15.閑話、キーリー視点〈後編〉
山に到着したら、2人と離れて山中を捜査開始だ。
土地勘が全くないので、しらみつぶしに走り回る作戦だ。狩人だった俺は、山に慣れている。体力魔神の阿呆は、なんでもアリだ。とっとと見つかればいい。
3度目の下りの途中で、カゴを見つけた。草が入ってる辺りが、いかにも薬師っぽい。大穴の存在を確認して、笛を鳴らした。
シャルルを背負ったジョエルが来た。
「多分、これじゃないか? 生きてる保証はないが」
草が入ったカゴと大穴を見せる。
「滑落した跡はないようだが、落ちてないなら、カゴを持って帰るだろう? モンスターに喰われたとかじゃなければ」
「ひいぃっ!」
怯えた顔も可愛かった。流石、シャルルだ。
シャルルにロープとカンテラを用意させ、その辺の木にロープを縛りつけたら、穴を下って行く。斥候はジョエルでも構わないが、自分で見た方が確実だ。
降りた場所は、何もなかった。横穴があったので、周囲をざっと確認したら、合図を送る。ジョエルがシャルルを抱えて降りてきた。斥候をやらせれば良かったか。
「キーリー、何の用だい?」
「死体はなかったが、横穴がある。もし落ちて無事だったとして、ここを登って戻るのは現実的じゃない。俺なら、一か八か、横穴に行く」
「そうだね」
「問題は、穴が三箇所あることか?」
「転げ落ちた人間が、方角がわかるのか、ね?」
現状確認は、終了だ。後は、シャルルを丸め込まなければならない。
「という訳で、帰るか! 薬師は他にも五万といるだろう」
「そうねー。次は、女薬師を見つけましょう」
ジョエルも同意見なようだ。だよな? 見つけたとして、薬師は男だからな!
「え? なんでなんで? 助けに行く流れじゃないの」
だよなー。そう簡単には行かないよなー。ジョエルなんでもできるからなー。邪魔な男だよなー。
「そんな予定も装備もないし、義理もない。命をかけて、やらなきゃいけないか?」
「うー」
シャルルは、下を見て動かなくなった。やっぱりダメなんだな?
「しれっと帰る作戦失敗したな」
「そうねー。お弁当も持ってきたし、装備は、ルルーが持ってるので足りると思うんだけど、かなり荒れてる死体が出てきても、錯乱しない?」
阿呆、それは言わない約束だろ? お気楽娘を気付かないまま連れ帰るのが、定石だろ?
「頑張る」
ああ、もう。
「背負って帰る人間が、起きてても寝てても、どっちでもいいか。癇癪だけ起こすなよ」
なんかイロイロ諦めた。
シャルルが左だと言うので、左へ行く。下りの道だった。考えて選んだのか、適当に選んだのか、どちらだろうか。
「これって、人工物だよね?」
「自然の神秘とは、いいがたいな」
横穴は、一定の広さ、等間隔の階段で続いている。人間が作ったにしても、こんなに正確にできる気がしない。歩きやすいが、とても不自然な穴だった。
「人工物なら、薬師生存確率が上がるが、これは違うような気がするよ」
一本道を20分ほど歩いて、行き止まりに着いた。正確にはまだ先があるが、歩いて行けるのは、ここまでだ。湖が先まで続いているようだったが、そっちまで探すとか絶対に嫌だ。
「ハズレか」
降りたところに戻ってきたら、ロープがなくなっていた。
「さて、どうする。帰るか、行くか」
聞く前から、結果はわかっているがな。俺は、そろそろ帰りたい。別に薬師いらねーし。
「帰るって、帰れるの?」
「シャルルが、まだロープ持ってるだろ? 俺が弓で上に上げてもいいし、ジョエルなら登れるだろうから確実だな」
「ボルダリングすればいいだろう? 足場は、自分で作らないといけないけどね」
そうか。足場を作っていいなら、俺でもいけるな。 大変だから、やりたくはないが。
「わたしの見立てだと、ロープ回収は薬師じゃない。きな臭い場所だから、撤退することをオススメするよ」
「そうだな。ジョエルが責任持って、女薬師をかっさらってくるから、心配ないない」
「薬師さんが!」
「ロープ回収した奴らが、どうにかしてると思わない?」
「あ」
よし、ようやく丸め込み終了か。長かった。
「わかった。かえーーー⁈」
後方で、風切り音がした。守るべき対象をジョエル方面に突き飛ばす。ジョエルは、素早くシャルルを拾った。あいつは、もう大丈夫だろう。エグいくらい飛んでくる何かに対処することにした。
回避に専念していると、足場の予定地に穴が開く。計算しつくされた連動に、腹が立つ。なんて性格の悪い罠だ。設計者とは絶対、知り合いたくない。
ギリギリの回避を続けていると、腹が立ってきた。何で一方的にやられてなきゃいけないんだよ。キリがないなら、このままじゃジリ貧だ。隙を見て、転がっている矢や槍を拾って、発射口に投げつける。効果があるかは知らんが、ストレス解消だ。
同じように回避を続けていたハズの2人が揉めてる声が聞こえて、そちらを見ると、シャルルが槍を欲しがっていた。この非常時に何を、と思いかけて、シャルルの意図を理解した。
軽くて沢山持てる矢を集めて、ジョエルに寄って行く。
「シャル、パス」
放り投げると、シャルルはまとめてごっそり吸収する。思った通りだ。矢が少なくなったら、槍も拾って持って行く。ようやくジョエルも理解し、協力を始めたようだ。目に見えて、飛んでくる槍や弓矢が減ってきて、そのうち打ち止めになった。
そうだよな。こんな山ん中で、そんな潤沢な物資量はあり得ないよな。
「終わったか?」
「まだ1本2本隠して狙ってるかもしれないよ?」
そう言って、ジョエルはシャルルを降ろした。やれやれ。
だが、気を抜くのはまだ早かった。シャルルが落とし穴に落ちたのだ。
「シャル!」
急いで飛び付いたが、穴が塞がった。ジョエルに粉砕させたが、俺たちには入れない穴だった。
「あいつ、絶対に許さない!」
ジョエルが、すごい勢いで走り出した。
「おい。どこへ?」
「多分、知り合いよ」
フルスロットルのジョエルには、追いつけない。必死に追いかけた。ジョエルは、3つ目の横穴に飛び込んで行く。行き止まりは壁を粉砕で突破だ。崩れないか? 大丈夫なのか? 追いかけるので精一杯で声もかけられないが、崩れたらシャルルだって助けられない。小さい生き物がわらわら出てきたが、それもすべて弾き飛ばされた。ジョエルを止められる物は、何もなかった。
しばらく走り続けると、剣戟が聞こえた。ジョエルだろうか? 広い空間に抜けると、とんでもないことになっていた。
黒い大きなドラゴンがいた。その上を走り回って斬りつける阿呆がいた。常識外も大概にしてくれ。それがお前の知り合いか。
ドラゴンは、ジョエルとの漫才に忙しく、こちらに気付いていないようなので、素通りして、シャルルを探す。行きたい方向に道がある訳ではないので難しいが、こちらだと思う方角に進む。
黒が見えた。黒だ。俺の黒だ。
「かくほー」
逃がさないように、走って飛び付く。罵られて、頭を叩かれているが、もう離さない。俺の可愛いシャルルだ。
次回、村に帰ります。
閑話は続きますが、一章完結です。




