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死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります  作者: 穂村満月
第三章.さよなら大好きだよ

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35.魔法の先生

「ジョエル、ジョエル、お願いがあります! 聞いてください!!」

 ようやく夕飯の席でジョエルを発見したので、早速おねだり開始だ。

「わたしにできることなら、なんでも叶えるよ。何がお望みかな?」

 おお! なんでもできる超人ジョエルの頼もしい言葉だ。やった、やった。今朝の今で、怒っている可能性もあったが、機嫌は悪くないらしい。ジョエルは、お嬢さんやお兄さんのハートを打ち砕く甘い笑みを浮かべている。そんな顔してるから、変な人に絡まれるんだよ。私だからセーフなだけで。教えてあげた方がいいだろうか?

「あのね、あのね。魔法が使えるようになりたいの。魔法の先生を1人でいいから、ナンパしてきてくれないかな? 性別不問だよ」

「わたしのことを何だと思っているのか、とても心配になるのだけれど、魔法使いを探すなら、ベイリーに頼めば、見つかるだろうね。手紙を書いておこう」

「おお! ベイリーさん、ありがとう!! 誰?」

 皆の動きが止まった。

 あれ? ベイリーさんって、重要人物だったっけ?

 私が、この世界で名前を知っているのは、ジョエル、キーリー、タケル、ローちゃんさん、雑貨屋のソーヤーさん、行商のおじさん。ドラゴンさんと、そうそうシャルルも知ってる。あと、誰かいたっけ? ゲイリー?

「わたしの2番目の兄」

「ああ、兄2号! ゲイリーさん、覚えた」

「あんなイケメンで、その扱いか。お前の頭の中は、一体、どうなってる」

 キーリーは、テーブルに突っ伏して脱力している。

「イケメンじゃ、腹は膨れないよね」

「ブレねぇな。じゃあ、うちのイケメンはどうだ?」

「ジョエルの顔は、大好き!」

「!!」

「誰でもナンパ成功して、便利だよね」

「そうだな」



 あれから約一月後、魔法の先生がやってきた。おねだりしたことすら、すっかり忘れていたのは、秘密だ。

「こちら、トリスメギストスさん。当代きっての大魔法使いの先生だよ。シャルルちゃん」

 先生を連れて、お兄さんの誰かもやってきた。来たのが1人だけだったのが、不幸中の幸いだ。呼んだのは、魔法使いの先生で、ジョエル兄ではない。

 魔法使いのトリトリ先生は、多分男だ。私たちと大して年齢は変わらないように見える。白髪に水色の瞳。大変な器量良しだが、ジョエルとはタイプが違う。ジョエルが薔薇背負った王子様か、アマゾネス姐さんなのに比べると、魔王のような氷の微笑だ。色素が薄い所為かもしれないが。

「トリスメギストスと言います。よろしくね、お嬢さん」

 手を差し出されたので、握手を求めているのかと思って手をだしたが、手の甲にキスを落とされた。とても手慣れていた。すごい! これが、チャラ男という人種に違いない。初めて見た!!

「どうぞ、お引取り下さい」

 キーリーは、殺し屋モードに入っているし、ジョエルは、お兄さんを締め上げている。なんでそんなに仲が悪いんだろうか。あんまりやると死んでしまうので、辞めてあげて欲しい。絡まれたくないから、止めには行かないが。

「ベイリー、なんで、あんなの連れてきたのよ、バカなの?」

「希代の魔法使いが家庭教師って、すごいでしょう? 俺の株、上がっちゃうでしょう? 大丈夫だよ、シャルルちゃんは、イケメンに興味なさそうだから。お前、嫌われてるんだろ?」

「嫌われてるのは、お前だ!」



 あの後、先生の歓迎会を開いて、次の日、クレーター跡までやってきた。大した距離ではないが、ずっと先生のエスコート付きだった。蹴つまずいても支えてくれるのはありがたいが、そもそもエスコートなんてされてるから歩きづらいのだ。横暴な師匠を持つ弟子の気持ちが、ちょっとわかった。後で、ローちゃんさんに、お菓子を作ってあげよう。


「じゃあ、やってみせてくれるかな?」

 ジョエルから、指輪は返してもらっている。うなれ、私の魔女っ子パワー!

「氷の精霊グラスィェロよ。彼の地を御力で閉ざし給え」

 ドドーン! っと、クレーターが20mくらいに広がった。折角、少し芽が出てきていたのに、ごめんなさい。

「なるほど。再生の精霊ヴィリエーミャよ。時を戻し給え」

 先生が魔法を使うと、クレーターがなくなった。1か月前の姿に、すっかり戻っている。流石、先生だ。部屋の壁を補修しないまま暮らしていたが、後で直してもらおう。そうしたら、いつ着替えをしても怒られなくなるし、修繕費もかからない。助かる!

「結論から言うと、お嬢さんの魔法は、魔法ではないね。呪文を使って魔力を放出してるだけで、精霊の力はまったく作用していない。それは、魔法とは言わない」

 なんと! やっと魔法が使えるようになったと思ったのに、これは魔法ではなかったらしい。ガッカリだ! 作用が違う辺りで、気付くべきだった。調子に乗って、先生まで召喚して、ごめんなさい。

「そうでしたか。やっと魔法を使えるようになったと思ったのに。私には、無理なんですね」

「そうだね。お嬢さん1人では、一生無理だと思うけれど、ここにはオレがいる。使えるようにしてみせよう」

 この先生、話すといちいち抱きついてくるのは、なんなんだろか。お兄さんズとはまた違う、鬱陶しさがある。



 それからは、毎日、意味のわからないことをさせられた。一日中、地面に寝っ転がるように言われたり、穴を掘ったり、川の中を歩いたり、火おこしをしてみたり、文字の書き取りをさせられたり、れたり、れたり、ごめん、全部は覚えてない!

「ふむ。傾向は掴めた。後に続いて詠唱するように。風の精霊リュフトヒェンよ。我を抱いて歌え」

 先生の身体が浮いた。私も真似して唱えると、浮かぶことができた。下にクレーターも出来たが。そして、しばらくすると、下に降りた。先生も指を鳴らして降りてくる。

「どうだい? これが、魔法だよ。まだ変な魔力が漏れているようだけど」

 てってれー。レベルアップ! シャルルは、空中浮遊の魔法を覚えた。



 今日は、魔法を覚えた記念日だ。帰りに鶏屋さんと牛屋さんに寄って、材料を仕入れて、ケーキを焼いた。渾身のデコレーションケーキだ。季節じゃないのに、イチゴらしき物も生やして飾ったよ。スポンジが若干硬いけど、ご愛嬌だ。私は、パティシエではないし、電動泡立て器もふくらし粉もない世界であれを作るのは、大変すぎる。生クリームだけで死ぬかと思った。村にはケーキ屋がないのだ。諦めろ!

「魔法使い誕生おめでとー。ありがとー。いただきます」

 前々から、シャルルの職業は魔法使いだったが、気にしてはいけない。

 先生とタケルとローちゃんさんとダコタと一緒に食べた。プロの味とは全然違うが、これはこれで思い出の味だ。ケーキ屋では食べれない大好きな味だ。

「満足したか? じゃあ、報酬を払って、先生にはお帰り頂こう。お忙しいところ申し訳ないからな。大変お世話になりました。さようなら」

 キーリーは、1人、隣の席に座っている。ケーキは、拒否された。まだ信頼が足りないようだ。あれ? 前は、お弁当を食べてくれたよね?

「報酬は、いらないよ。ただの暇つぶしだからね。今は、嫁探しの旅の最中で、目的地もなくフラフラしていたんだよ。この村を気に入ってしまったから、しばらくここにいるだけさ」

「嫁探しの旅ですかー。この村の妙齢の女性は全員既婚者か、彼氏持ちだった気がしますよ? 他を当たった方がいいと思います」

 シャルルは16歳で売れ残っているが、この村の人たちは15歳までには大体嫁に行く。嫁に行く前からカップルができているのだから、フリーで1番上の子は、8歳くらいだ。先生の嫁には向いていないだろう。

「そうだな。他をあたった方がいい」

「沢山の候補なんていらないよ。嫁は1人いれば十分だ。そうは思わないかい」

 両手を取られた! もうなんなの、鬱陶しいな!

「済みません。ケーキを食べれないので、離してください」

「食べさせてあげよう」

 うっざ!

「弟子! あー」

 ローちゃんさんに、食べさせてもらう。絶対に先生 にやらせてはならない。ジョエル属性は、ジョエルだけで足りている。

「えーと、口説いているつもりなんだけど、気付いてないのかな? お嬢さん」

「気付く必要もありません。私は恋愛対象外です。絶対に結婚も恋愛もしません」

「「「「何故だ」」」」

 逆に何故だ。わかるだろう? 何をびっくりしているのだ。私が、今までそっち方向に走ったことがあったか?

「まず1つ。私は、以前の記憶がありません。将来的に記憶が戻ったとして、以前の私が好きだった人が相手じゃなかった場合、とても面倒なことになります。年齢的にないとは思っていますが、既に結婚して子どもがいる可能性もゼロではありません。

 その2。キーリーに反対されています。お世話になっている手前、裏切りたくはありません。

 その3。まったく興味がありません。

 以上です」

 私は、いずれ還る予定でいる。面倒なしがらみはいらない。言えないが。

「なるほど。それなら、大した障害ではなさそうだ。時間遡行魔法を使えば、以前の君に戻るだろう?」

 時間遡行?! 科学の力じゃ無理だと聞いたのに、魔法何でもアリか! 私がシャルルになる前に戻せば、私は那砂に戻れるのだろうか? 戻れるものなら、戻りたい。それが自然だ。

 だが、そうなると、ここで出会った人たちとの永遠の別れが訪れる。ジョエル、キーリー、タケル。沢山お世話になった大切な人たち。時間が戻るのであれば、別れるだけでなく、思い出もなくなってしまうのかもしれない。何も返せていないのに。でも、これ以上世話をかけるなら。ちゃんとシャルルさんを返してあげないといけない。

「できるのですね」

「もちろんだとも」

 なあなあで過ごしてきたが、方法が見つかってしまった。戻らないといけない。

「少し、考えさせてください」

 私は、おやつの途中で席を立ち、1人で部屋に戻った。

トリ先生の一人称が、しっくりきません。そのうち変えるかもしれません。

俺様でも吾輩でもない、それらしい一人称を模索中。


次回、閑話です。

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