25.閑話、ジョエル視点
「見つけた」
キーリーが、最後に一緒にいたと言う川原に来た。想像より大きな虎の横にシャルルが横たわっている。あの虎は、絶対に許さない!
剣を抜いて走る。音も消していないので、虎も気付き、こちらに向かってきた。シャルルの近くで戦うと巻き込んでしまう。こちらに来てくれるなら、願ったりだ。誘導して、なるべく離れた場所で対峙する。
虎は、的が大きい。一撃で落とせる! 踏み込んで、下段から首を狙ったが、身を捻って避けられた。
避けられた? なるほど、少し甘く見過ぎたようだ。これは、虎ではないのか。もしや、これが、わたしの敵か。
地面を踏み抜いて勢いを殺し、反転追撃をする。シャルルを取り戻したとしても、逃がすつもりはない。幸い、虎の速度なら追いつける。後ろから追い縋って、足を奪る!
絶対に当たる間合いであったのに、当たる直前で、虎の足が消失した。剣を振り抜いた後に、また足が形成され、走る足を止めることもできなかった。こんなに大きいのに当てられないなんて!
先程避けられた首を狙ってみても、同じように消失し、避けられる。当たりが浅ければ、刃の形だけ肉がなくなる。苦し紛れに素手で狙っても、投石を乱射しても、全て避けられた。
面倒な相手だった。力技でねじ伏せる予定が、周りにクレーターを作っただけだった。もう少し加速したら、いいのかしら?
「だめだめだめだめー!」
折角、離れた場所で始めたのに、シャルルが走ってやってきた。元気なのは良かったけれど、虎をかばう位置に立っている。もう取り憑かれてしまっているのかもしれない。許せない。 絶対に狩る。
「猫ちゃんをいじめないで!」
虎の前に立つなど危ない。シャルルをこちらに抱き寄せた。
「危ないでしょう。何をしているの?」
「ジョエルから、猫ちゃんを守るの!」
シャルルの中では、わたしが悪者になっているらしい。なんてことなの。許せない! 許せない!!
シャルルは、猫を抱えて逃げ出した。
「ルルー、それを離しなさい」
シャルルに追いつくのは簡単だけど、何て言ったらわかってもらえるかしら? それは危ない魔獣なのに、ローワンを助けた時のように、いつまでも執着されたら困る。
「やだやだやだやだ」
「それは見た目は可愛いかもしれないけれど、わたしの今回の討伐対象なの。猫鬼シャノワール、取り憑いて人を呪い殺す魔獣だよ」
言っても無駄だった。わたしと同じくらい大切と言われてしまった。そんなことを言われてしまったら、どうしていいか、わからない。喜ぶべきかしら。悲しむべきかしら。でも、次の言葉で、全てが弾けた。
「私、誘拐されたの。この子が助けてくれて、ここまで逃げて来れたの。おかげでジョエルにも、また会えた。この子がいなかったら、私、売られてどうなったか、わからないの。助けてもらったのに、見殺しになんてできないよ。いっつも助けてくれるジョエルが死ぬのを見てるのと一緒じゃない。ジョエルが死ぬなんて、絶対に嫌なんだから!」
聞き逃せない発言だった。シャルルを攫ったのは、虎じゃなかった。そうなの。あ、い、つ、ら許さん。
「へぇえぇー。そぅおなの。ハリセンボン飲ましてこなくちゃいけないみたい。キーリー、ルルーを連れてついてきなさい」
「イェッス、サー!」
シャルルたちを置き去りにして、冒険者ギルドへ行った。壁を破壊して中に入る。
「ギルド長は、何処かしら?」
窓口の人間に話しかけはしたけれど、答えは特に必要ない。ギルド長の顔は知っている。自分で探せる。
カウンターを破壊して、職員ブースに入った。職員が騒いで、たまたま居合わせた冒険者がかかってきたので、ひとまとめに薙ぎ倒す。
「この中に、ギルド長はいないわね?」
確認したら、二階に上がる。人に会えば、邪魔してくるから、それも張り倒す。壁に穴を開け、階段を上り、しらみつぶしに探す。5階で、ギルド長を見つけた。
「なんだ。いるじゃないの。呼んでいるのに、なんで出て来ないの?」
「じ、ジョエルくん? 壁を壊してはいけないよ。ドアから入ってきて欲しかったな」
「あら、ごめんなさいね。ドアがどこにあるか、わからなかったのよ。
そんなことよりね。知ってる? うちの可愛いルルーがね、あなたが手配した護衛に誘拐されたって話」
「ゆ、誘拐は、虎が! 今、探しているから。すぐ、すぐに見つかるとも!」
「誘拐犯に探させて、どうなるの? バカなの? ふざけるのもいい加減にして欲しいわね。
誘拐の証言をしたのは、ルルーよ。ルルーを嘘吐き呼ばわりするつもりなのかしら?」
ギルド長の前に置かれた机を粉砕した。
「ひっ! いや、見つかって良かったと思っているとも!!」
「ルルーは、ボロボロだったわ。誰の所為かしら」
天井に大穴を開けた。
「すぐに犯人を指名手配しよう! もちろん、資格証も永久剥奪だ」
「それのどこが罰なのかしら? わたしなら、特に気にしないわ」
壁に穴を増やす。
「実行犯の罰の内容は、全面的にそちらの案を採用する!」
「そうね。速やかに身柄をよこしなさい。入れ墨を入れた上、好事家に売り飛ばすから。シャルルにしようとしたんだもの、構わないわよね?」
床に穴を開けた。
「言い分を聞いたのに?!」
「あなたの罪に、気付いてないのかしら?」
壁を一周切りつけた。ギルドの建物が、1階分小さくなった。
「大変申し訳ありませんでした。反省して、可能な限り全面的にそちらの要求を飲みますので、何卒、何卒!」
「そうね。当然ね。
まず一つ。猫鬼討伐依頼は、任務完了とすること。
そして、今回見つけた猫鬼は、シャルルの従魔だったので、事件と無関係とすること。もちろん、以後不都合があれば、わたしが対処するわ。
更に、もう2度とわたしに指名依頼を出さないこと。わたしは、しがないCランクなの。面倒な仕事をやる力量はないのよ。期待しないで。
これらの条件を守られなかった場合、わたしは物理的にギルドと関係者を破壊する。以上。どうかしら?」
もう一階潰した。
「じょ、ジョエル君をS S Sランクに認定する。高ランクだが、ギルド長よりも上の立場とするので、お伺いはしても、強制任務は発動できないものとする。その他の意見も全面的に受け入れよう」
「そう。それなら、いいかしら」
後は、特に用はないので、残った建物を完全にガレキにして出た。
「ルルー、ホテルに戻ろう。話がある」
ホテルの部屋に戻ると、ローワンを片付けて、シャルルに着替えを促す。シャルルは、痛々しいほどにズタボロだ。傷薬で全部治るだろうか? 痛みの記憶は、治すことができない。依頼を受けたことが、悔やまれた。
ルームサービスが届いてすぐ、シャルルがこちらにやってきた。何とかうまく話をしなければならない。
「わたしの仕事、その魔獣の討伐だったの。猫鬼シャノワール。人に取り憑いて、呪い殺す魔獣なの。戦闘力だけで攻めても取り殺されるだけだから、討伐がはかばかしくなかったみたいで、必死に話を振ってこられたのよ。実際、何人もやられちゃってね。
わたしは、派遣されても見つけられなくて、毎日空振り。まさかルルーといたなんて、気付かなかった。いつからの仲なの?」
「一昨日初めて会いました。昨日もずっと頭の上に乗せていました。フードかぶって見えなかったと思うけど」
シャルルの声が固い。警戒されている。それが、とても悲しい。
「そんな近くにいて気付かなかったなんて、わたしもまだまだだわ」
シャルルは、やっぱり猫と猫鬼の区別がついていないようだった。そんなシャルルだから、わたしみたいなのを悪く言わないのだろうし、こんなに可愛く思うのだろう。飼いたがるのは、想定内だ。
だけど、今後猫鬼が問題を起こした場合、耐えられるかしら? そうなったら、わたしが責任を取ればいいだけだけど、シャルルは間違いなく傷付くだろう。
「ギルドには、ルルーの使役してる魔獣だって届け出をしておいたから。今までの被害は別個体の犯行で、無罪放免。ギルドが、山のような貸しを作ってくれたからね。力づくでゴリ押ししてやったわ。
但し、次はわたしの討伐対象よ。依頼がなくてもね。それは、止めても止まらない。約束できる?」
わたしは、うまく説明することができなかった。シャルルは自殺すると言い出し、キーリーに意識を刈り取られた。
瞬間、猫鬼がシャルルから出てきて、キーリーに何かを飛ばした。
「っつっ!」
キーリーの左肩が焦げた。
「けんぞく、さわるな!」
驚いた。本当に猫鬼がシャルルを守っている。取り憑くでもなく、呪うでもなく、守るという事例は聞いたことがない。
「その男は、ルルーを虐めたんじゃないわ。死なないように、守ろうとしたのよ」
「うそだ!」
「ルルーが死のうとするから、止めたのよ。生きる気力を感じないでしょう? あなたなら、わかるわよね?」
「けんぞくは」
「あなた次第で、ルルーは元気になるわ。話を聞く気あるかしら?」
猫鬼は、大人の女性に姿を変えた。
「きく」
シャルルをベッドに寝かせ、猫鬼と席に着く。
「はじめに言っておくわ。女になっても、惑わされないから」
「わかる。けんぞくにおとる。おおきくなる。はなしやすい」
「そう」
もしかしたら、猫鬼もわたしのお仲間なのかもしれないのね。
「率直に言うわ。ルルーは、あなたと暮らしたがっているの。でも、あなたは猫鬼でしょう? ルルーに取り憑いたり、周囲の人間を呪ったり、ルルーに関係ないところで毒を撒かれたりすると、困るのよ。連れてるルルーの汚点になるの。わかるかしら」
「わかる。けんぞくのなをうける。ねこになる。ひとになる。けんぞくと、ともにある」
魔獣は、名を受けると名付け親が絶対になる。勝手に名付けただけでは変わらないので、注意は必要だが。
「そこまでの覚悟を見せるなら、いいかしら? 不穏な姿勢を見せたら、討伐するわよ。疑わしいだけで、やるわよ?」
わたしは、一応納得することにした。一番大切なのは、シャルルの希望を叶えることだ。それ以外は、大体でいい。
「何故、シャルルに取り憑かなかった?」
キーリーは、納得できていない顔だ。こういうことは、元々得意ではない。キーリーに任せてもいい。失敗して、シャルルに嫌われたらいい。
「けんぞくはけんぞく。とりつかない。
けんぞくはまだごさい。みりょうできない」
「「5歳! 確かに」」
妙にしっくりくる発言だった。以前のシャルルは、仲間になった後も警戒を解いてくれなかったが、今のシャルルはお風呂ですら一緒でもまぁいいか、などと発言することがある。中身の年齢が5歳なら、なんの不思議もないことだった。
「眷属ってなぁ何だ?」
「けんぞくは、クロのけんぞく。だいじななかま」
「黒いのが、そんなに大事なの? 種族は、どうでもいいのかしら」
「そういや、前にシャルルを娘だって言ってたオッサンも黒くなかったか? お前、黒けりゃ、馬もウサギも眷属か?」
「うましらない。うさぎはおいしい」
「眷属食ってんじゃねーよ。ダメだろ、これ。連れて行けねーよ」
「そうね。ルルーのそばにいる間は、わたしかルルーが許可した物しか食べないこと。どうせ何も食べなくても、1年かそこらは死なないんでしょう?」
「けんぞくは、かなしませない。けんぞくは、だいじにする。ちゃいろはいらない」
猫鬼との話はついた。猫鬼の首を捕まえて、シャルルの目覚めを待った。猫鬼をペットにしたら、元気になるといいけれど。元気になってくれるなら、周囲の被害など、目をつぶる。
目を覚ましたシャルルの顔色は、悪かった。ケガの影響か、猫鬼の所為か、わたしの所為か。聞くのが怖い。
「ルルー、とりあえず、これに名前を付けなさい」
猫鬼を出した。猫鬼が人型になっているから、シャルルは黒髪に反応した。シャルルがダメだと言えば、猫鬼は、眷属の色も捨てるらしい。気持ちはわかる。
「なまえ、つけて」
猫鬼に頼まれて、シャルルは真剣に考えだした。なんか腹立つわね。名前の内容なんて、どうでもいいのに。わたしの名前を考えてくれないかしら。
「ジョエルとシャルルの子どもみたいで、可愛いかな、って思ったんだよ」
と言われた時は、少し舞い上がってしまった。シャルルとの子どもはいい。欲しい。すぐに霧散してしまったけれど。猫鬼を可愛がったら、夫婦みたいになれるかしら? それならば、猫鬼が人を食っても許せる気がする。
最終的に、タケルという名に落ち着いた。タケルは男性名らしい。猫鬼が、男になってしまった。男は間に合っている。一生の不覚だ。
後で、大人にはならない様、言い聞かせないといけない。言い聞かせたら、
「けんぞく、こどもにやさしい。おとなにきょうみない。けんぞく、おとなになるまで、こどもがいい」
という打算的な返事があって、落ち込んだ。
村に帰ろうという時に、討伐終了の約束のハグをしてもらえた。このためだけに生きていた! 感動したが、こちらからは抱き返せない。
シャルルは、するりと移動して、キーリーのところへ行ってしまった。キーリーとは約束していないハズなのに! しかも、キーリーは、抱きしめ返していた。長い。ズルい!
それだけならまだしも、キスまでされていた。どういうことだ。その男が、何をした? 何もしていないだろう。この差は何だ!! 自分にもするよう主張したが、キーリーにキスをしたらいい、と言われた。
「そうか。わかった」
シャルルの痕跡を跡形もなく消してやろう。
キーリーを組み伏せて、蹂躙した。抵抗しても、無駄だ。
次回、章は変わらないけど、新しい話始めます。
家族になるのです。




