14.閑話、キーリー視点〈前編〉
シャルルが、薬師になると言いだした。本人は、暇つぶしの一環だの、生活費の足しだのと言っているが、楽しいのだろう。瞳がキラキラしている。可愛い。
やりたいなら、材料は、そこらでむしってやってきてもいい。失敗作ができたとしても、村人はシャルルが作ったと聞けば、喜んで買いに来るに違いない。中身など、薬でも石ころでも何でもいいのだ。シャルルに話しかけるネタができるかもしれない、ただそれだけで金を払うヤツがゴロゴロいる。腹の立つことに。
シャルルは、その辺で抜いてきた草で、みんなが作れる大衆薬を作って、自信満々売りに行った。シャルルでなければ止めるところだが、あっという間に売り切れた。価格が無料だったからではない。壮絶な奪い合いが起きていた。傷薬でケガ人を出して、どうする。流石、シャルルだ。
だが、シャルルの傷薬は、とんでもない代物だった。その辺の草を混ぜるだけで、瞬時に傷が跡形もなく消え失せた。本人は、変な節を付けて歌って暢気なものだが、これは只事ではない。またシャルルの価値が上がってしまった。
元々の価値ですら守り切れる気がしなくて、ジョエルを入れた。イケメンを抱えるなど、苦渋の選択だ。だが、背に腹は変えられなかった。そしてまた、狙われ要素が増えた。俺は、シャルルを守り切れるだろうか。
すっかり創薬のトリコになったシャルルは、薬師に弟子入りをしたいと言い出した。学びたいのはわかるが、弟子入りはどうだろう。師匠がクズなら、目も当てられないことにならないか? 算盤を弾いてはみたが、シャルルを止められる気がしないし、シャルルが可愛い。温泉街に行くことにした。
シャルルは、馬がダメらしい。まったく使い物にならなくなっているので、ジョエルに任せて、薬師を探すことにした。どんな人物か、シャルルが接触する前に確かめておかなければならない。もし不適格な人物であれば、他の物で気を散らして連れ帰ればいい。
薬師の情報は、すぐに集まった。少年のような見目のオッさんで、抜けたような野郎だが腕だけは確からしい。今は外出中で、会えなかったが、いないのは悪いことではない。数日、温泉を楽しんだら諦めて帰れる、いい口実だ。
俺は気をよくして、そのままガス抜きに行った。
宿に行く途中、見慣れた黒髪が絡まれているのを見つけた。何故、1人で出歩いているのか。あのイケメンは、何をしてるのか。殺意をみなぎらせて、シャルルの肩を掴んだ。
幸いにも騒ぎも起きずに終了したが、怒りのやり場も失せた。宿に入って、弓でストレス解消をした。ジョエルに向かって、矢を乱射する。一本くらい刺さればいい!
しかし、やはりジョエルには敵わなかった。寝てても勝てないって、どういう理屈だ。マジで腹が立つ。
シャルルが抱きついてきたので、それで溜飲を下げ、弓を投げる。
「シャルルが、誘拐されたぞ」
だが、情報共有はする。黙ってても変わらんような気もするが、一応言っとく。
「いるじゃないか」
こいつは!
「助けてきたからだ」
「ルルー、無事? 何があった?」
やっと理解したらしい。腕があるくせに、使えないイケメンだな。
「うー?」
「誘拐されてた自覚もないからな!」
だから、ちゃんと見てなきゃいけないんだ。記憶がないなら、何が危ないのかもわからないだろうからな。
「面目ない!」
「危うく、殺人事件を起こすところだった! あれが死んでも世のためだとしか思わんが、正当防衛が成立するかわからんし、シャルは気に病むぞ! 面倒臭い 。大事なら、ちゃんと見てろ」
こいつの身体や心がどうなろうと俺は気にしないが、できることならこのまま笑顔を守ってやりたい。記憶を失くすのが良いことかわからんが、折角笑えるようになったんだ。
阿呆が起きたら食事をして、温泉に入った。何が悲しくて女装男と入らにゃならんのかわからんが、シャルルと一緒に入るのを阻止するためだから、仕方ない。仕方がないのだが。
「気色悪い。くっつくな!」
なんでこんなガチムチイケメンを従えなきゃならんのだ。俺にそんな趣味はない。
俺にも、女は美人がいいだの、可愛いヤツがいいだのと、夢見ている時期もあった。だが、こいつに出会って変わったのだ。女は、顔じゃない。とりあえず、女であることが何より重要だ、と。顔がキレイでも、女にしか見えなくても、男はいらない。
「わたしだって、好き好んでやっている訳じゃない。大衆浴場では、キーリーに貼り付いているのが、1番安全で面倒がない。ただそれだけだ」
「ふざけんな。俺のメリット1つもないじゃねぇか。それで俺は、変なのにやっかまれるんだな? なんでだよ!」
「いい男の宿命だ。諦めろ、と兄たちは言っていた」
「知らねぇよ。イケメン理論に巻き込んでんじゃねぇよ。これっぽっちもモテてねぇのに、おかしいだろ」
蹴り飛ばそうとしたが、ジョエルに簡単に避けられた。逆に関節を決められ、動けなくなる。風呂から上がるまで拘束された。すげぇ理不尽だ。
風呂から上がると、しれっとシャルルを構っているイケメンがムカつく。俺は頑張ってるのに。俺は仕事してんのに。最後は、やっぱり顔なのか。
「薬師、いなかったぞ」
自己主張が漏れた。
「えーー!」
ゴロゴロ転がっていたシャルルが、こっちを向いた。可愛い。
「住んでいたのは確認が取れたが、ここしばらく帰ってないらしい。どこへ行ったかは、まだわからん」
どうだ。仕事してきたぞ。素晴らしいだろう。褒め称えるがいい!
だが、俺はすっかり忘れていた。馬鹿を除け者にしていたことを。
「薬師って、何かしら?」
「 「あ!」 」
さっき助けてやったところなのに、剣呑な目を向けられる。ヤバい。正面からやり合ったら、勝てない。搦手を攻めても、勝てない。三十六計逃げるに如かず。そろりと足を動かすが。
「逃げるなら、投げるけど?」
ナイフを構えて狙われている。ヤバい。
俺なら、急所を狙う。急所を狙っても、ジョエルなら避けるが、俺は避けれるとは言いきれない。
「ジョエル、やめて、修繕費がかかっちゃう!」
シャルルが囮になった隙に逃げた。シャルルに任せておけば、大丈夫だろう。どうせヤツは、シャルルには何もできないんだ。
思った通り、シャルルはジョエルを口説き落としたらしい。北の山に行って、薬師を探すことになった。そうなることはわかっていたが、問題なのはシャルルがどう説得したか、だ。
「おい、シャル。お前、何をした? 薬師は男だぞ? 絶対許すハズのないジョエルが何でこうなった?」
ジョエルを警戒しつつ、シャルルに探りを入れる。おお! すっげ睨んでるし。なんだよ、シャルルは元々俺のじゃねぇか。ふざけんなよ。
「私は何もしてないと思うけど、お説教されてたら、急に薬師を探すぞって言い出して」
「一緒に風呂に入って、おねだりしたのか?」
最重要確認事項だ。そうなら、睨まれても仕方ない。
「ジョエルの裸なんて見たくないよ。あの顔で男だよ? ショックだよ」
安定の斜め上だった。考えなしに、一緒に入ろう! とか言う人間性になったので、少々不安に思っていたが、問題なかったようだ。
「なんで見る心配なんだよ。普通は、見られる心配だろうよ」
「私の身体なんて見ても、面白くないでしょ。実は男でしたーとかないし」
「面白いだろうよ!」
可能なら、見てみたいと思う男しか知らねぇぞ?
「面白いの⁈」
危機感のまるでないシャルルは、驚愕の表情だ。きっと背中に落書きされてるのかも、とか、阿呆な心配をしているんだろう。
「、、、、、ダメだ、こいつ」
記憶を失くすと、その分、精神年齢が下がるんだろうか? なんなんだ、マジで。
次回、まだ閑話が続きます。すみません。




