46.閑話、ジョエル視点
母さんの言葉が、衝撃的だった。考えたこともなかった。シャルルが、宿屋の旦那のことを大事に思っていたなんて。
キーリーは、シャルルはタケルが好きなんだ、と言っていた。もう叩き切ってやろうかと思ったけれど、シャルルが泣くと思えばできなかった。
魔獣を切れないわたしに、旦那を切ることはできない。どうしたらいいのだろう。母として、シャルルの幸せを祝福しないといけないのだろうか。
そんなことを考えていたら、シャルルとキーリーが抱き合っているところに出会してしまった。
「対抗キーリー」
対抗のくせに本命を抜いたのか。
シャルルを見つけたのは、キーリーだ。わたしこそ横恋慕だった。それなのに、お母さんと呼ばれ、少し仲良くなったらいい気になっていた。 どんなに仲が良かろうと、母と娘じゃ、その先はないのにだ。
「宿の旦那は切らない。タケルも切らない。だが、キーリーは切ってもいいだろうか」
殺意を持って、剣を構える。くっついていようと、確実にキーリーだけを捉える。絶対に、シャルルは傷付けない。
「ちょ、ちょっと待て、ジョエル。シャルの記憶が戻ったんだ。奇跡の感動のハグだ。他意はない。
シャル行け。次はジョエルだ。抱きついて、『ジョエル大好き』って言え」
「え? ジョエル? やだよ。怖いよ。剣構えてるじゃん。キーリー何したの?」
「いいから、行け。お前が行かないと、俺が斬られるんだよ。お前は斬られないから。多分」
「多分? 絶対嫌だよ。キーリーが、ハグしてきなよ」
それほどまでに、わたしは嫌か。
絶望した。絶望して、剣を収めた。キーリーを斬っても、こちらには来てくれないだろう。わかっていた。旅に出よう。
「ジョエル! 受け取れ!!」
きびすを返して立ち去ろうとしたら、シャルルが飛んできた。
「いぃやぁあぁぁあぁぁーーーーー!!」
身体が勝手に動いた。衝撃を殺し、優しく抱きとめる。なるべくではない。絶対だ。
シャルルは、一瞬緑に光って、ふわりと腕の中に収まった。
「ルルー。痛いところはない?」
「あー。あー、あー。だ、大丈夫かな? ありがとう、ジョエル。もう怒ってない? えっと、あのね。私ね。いつも優しいジョエルが、好きだよ?」
生殺しか!
深い意味などないのはわかっているのに、抱きしめられて嬉しかった。離したくない。心のままに抱擁を返した。
反省した。とても反省している。シャルルにケガを負わせてしまった。シャルルを泣かせてしまった。
折角、腕の中にシャルルを捕らえたのに、怒らせてしまった。口もきいてもらえない。ツライ。
キーリーにも、呆れられた目を向けられている。すごい気をつけてはいるんだ。軽く抱擁したつもりだった。最初は。
なんで、シャルルはこんなにモロいのだろう。食事が足りないのだろうか? 運動が足りないのだろうか? 母さんと体型はほぼ変わらないのに、耐久性の違いはなんだろうか。
「キーリー。何故、ルルーは抱き潰されてしまうのだろう。母さんなら、むしろわたしの骨を折りにくるのだけど。ルルーに遠慮されているのかしら」
「マジか! あのふわふわした母ちゃん、マジか! 確かに、とんでも息子を5人も黙らせるの大変だろうが、マジか。次会ったら、絶対、逆らわない。何だそれ」
「ルルーと、大して違わないと思うんだが」
「そうだな。見た目は、大して変わらんな。だが、きっと材質が違うんだ。鋼鉄とガラス細工くらい違うんだ。母は強し、って言うだろう? きっと、それだ」
そうか。鋼鉄くらいモロければ、母を大切にしろと言う話もうなずけるし、ガラス細工なら、更にモロいだろう。
「ガラス細工は、飾ってあるのを遠目に見るだけだ。近寄ってはいけないし、触るなどもっての外だ、と言われている」
「そうだな。いい加減、大きくなったんだから、力加減を覚えろ」
「協力して欲しい」
「絶対に嫌だ」
ガラス細工を壊さずに触る。とても難しいが、会得してみせよう!
次は、おまけ。




