表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/125

2.お仕事体験教室

 次の朝、こっそり宿を抜け出して、早速バイト探しをすることにした。

 外に出てわかったことは、ここが割と小さな村だっていうこと。産業の主体は農業で、あんまり店はない。おばあちゃんが1人で切り盛りできる駄菓子屋のような雑貨屋と、今住み着いている食堂付きの宿屋くらいだ。給仕のバイトをしようにも、客候補の村人の人数がたかがしれているので、バイトの出番はない。バイトをしたいなら、畑仕事か畜産系動物のお世話くらいしかなさそうだ。子守は無償のボランティアみたいだし。


 一番の問題は、みんなに面が割れているということだ。すなわち、村中の人が、ジョエルのペットのシャルルは働かない、という認識でいること。雇ってくれそうな人もいないし、強引に雇ってもらうほど役に立てそうな仕事がなさそうだった。

 バイト内容は、基本力仕事で、働かないシャルルのパワーでは、どれもこれもお役に立てず、小さい子がお手伝いやろうと頑張ってるね、というような温かい眼差しを向けられ、お菓子やお駄賃をもらって終了した。挑戦はしてみたけど、むしろ邪魔になってお菓子をもらうとか、余計ダメになった気しかしない。ジョエルどころか、キーリーにまで働くことを否定されるのも納得なダメっぷりだ。これは少し考え直さないといけない。


「シャルル、気が済んだなら帰るぞ。飼い主が飯用意してウキウキ待ってるから」

 しゃがんで考えこんでいたら、キーリーに首根っこ掴まれて立たされた。ペット扱いしてるの、お前じゃん。むきー。

「気なんか済んでないよ! バイト見つかってないんだよ‼︎」

 八つ当たりで噛みついたことで、新事実が発覚した。

「シャルルにバイトは無理だって。村の皆にお仕事体験させてやってって頼んでやったけど、全仕事チャレンジして全滅なんだろ? 無理だって」

 村の皆に話してくれるなんて、実はキーリーいい人だった説! 村をあげてのバックアップで、バイト1つ見つけられない自分の不甲斐なさよ‼︎

「そうだなー。どうしても働きたいって言うなら、もう妾になるくら!」

 キーリーは、ジョエルに蹴られて、畑に落ちていった。ほうれん草っぽい何かが、潰れてなければいいけれど。

 そして、私は、ジョエルに肩をガッシと掴まれて、宿に連行された。ジョエルが、めっちゃ怒ってる。今日も女装子だけど、めっちゃ怖い。


「誰が誰の妾になるって?」

 寝ても覚めても自分がシャルルって言う、意味のわからない状況に、これ以上、謎爆弾を投下しないで欲しいと思う。

「できたら妾業にはつきたくないし、ついたところでやっぱり役立たずになる気しかしないんだけど、村のバイトよりはまだ役に立てる可能性があるか、検討する必要はあるかな?」

 自分でも何言ってるかわからないけど、伝わったろうか?

「よし、わかった。今からシャルルは、わたしの妾にするから。大丈夫、手は出さないし、今までと変わらない」

 伝わってなーい! 全然、伝わってない! そして、落ち込んだ。できたらつきたくないって言ってるのに、既に妾みたいなものだった! そういえば、この人男だったし! しかも、仕事しない妾ってー。

「これっぽっちも役に立ってない現状を変えたいの! 仕事しない妾は、仕事する妾以上になりたくないよ」

「あーのーねー。自分が何言ってるか、わかってる? わたしが、シャルルに手を出せば解決するの? 違うでしょう??? いーいの、何もしなくてもシャルル可愛いし、彼女だって言うだけで、女避けになるから。他で、そういうこと言うのは、およしよ」

 あーやれやれって、顔された! だが、本当にやれやれだ。私は、何を言っていたんだろうか。那砂時代は、勉強と節約の日々で、恋愛もしたことがないのに! ラブラブデートどころか、片想いすらしたことないのに‼︎

「女避け?」

「そう。こんな格好してても言い寄られるこの顔が憎い。ここを拠点にしてるのは、宿代が安いからだけじゃないよ」

「イケメン、爆ぜろ」

「はぜろ、って何したらいいんだい?」

 すっごい小声で毒づいたのに、ニコニコ笑顔で返されたー。お怒りが解けたみたいなのはいいけれど、問題は何も解決しないまま、飼い主様のくれたご飯を食べて寝た。クリームシチューみたいなスープに浸して食べるパンが、美味しかった。



 という訳で、また次の日も抜け出して、雑貨屋に来たよ。雇われて働くのが難しいなら、雑貨屋に商品を卸す仕事ができないものか、商品を見学に来たのだ。

「ソーヤーさん、こんな商品欲しいなー、ていうのある?」

 店は小さいんだけど、なんと言っても、村唯一のお店。取り扱い商品が多岐に渡りすぎて、真剣にチェックするのを早々に諦めた。シャルルにダメ出ししてたくせに、私も人のことは言えない根性なしだった。

「そうだねぇ。薬草の類いが足りてないかねぇ。薬草がアレコレあれば、傷薬も毒消しも作れるだろう? 難しい薬は作れないけど、簡単な物なら村の誰でも作れるからね。ほら、この草なんかは、村の中でも生えてるよ。持ってきたら、買い取ってあげようね」

 続・キーリーのお仕事体験教室だ! 村の中になんとなく生えてる草を買いに来る人が、どこにいるというのだろう。もうもうもう。シャルルでも出来そうなお仕事考え教室が、おかしな方向に行ってるよ!

「村の中の草じゃ、買う人いないでしょ。村の外まで摘みに行くよ。行けるよ! ほら、ジョエルやキーリーにも付いてきてもらうし‼︎」

 情けないけど、シャルル一人じゃ村から出してもらえそうにないのは、昨日歩いていて、なんとなく察した。冒険仲間なハズなのに、実態はあの二人は保護者なのだ。お父さんとお母さんなのだ。年齢は、1つ2つしか変わらないのに、なんてことだ! キーリーみたいなお父さんは、いらない。

「シャルルちゃんのって言えば、売れそうだけれど。そうだねぇ。それならできるかねぇ。この草、二色草って言うんだけどね。あの森の入り口辺りに生えてるんだよ。取ってきてくれるかい?」

 高い建物とかないから遠くまで見えるんだけど、あの森というのは、村の入り口から1kmも離れてなさそうな距離。小学校の遠足だって、もうちょっと歩いたよね。保護者連れても、ピクニックから脱却できないとは。いや、保護者の仕事の邪魔にならず、お子ちゃまの自尊心を満足させる提案なのか。完璧だな!

 しかし、私は大人だからね。文句を言わず、仕事をするよ! その仕事をこなすことで信頼と実績を作って、シャルルはできる子働く子ってイメージアップをはかりつつ、体力付けたら村のバイトができるようになるかもしれないよね。



 決まったら、即実行! こっそり入り口じゃないところから抜け出して、見つかったら嘘を突き通して森まで来たよ‼︎ だって、手伝ってもらったら信頼も実績も、いつまで経っても変わらないでしょう? 自分一人で成し遂げて、やればできる子を見せつけるのだ。シャルルが何歳だか知らないけど、私は大人だ。草の一本抜いてくるぐらい、一人でできるさ。


「森の入り口って言ってたよね。森の奥は日陰だからないのかな? 日向に生えてたり、、、。ないなー。四葉並みに難しかったら、どうしようー」

  あっちに歩き、こっちに歩き、薮を覗いてみたり、ちょっと森に入ってみたり。

「なるほど。近くても、探すのが手間なら、売れるかもしれない」

 1時間ほどウロウロして、やっとそれっぽい草を見つけた。ただの草だし、あんまり自信はないけど、名前通りツートンカラーなので、きっとこれが二色草に違いない。

 摘み取ろうと手を触れたら、草が増えた。株元から分枝して一株が大きくなった。ファンタジー世界特有の不思議植物だろうか? なくなったら困るが、増える分には困らない。多分。

 摘み取る度にどんどん増えるので、面白くなって、どんどん抜いた。持って帰るのは無理じゃね? ってくらい次々抜いた。夢中になりすぎた。ここがどこだか忘れていた。だから、気付くのが遅れた。二足歩行の熊みたいな大きい動物だか、モンスターだかが、背後に立っているのに、至近距離になるまで気付かなかったのだ。


 咆哮をあげ、腕が振り下ろされる。一瞬で八つ裂きにされるか、吹き飛ばされるだろう。どっちも嫌だ。怖い。だが、今更、避けても間に合わない。

 だから、皆が守ってくれていたのに、私はバカだ。モンスターがいる世界じゃなかったとして、日本だって、場所が場所なら熊くらい出るのに。

「いやあぁあぁあーーー‼︎ きーいやぁああ! やだやだやだやだやぁーーー‼︎」

 逃げることさえできず、そのままうずくまった。ごめんなさい、ジョエル。笑わないで、キーリー。


 ずっと悲鳴をあげて、丸くなっていたけれど、いつまで経っても、どこも痛くならなかった。どうした、熊? 気が変わって、どこかに行ってくれたなら、それはそれでいいのだけれど。

 おそるおそる顔を上げて、後ろを向いたら、熊がいた。あれ、熊なのかな? 何かに切り刻まれた血まみれの肉塊が落ちていた。


「ひっ」

  意識を失う途中、

「やったー! 熊鍋だー」

という声が聞こえた。

次回、シャルルについて教えてもらいます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ