42.オバアチャン登場
目を開けたら、ベッドにいた。はて?
「あら、シャルルちゃん、起きたのね?」
また金髪碧眼美女がいた。ジョエル風だがジョエルではない。ジョエルより、もっと小柄で可愛らしいお姫様系の美女だ。なんだこの世界の女性は、美女で当然なのか? こんな世界じゃ、私の顔面偏差値は底辺を突き抜けてしまうな!
「覚えていないかもしれないけれど、おばあちゃんですよ」
にっこり笑顔が、本当に可愛らしい。おばあちゃんて、なんだ? 少女にしか見えないのに、おばあちゃんとは、美魔女がすぎる。あれか? オバアチャンという名前なのか? そうだ。そうに違いない。
「ごめんなさい。わかりません」
「いいのよ。それほど深い付き合いは、まだなかったもの。これから知り合っても、たいして変わらないわ。これから仲良くしたいのだけど、もう少し近寄ってもいいかしら? ちょっと近寄るけれど、嫌だったら言ってね。やめるから」
オバアチャンは、ゆっくりゆっくり一歩ずつ静かに近付いてきて、枕元に腰をかけた。
「うふふ。相変わらず、シャルルちゃんは可愛いわね。ちょっとだけど、お土産も持ってきたのよ。後で、一緒に開けましょうね」
「えと、、、」
「私が初めてシャルルちゃんに会った時、シャルルちゃんは、ジョエルの娘だって言っていたの。シャルルちゃんのお母さんがジョエルで、ジョエルのお母さんが私。素敵だわ。私は、ずっとシャルルちゃんみたいな娘が欲しかったの。すごく嬉しかったのよ」
「それは大変、失礼致しました」
本人をお母さん呼びするだけでは飽き足らず、家族の前までやらかしていたとは、本当に何をやっていたんだ。申し訳なさすぎる。穴を掘って埋まりたい!
「本当に嬉しかったのよ? ジョエルをあげるから、シャルルちゃんを頂戴って、言いたいくらいに」
うちの両親に? うちの弟妹に? 胃の辺りが苦しくなって、身体を丸めた。
「シャルルちゃん? ごめんなさい。無神経なことを言ったのね? どうしましょう。さわっても平気かしら? 少し、少しだけ、ね」
オバアチャンは、頭の上をちょんと触って、時間を置いて撫でてくれて、さすってくれて、最終的には、抱きしめてくれた。温かいお母さん。ずっとずっと我慢していたお母さんだった。
私は、弟妹のお父さんであり、お母さんだから、と頑張っていたつもりだったけど、身体が大きくなっただけで、ずっと弟妹に嫉妬するお姉ちゃんだったようだ。ジョエルをお母さんと呼んでいたのは、こんな風に抱きしめて欲しいと甘えていたからなのかもしれない。
泣いた。泣いた。散々泣いて、愚痴って、時には怒鳴りつけた。オバアチャンが何を言っても包み続けてくれたのをいいことに、声が枯れて、力尽きるまで騒ぎ続けた。いい年して、恥ずかしい。記憶的には初対面の人にすることではない。
しかし、気分的には少しスッキリした。何も解決していないけれど、共感してもらえたのが嬉しかった。理不尽だろうと、今後の方針を決めなくてはならない。ここにも保護者はいない。自分で立たなければならない。
でも、私の選択肢など、最初からなかった。那砂に戻ってオーナーさんと弟妹を捨てるか、シャルルとして1人で生きていくかの2択しかないのだ。弟妹を捨てる選択は、できない。オーナーさんを受け入れるのは、本当に嫌だ。弟妹を捨てたところで、オーナーさんとお付き合いした過去も消えない。シャルルに任せて、弟妹を幸せにしてもらうのを期待して、感謝するのが1番賢いのは分かる。私の気持ち以外の問題は、多分ない。となると、シャルルとして生きるか、死ぬかだ。
気分的には、死んでも構わない気もしてる。だが、私は死ぬ予定もなかった人の死を見てきた。安易に死んではいけないこともわかるし、死ぬのは死ぬほどの体験が必要だ。そんな勇気も持てない。死にたくなければ、生きるしかない。選択肢は一択だ。
目を覚ます前は、人が怖かった。外が怖かった。だが、そんなものは甘えだ。気にしなければいい。元より、私以外の人は、誰も気にしていない。私が気にしなければ、何の問題もない話だ。だが、身体の震えが止まらない。
「シャルルちゃん、お茶会をしましょう。前に一度したことがあるけれど、今日のお茶会は、男子禁制よ。可愛い娘と2人きりよ。楽しみだわ。準備するから、付き合ってね」
オバアチャンは、部屋を出て行った。
「お、お母様? これは一体、どういうことでしょうか」
お土産だという濃緑のドレスを着せられて、むりやり食堂に連れ出されてしまった。途中、誰にも会わなかったし、この場も私たちだけだが、限界が近い。震えと涙が止まらない。
「泣かなくても大丈夫よ。この建物から、家主を含めて全員追い出したから。入って来ないように、警備も置いたし、これなら平気じゃないかしら?」
「家主を追い出してはいけない、と思います。それに、ドレスなんて!」
「家主さんは、大変ご理解のある方でね。シャルルちゃんには、いつもお世話になってますって、率先して外に出て、警備のリーダーをしてるわよ」
本当に、私は何をしてたんだろうか。それとも、シャルルの功績だろうか。
「1番最初は、ジョエル母さんのホットココアよ! お茶もあるけれど、お菓子もいっぱい持ってきたけれど、まずはこれを一口飲んで頂戴」
あまーい、優しい温かいココア。お母様みたいだなぁ、と口にした。
「にっが! え? にっが! あ! 美味しいですー」
油断した。油断した。超びっくりした! ココアっぽい匂いだったのに、全然ココアじゃなかった。異世界だから? 異世界のココアは、苦いのか。
「くすくすくす。いいのよ。素直な感想を言って。孫が、おばあちゃんに遠慮する必要なんてないのよー。イタズラするおばあちゃんだもの。怒っていいくらいよ」
イタズラか! なんだこの可愛いおばあちゃんめ!
「口直しをどうぞ。もうイタズラは終わりだから、安心して食べてね」
今度は、オバアチャンの話を沢山聞いた。私と初めて会った時のこと。一緒にお買い物とお茶会をしたこと。息子5人を育てた苦労話。旦那様との馴れ初めまで。
「素敵な出会いですね。憧れます」
「そう? シャルルちゃんは、可愛いもの。もっと素敵な人だって、五万人くらい現れるわよ」
五万人! 恐ろしい。あり得ないの前に、恐ろしい!
「でも、そうね。五万人も現れても怖いわよね。克服するのは10年後くらいでいいと思うけれど、少し練習してみてもいいかもしれないわね」
「練習?」
「男性に怯えないで済む練習。そのままでも充分可愛いし、私だけに懐いてくれるなんて、最高なのよ。でも、泣いてるのは痛々しいもの。直せるなら、直った方が楽じゃないかしら?」
「それは、、、そうですね」
「うちのジョエルがオススメなのよ。見た目は男じゃないし、あんな顔してるけどヘタレだから、シャルルちゃんを怖がらせるようなことは、できないと思うの。どうかしら。一撃殴り飛ばすのを目標に、会ってみない? ちゃんと私も見てるから。何かあったら、トドメを刺すから」
やりたいか、やりたくないかで決めるなら、間違いなくやりたくない。でも、このまま生きていくのも嫌だ。直せるものなら、直さないといけないだろう。既に生活に支障をきたしている。一歩進む勇気! お母様が付き合ってくれる間に勇気! この手を離してしまえば、私は生きていけないだろう。
「おね、がいします」
次回、恐怖症克服できるかな?




