20.リゾートホテルに泊まったら
あれから、行商のおじさんは、冒険者ギルドに掛け合って、リゾートホテルのスイートルーム宿泊無料券を持って戻ってきた。スパやらなんやら、ホテルだけじゃ収まりきらないオプションが、フル装備でついている。私の護衛や、薬草採集の送迎までついている。冒険者ギルドの本気を見た。どれだけ困っているのか。または、ジョエルの期待値の高さがハンパない。
「ジョエルって、すごいんだね」
「ソロでSランクだった時があったの。ほとんど仕事はしてなかったけれど」
行きたーい! とおねだりしたくなる前に、とんでもない条件にドン引きだ。ここまでプッシュしてくると、そんな戦場にジョエルを出してはいけないんじゃないかと心配になる。そもそも何の仕事か聞いてない。私は、かなり無責任なことをしている。
「断った方がいいよね」
「なんで? 折角、条件が良くなったのに」
「だって、ジョエルが危険な仕事してるのに、温泉入ってるとか、あり得ないよ!」
「たいした危険はないのよ」
「そんなことで、この待遇はないでしょう」
「ルルーがいると危ないのは、わたしが余所見をするからよ」
は? 余所見?
「あー、ルルー今何してるかなー。今日も可愛いなぁって、ついつい余所見しちゃうから」
マジで、ふざけた理由だな!
「毎日、温泉つるすべルルーにハグしてもらえるなら、むしろ仕事を長引かせるのも、アリね」
ダメだ。この人。
「ハグは、成功報酬です。仕事完了時、初回一回のみのサービスとなっております」
リゾートホテルに出発する日がやってきた。徒歩ダメ、馬ダメ、馬車ダメときて、今回は、ジョエルに乗って行くことにした。キーリーとローちゃんさんは、馬に乗っている。
私とジョエルとキーリーの荷物は、私が引き受けているが、ローちゃんさんの荷物は引き受けていないので、一人だけやたらと荷物が多い。可哀想だと思ったが、旅をするなら普通のことだと言われてしまった。
私が乗るのは、いつか山登りに使用した背負子だ。今のところ、乗って無事だった乗り物がジョエルだけだったので採用したけれど、お仕事前にすり減らないだろうか。出張先に着くまで、数日毎日フルマラソンって、最悪じゃないか。
「ジョエル、やっぱり馬に乗ろう。目をつぶってれば、大丈夫だよ」
「そうね。その手があったわね」
私は、背負子から下され、お姫様抱っこに変更。猛烈ダッシュが始まった。馬より速いって、どういうこと? 私は、馬が怖いのではなく、速いのが怖いのだと知った。最初は、かじりつきでしがみついていたけれど、途中で力尽きた。
2日でホテルに到着した。今日は、ローちゃんさんと馬に乗っている。馬を走らせず、早歩きくらいなら、それほど怖くないのに気付いたのだ。実験してみたところ、ローちゃんさんの早歩きテクが気に入ったので、一緒に乗ってくれるようにお願いした。ジョエルとキーリーにはグチグチ言われたけど、無視だ。私の健康的にも、2人分体重を支える馬的にもベスト選択だ。
ローちゃんさんの自由意思は、弟子は師匠の意見に頷いていればいいという横暴な思想により、聞いてもいない。だって、断られたら死ぬしかないじゃん。
「やっと着いたねー。ローちゃんさん、お風呂行こう」
「ダメです」
ローちゃんさんに聞いているのに、キーリーに断られた。納得がいかぬ。
「なんでよー」
「お父さんは、認めていません」
「折角、温泉付きなのにー。じゃあ、お散歩行こう」
「ダメです」
「なんでよー」
「今日は、お母さんの壮行会です」
そうか! それは、断られても仕方がない。なんでここに泊まれることになったのか、って話だ。
「今日は、お仕事ないのか! じゃあ一緒にお風呂入ろう」
「え゛っ⁈ いいの?」
「ダメです」
「なんでだー」
「俺たち全員男だからだ! 覚えておけ!」
忘れてた!
仕方がないので、1人でお風呂に行った。キーリーは、3人で入れてズルいと思う。仲間はずれな気分だ。
だから、護衛のお姉さんを誘って一緒に入ったのだが、誰が格好いいだの、彼女いるか教えてだのと言う話ばかりで、面白くなかった。ジョエルやキーリーが誰と付き合ってるとか、心底どうでもいい。知らんという言葉じゃ許してもらえなかったので、実は2人は両思いなんだけど秘密ね、って言っておいた。秘密だから、大丈夫だ。2人にバレることはないだろう。やっと夕飯の話とか、この辺の名所とか、有意義な話ができるようになった。
風呂上がりで、ホコホコになってのオヤツタイムだ! 私は、かなりトロピカルなパフェを注文した。2mくらいあるかなりビッグなパフェだ。みんなで食べようね、と言ったのに、ほぼ1人で食べた。
食べた結果、あんまり大きいのは食べにくいことがわかった。そもそも自分が2mも身長がないので、床に置いても上まで届かなかった。そして、下の方は、どうやって食べるのが正解かもわからなかった。ジョエルを踏み台にしてたら、ギルドの偉い人に怒られて、ギルドの偉い人が、ジョエルに怒られていた。大変申し訳ないことをした。
次の日、朝からお風呂でホコホコ、ジョエルのお見送りをした。ありがとうジョエル。あなたのことは、忘れない。
朝ごはんを食べたら、ローちゃん弟子による薬草学習フィールドワークだ。昨日、一緒にお風呂に入って今更だけど、フードをかぶって護衛のお姉さんに囲まれて出かける。
今日は、竹林で採集だ。以前、習った草やキノコや苔なんかを見つけて、弟子のチェックを受ける。合格をもらったら、麻袋への移植も忘れない。荷物の出し入れは、マントの中でこっそりやっていたが、段々荷物が増えると不審がられていた。歩くのも遅い護衛が必要な私が、1人でマントの中だけで荷物をごっそり持ってるとか、あり得ない。普通に誰かに持ってもらえば良かったかもしれない。キーリーとか、すごい暇そうだった。
お昼は、適当なところにかまどを作って、久しぶりに料理した。人数が多いので、パエリアもどきやジャンバラヤもどきなど、炭水化物モリモリだ。BBQゾーンは、串打ちまではしたので、後は勝手に焼いてもらう。
護衛のお姉様たちは、役に立たなかったが、ローちゃんさんは、即戦力として調理に採用した。調理と創薬は似たようなことをするからね。だから、ご褒美に全員分を用意するのが面倒になって、1人で食べてたスモアを分けてあげたら、キーリーに睨まれた。
「お前、初日から、楽しみすぎじゃね? あいつ、スネるぞ」
「ぐふっ。こ、これは、ジョエルにお礼で振る舞うための練習と、オススメ料理を探るためのアンケート調査だから! サプライズするので、皆さまナイショでお願いしますー」
ごめん、ジョエル。早速、忘れてた!
夜遅く、ジョエルが帰ってきたら、罪滅ぼしのハグだ! 疲れてる人に付き合わせるのは、良くないか相談したら、絶対にやれ、と監視がついた。
「ジョエルー、おかえりー、お疲れ様、ごめんなさい、ありがとうー」
部屋に入って即、実行しようとしたら、汚れてるからダメよ、って怒られた。失敗した。もうハグはやめよう。一生しない。
「お前、よくわからんところでヘタレだな」
2日目は、樹林を探索だ!
昨日の道も大変だったが、今日もなかなかだった。なんで根っこが地上に出てるんだ! 人を転ばそうとしてる意思しか感じられない。あとは、すごいキノコがいっぱい採れた。めちゃくちゃいっぱい採れたけれど、ほとんどが毒キノコだ。食べるのには使えないが、薬に使えるものもある。持って帰るのだが、見た目は美味しそうなので、食べたくてたまらない。要注意だ。
キノコをもいでいたら、黒猫を見つけた。私が知ってる猫の半分くらいの大きさの猫だ。子猫だろうか? キノコの匂いを嗅いでいたので、お弁当を分けてあげた。味付けしてる食べ物をあげるのは良くないかもしれないが、毒キノコや、生キノコを食べるよりはマシなんじゃないかと思う。
食べるだけ食べたら、猫は、すぐにどこかへ行ってしまった。ナデナデしたかった。可愛かった。
異世界は、こんなところに猫が出没するのか。山猫的な生き物なのだろうか。見た目は家猫よりファンシーだった。
3日目は、樹林で狩りをするらしい。創薬は、動物性の材料も使うからね。本来なら私も参加するべきだが、戦力にならないので、キーリーに代わってもらっている。弟子が持ってきた物を横取りするのでも構わなそうだが。そういう訳で、お散歩して終了だ。
また猫を見つけた。自信はないが、昨日と同じ猫だと思う。早速、餌付けだ。こんなこともあろうかと、今日は、猫用フードを作ってきたのだ。鳥肉味と、熊肉味と、魚味を用意したのだけど、全部食べてくれた。小さいのに、お腹壊さない? って心配しつつも、嬉しかった。
今日は、撫でさせてもらえたし、くっついてきたので、連れ帰った。皆に見つからないように、こそーっと。
久しぶりに1人じゃない部屋だ。嬉しい。あと5、6匹欲しい。
4日目は、川原付近で薬草採集だ。はしゃぎすぎて、すべって川に落ちたので、1人で早々に帰った。1人と言っても、護衛のお姉さんもいっぱいいるけど。
帰る道で、そのまま私は、誘拐された。
犯人は、護衛のお姉さんたちだ。護衛全員がグルなら、私など簡単にさらえる。それがわかるから、抵抗することもなく、ついていった。傍目には、手を繋いで歩いているだけだ。誰かに見られても不審がられないし、人気のない場所を歩かされたから、助けも呼べない。助けを呼んでも、助けてくれた人に誘拐されそうなのが、私だ。どっちがマシか、わからない。逃げられなかった。
軟禁部屋につくと、お姉さんたちは、私の捜索をするため戻って行った。監視は別の人間だ。
黒髪の子は、売れるらしい。そんな理由で人を攫うなんて。さらうヤツも買うヤツも、どうかしている。もう面倒だから、頭を剃ろうかな。
頭の上に乗っていた、黒猫ちゃんを下ろしてあげた。
「巻き込んじゃって、ごめんね。貴方だけでも逃してあげないとね」
そう声をかけたら、黒猫ちゃんは巨大化した。ゾウよりは小さいが、どう考えてもトラより大きい。大きくなったら、壁を猫パンチで破壊して、大穴をあけた。石造りの壁を破壊するとは、すごい馬鹿力だ。
穴は、外につながっていたけれど、ここは二階だ。落ちたところで死にはしないと思うけれど、落ちる勇気が出ない。どうしたものやら悩んでいたら、黒猫ちゃんに服を噛まれて振り回されて、背中に乗せられた。まさか?
「ひぃいぃいっ!」
飛び降りた。トラ的には余裕な高さかもしれないけど、捕まるところもなく飛び降りられて、私は違うところに落っこちた。左腕から落っこちて、かなり痛かったが、多分、ケガはない。大丈夫だ。気にしてはいけない。
だが、大穴を力づくで開けたり、悲鳴をあげたり、落っこちてみたり、大騒ぎしたので、逃げたのは丸わかりだ。猫と一緒に走って逃げ出した。普段の運動不足が祟って、すぐに走れなくなると、また背中に乗せられた。つかまるところがないのだが、必死で抱きついた。何処へ向かってるかわからないが、お任せだ。追手が見えている。無傷で捕まえるためか、攻撃は飛んで来ないが、人数が多くてあちこちから湧いてくるのが厄介だ。とりあえず、どこでもいいから、逃げ切らないといけない。
まっすぐ走ってる間も大変だが、曲がるのは急カーブだし、飛ぶし、落ちるし、掴まってるだけで大変で、何度か落ちた。すごい痛い。服もボロボロ、手足は擦り傷、アザだらけ。落ちる度に戻ってきて乗せてくれるので、助けようとしてくれているのはわかるけど、諦めさせてくれない罰ゲームかもしれないと思った。もう痛いし、諦めたい。猫ちゃんだけ逃げてくれれば、それでいいと思う。猫ちゃんだけなら、余裕で逃げられる。だって、誰も追いかけない。私がいるからいけないのだ。
遅くなりまして、すみません。
次回、閑話ですが、明日あげます。
テンション下がってます。
すみません。
なろうさんの層の厚さに、へこたれてます。




