4.閑話、キーリー視点
今日もいろいろあるので、朝のうちに失礼します。
俺は、キーリー。18歳。狩人だ。
俺の親父も狩人で、森で狩った獣を売って暮らしていた。俺も、同じような暮らしをしていくつもりだった。
獲物を背負って街へ行き、売上で飲むのが、ささやかな楽しみだった。その日のあがりは上々で、いつもよりいい肴を頼むか、いい酒を頼むか、悩みながら店を物色して歩いていた。その時に、小さい小僧が酔っ払いに絡まれているのを見つけた。
酔っ払いの相手は面倒だが、小僧を見捨てるのも寝覚めが悪い。俺は、しれっと近付いて行って、小僧を引っさらって逃げた。足には自信がある。酔っ払い相手なら、勝負にならない。小僧は、人とは思えないほど軽かった。これなら、逃げるのは余裕だ。
「おい、小僧。お前の家は、どこだ? 連れて行ってやる」
それが、シャルルとの出会いだった。
すぐに小僧ではないと気付いたが、もう遅かった。美しい黒髪に大きな瞳。ふっくらとした頬に、薄紅色のくちびる。もう目を離せなくなった。
家も金もない、というので、宿をとってやった。一緒に過ごすようになった。冒険者だというから、俺もギルドで登録してきた。
ある日突然、記憶をなくしたと言われた。
今までは、話しかけても必要最低限しか答えず、部屋に閉じこもってばかりだったシャルルが、急に活動的になった。人に襲われた記憶がないと、こんな風に笑うのかと驚いた。そうなのだとしたら、このまま忘れていればいい。
働きたいと言うので、仕事を斡旋してやった。思った通り、どれもこれもできなかった。あんなに可愛い顔をして、あんなに細い腕をして、明らかに無理な仕事に果敢に挑戦していく。そんなことしなくても、俺が一生食わせてやるのに。頑張らなくていいのに。
俺の女にしてやろう。魔が刺したところで、ジョエルに邪魔された。
ちょっと目を離したら、シャルルは村を抜け出していた。村人の注進があったので、村を出て追いかける。
畜生。俺にだって、バイトがあるんだよ。ジョエルにばっかり払わせていたら、格好がつかねぇじゃねぇか。だが、助けに行くのも譲れない。イケメンに譲って、いいことなんてある訳ねぇ。女はみんなジョエルを選ぶ。他の女は、みんなくれてやる。だが、あいつの笑顔だけは、俺の物だ。
悲鳴が聞こえた。急がなければ! だが、急ぎすぎたら、逆に殺される。慎重に間を読まなければならない。
シャルルが倒れた。今だ!
獲物は熊だ。熊を持ち帰れば、バイトキャンセルもチャラになる。よし。
「今日は熊鍋だ!」
一人称主人公にもう困り始めただけなのに、
唯一の普通の人を気持ち悪い人にしてしまった。
難しい!
次回は、お仕事に突撃しましょう。