キーリーが赤い服を着て出てきた。
「赤い服なんて、持ってたんだね」
「全身赤とか、正気じゃねぇな。お前こそ、緑ばっかり着てたじゃねぇか」
「ふっふっふ。今日のために新調したのだよ」
「もうその時点で、正体バレるじゃねぇか」
「それは言わないお約束なんだよ」
「まぁいい。ジョエルのプレゼント寄越せ」
布袋から靴下を出して渡すと、ジョエルの部屋のドアを薄く開けて、矢にくくりつけて射った。
「これで、終わりだな?」
「ごめん。まだまだいっぱいあるんだ」
「マジか」
だって、厨房にずーっと居たかったんだもの。
キーリーは、村中の家を訪ね歩いて、大人の人に説明し、子どもたちに配る手伝いをしてくれた。そして、
「お前の地元じゃ合法なのかもしれんが、こっちにはそんな風習ないからな。やればできるだろうが、他人んちに勝手に入るのは、犯罪だ。やりたいなら、ちゃんと許可取れよ?」
という有難い訓示を頂いた。日本だって不法侵入はダメだ。赤烏帽子さんの真似事は難しいね。
朝、起きたら、枕元に靴下があった。私が毛糸で大量生産した靴下だ。
村の子どもの人数分しか作らなかったハズなのに、1つここにあるということは、配り忘れだ。どうしよう! みんな貰っているのに、1人だけ話題に入れないとか、可哀想だ。今から配りに行って、間に合うかな?!
靴下に手を伸ばすと、中身がこぼれた。私が入れたのは、ジンジャークッキーだったのだが、銀色の物が出てきた。なんだろ、これ。
「おはよう、キーリー。見てみて。昨日、赤烏帽子さんが来てくれたの。似合う? 可愛いでしょ」
赤烏帽子さんにもらった髪留めを付けて、今日最初に見つけたキーリーに、早速自慢だ!
「そうか。気に入ったなら、良かったな。俺は、靴下の中に食い物を入れるのは、どうかと思ったぞ」
「飾り用の靴下だもん。いいじゃん。頑張って、大量生産したんだよ。あ、ジョエルだ。ジョエルにも自慢してくるから、またね」
「ジョエルー。おはよう。見てみてー」
私は、ジョエルに向かって駆け出した。今日中に村中の人に自慢して歩くのだ。1人も逃さないぜ!
「すげぇな。あれが、気付かないお約束ってヤツか。まさか、マジで気付いてないってことは、ないよな? 嘘だろ」
ストーキング兄さんは、渡せなかった在庫をいっぱい持っていた!
メリースノーデー。いい夢見てね。




