13.キラキラ光る物
「大丈夫ですかー?」
頬をペチペチと叩かれる感触がある。これは、ジョエルの起こし方ではない。あの変態は、私の寝顔に微笑みかけて、ひたすら声をかけるだけだ。何が面白いんだ。
「ちくしょう!」
状況もわからず、ガバリと起き上がる。身体中が痛い。それも納得、石の上に寝かされていた。小石がザクザク刺さる。多分、今、私の右の頬は、石のでこぼこの跡がくっきりついてるだろう。
「起きましたか。良かったです」
こんなかったい石の上で、座ってニコニコしてる少年がいた。赤毛で愛嬌のある顔立ち。ジョエルを見てると性別判断に自信がなくなるのだけど、この人は少年であってると思う。
「あ、どうも。おかげさまで?」
ええと、何だっけ? そうそう、穴から落ちて。結構な高さから落ちたような記憶に身体をチェックしてみるも、すり傷1つないようで、安心するよりびっくりだ。
「どちら様でしょう? 私はシャルルというのですが」
「天使様のお名前は、シャルル様というのですね。可愛らしい素敵なお名前ですね。僕は、ローワンと申します。情けないことに、穴から落ちてケガを致しまして、こちらで静養させていただいておりました」
「へー。ローワンさん。ローワン? ローちゃん? 薬師のローちゃんさん???」
「はい。薬師をしております。僕をご存知でしたか。変な名前を教えたのは、隣人のキャスですね。すみません。天使様は、お客様でしょうか? 申し訳ないのですが、今は、薬の持ち合わせがなくて」
そりゃそうだ! 草も上に置きっぱなしだった。
「あ、私は薬持ってるんですよ。ケガって、どこですか? もしかしたら、治るかも!」
「いや、ケガと申しましても、骨折なので薬では」
「いいから、いいから。治ったら、ラッキーくらいで塗ってみましょうよ。痛みがちょっと引く薬らしいですよ」
嫌がっているように見えたけど、ちょっと強引に勝手に服をめくって塗ってみた。べたべたと。
「こっせつなおれー! なーんてね」
「あはははは。治るといいですねぇ」
「ねー、、、ん?」
どこからともなく、ドッカーンみたいな音がして、どんどんこちらに近付いてきているような気配がある。大変だ。今は、ジョエルもキーリーもいない。私がピンチに陥ったら、私はきっとローちゃんさんを巻き込んで八つ裂きにしてしまう。このほんわか少年は、きっと避けられないに違いない。どうしよう!
「何か、音がしませんか?」
「そうですね。ドラゴンの部屋の方でしょうか。運動でもしてるんでしょうかね」
「ど、ドラゴン? あの、トカゲに羽つけて大きくした? あれ? ヘビだったかな?」
「そうですね。少しですが、トカゲに似ていらっしゃいました。親類なのでしょうか。
あちらにドラゴンの部屋があって、こちらは宝物庫だそうですよ。適当な部屋がないと言われ、こちらを借りているのです」
「宝物庫!」
道理で小石がカラフルだと思った! ベッドにするには最悪だけど、キレイだ。あ、ジョエル発見。こっちの石は、キーリーだ。キラキラー。研磨はされてるけど、これにカットを加えたら、もっと輝くんじゃなかろうか。ブリリアントカットとか! 縁がなさすぎて、どんな形だったか思い出せないが!
「いや、本当に音が、どんどん! ちょっと見てくる」
「あ、天使様。え? 歩ける???」
そーっとそーっと誰にも見つからないように音に近付いていく。ドコドコドーン! みたいな音がうるさすぎて気付かなかったが、近付くにつれて、人の声も聞こえてきた。
「ルルーをか、え、せ!」
「知らんわー!」
ジョエルだ! ヤバい。ジョエルが、ドラゴンと戦っている。超大きいドラゴンだ。ジョエルが虫みたいに見えるほど、大きいドラゴンだ。散歩先の熊とは訳が違う。気軽に持って帰ってくるから忘れがちだが、熊だって実は危険生物なのだ。しかし、ドラゴンは比較にならないくらい更に危険だ。戦うなんて、ダメだ。危ない!
「ジョエルー! だめー‼︎ ぎゃー‼︎!」
「かくほー!」
キーリーに、またタックルされた。痛い。酷い!
「い、た、じゃな、い、か!」
「なら、連れてか、え、れ!」
何がどうなってるの? もう痛い。重い。離せ! キーリーの頭をぽこぽこ叩いていたら、ローちゃんさんが加勢にきて、キーリーに蹴飛ばさた!
「ちょ、やめてよ、キーリー。私を助けようとしてくれただけだよ。ひどいよ!」
「野郎に殴られる趣味はねぇ。殴るなら、蹴られる覚悟を持つべきだ」
「天使様を離せ!」
ローちゃんさんは、頬を赤くして、頑張っている。可愛い! が、戦う必要はない。多分。
「うるせぇ。これは、うちのシャルだ」
転がされてたのを立たされて、抱き寄せられた。
「え? お知り合いですか?」
「父でーすー」
「ず、ずいぶんとお若いのですね?」
「父でーすー」
「すみませんでした」
「キーリー、薬師さんだよ」
「うすうす気付いてまーしーたー」
「ごめんなさい」
殺し屋モードには入っていないけれど、なんかすごい怒ってるのは、わかった。逆らってはいけない。傷口を広げる勇気はない。
「おい、薬師、ドラゴンを止めれるか? 俺は、ジョエルを止めるから」
キーリーは、私を抱えてスタスタ歩き出す。
「え? ドラゴンを? 無理ですよ!」
「できない男に、シャルに近付く権利はねぇっと、そぉーれー」
「ひぃいいやぁあぁ!」
「じょえるー、たーすけろー」
信じられない! 崖っぷちみたいなところから、投げられた! ジョエルは豆粒みたいに小さく見えるほど遠くにいるのに、間に合う訳ないじゃない! 間に合ったところで、どうにもならないよね? 死ぬよ。死んじゃうよ。死ぬしかないよ! もうキーリーなんか、お父さんて呼んであげないんだからね!
こんな高さじゃあ、どんな風に落ちても変わらないと思うけど、丸くなって、頭と首を腕でガードした。怖い怖い怖い怖い! 足の3本くらい持っていかれても、一命さえとりとめたら、特級傷薬で全快したりしないかな!
とんでもない衝撃と、痛みを覚悟していたけれど、信じられないくらいふわりと抱き止められて終わった。ジョエルだ。ジョエル、ジョエル、ありがとう‼︎
「こわ、かっ、た」
「遅くなって、ごめんなさいね」
ジョエルの顔を見ようと上を向いたら、ドラゴンの目が! 手が届きそうなくらい、すぐそこに!
「ぎゃあぁあぁあ!」
よく見たら、私はジョエルに抱えられているけれど、ジョエルは、ドラゴンの手の平の上だ。間に合うハズのないジョエルをドラゴンが連れてきたから、間に合ったのだろう。だが、命の恩人だろうと、怖いものは怖い! こ、わ、い!
「人の娘よ。そなたは、私の娘だ。こちらへ来い」
い、や、だ! 何言ってるの? このドラゴン。意味わからないし、怖すぎる。私は、無言でジョエルの服をギュッと掴んだ。
「血迷うたか。そんなことある訳ないでしょう?」
ジョエルは、ドラゴンの眉間に剣を突き刺した。
「ぎゃあぁあ。血がっ血が!」
「大丈夫だよ、ルルー。ドラゴンは、この程度じゃ、傷1つ付かないから」
「いやいや、血が出てるから!」
「ああ、ドラゴンの血は、薬の材料になりそうだよね。もらって帰る?」
キラキラ笑顔だよ。もうなんなの? この人! 怖すぎるんだってば。
「ルルーが、血が欲しいって。もらって帰るよ」
「構わぬ」
いらん! キモい! 怖いわ!!
「あー、ルルー? 大丈夫よ。このドラゴン知り合いだから。剣を刺しても怒らない優しいドラゴンさんよー」
「剣は刺すな。抜け!」
「バカなの? ルルーは、あんたの怖い顔に怯えてるの。見れば、わかるでしょう? 大人しく刺されて、にっこり笑ってなさいよ」
ドラゴンが笑ったら、余計に怖いよ!
ジョエルが剣を抜いたら、より一層、血が出てきた。漫画みたいに、ぴゅーっと噴き出ている。もう私は、意識を手放しそうだ。怖い。
ふるえる身体に鞭を打って、そろそろとジョエルから降り、ドラゴンに薬を塗る。触るのが怖いので、塗るというよりかけるに近いが、これが限界だ。許して欲しい。
だけど、これでようやく血が止まった。人間用の薬だと思っていたが、ドラゴンにも効いて良かった。血が出てなくとも、ドラゴンというだけで怖すぎるから、あんまり変わりない気もするけど!
顔を見ただけで泣くとか、失礼かもしれないが、へたり込んで泣く。座ってもさ。これ、ドラゴンの手なんだぜ? もう、どうしてくれよう。
「娘よ。優しいのだな。ありがとう」
「ひぃいっ」
お礼を言われているようだが、怖い! もう構わないで欲しい。喋ってるだけで、食べようとしてるようにしか見えないのだ。もう帰りたい。
「私の娘、そなたに、我の全てを与えよう」
キラキラ光る何かをもらった。だが、そこで限界を迎え、私は夢の世界に落ちた。
次回、閑話です。




