ss.七草の日
木名瀬家毎年恒例、七草の日がやってきた。
なんの断りもなく、夫だか妻だかよくわからないみんなを連れて、朝から実家に帰って来たよ。弟妹にも何も言ってないけど、今日は日曜日だ。みんな付き合ってくれると信じてる!
「今日は、七草の日ですよー。みんな元気に朝ごはんを食べよう!」
相変わらずテーブルは、人数分に足りていないが、お粥を並べるくらいなら、余裕だ。おかずなど、大皿に盛って、真ん中にドカンと置いてしまえば、それで終了でいいだろう。取り皿も出してはやらぬ。だって、置き場がないのだから、どうしようもない。この中で、お坊ちゃんお嬢様育ちなのは、ジョエルくらいだ。各自頭をひねって、適当になんとかすれば良い。
しばらくこちらで暮らしていたナデシコは、未だに弟妹たちに打ち解けていない。ジョエルが見てくれるので、ジョエルに任せておく。鈴白を取られたくないので、丁度良い。
1番の仲良しさんは、御形とシュバルツだ。
「七草粥の日は、1月7日じゃなかったのか」
「シュバさんは、相変わらずだな。なんで、そんなこと知ってんのさ。1月じゃあ、庭に七草が生えてないんだよ。生え揃ったところで、急にナズネェが始めるから、うちでお粥を食べる日は、毎年変わるんだ。1月なら、スーパーで買えるけど、くそ高いって、ナズネェは絶対に買わないし」
「生活と家庭科の教科書に書かれていた。訳すかどうか、悩んだ記憶がある」
「訳さなくていいでしょ。そっちは、ナズナもハコベも生えてないんだよね」
「セリとスズナとスズシロに、かなり近い植物はある。他も探せばあるかもしれない。だが、探す意欲は今のところはない」
「探してまで書かなくていいでしょう。何を目指してるのさ」
「俺は以前、シャルルに水を飲ませるための浄水器を作って、発明王と称えられたことがある。今は、教科書の翻訳をしているが、このまま続ければ、没後、教育の父と呼ばれるかもしれないからな。変な物は、残せない」
「何それ。歴史的偉人じゃん。やべぇ」
「シャルルの所為だと思うのに、自分の名だけ広がるのが納得がいかない。だが、壁画と銅像は禁止された。他の何かを模索しているところだ」
前は、御形とキーリーが仲良しだった気がするのだけど、シュバルツが増えてからは、波久部がよくキーリーと話してるのを見るようになった。
「ホントはね。セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロなんだよ。うちのお粥には、セリは入ってないけど」
「なんで、そこまで集めて、1つだけ揃えないんだよ。金なら出来ただろ? そんなに高いのか?」
「違うよ。下3人が反抗期で食べなくなるからだよ。庭に生えて来ないから、ってのもあるかもしれないけど」
「反抗期なら、草全般、全部嫌がれよ。こっちでも、拾い食いは、スタンダードじゃないんだろ?」
「ナズネェに反抗してんじゃないよ。セリは、お母さんの草だから。ナズネェがわざわざ庭に生えるようにしたのに、あの子らが駆逐したんだよ。無駄に頭が良くて、面倒臭い子たちなんだよ」
「ん? 鈴音もなかったが、田平も七草じゃなかったのか?」
キーリーは、気付いてはいけないことに気付いてしまった。鈴音は、もうそこそこ大きいので気にしないが、方々でからかわれている田平は平静ではいられない。
「七草だよ。七草だから! ホトケノザが間違ってるんだ。本当は、コオニタビラコなんだ。ホトケノザなんて、あんな青臭いのナズネェくらいしか食わないよ」
怒り狂う姿も可愛いが、間に私のディスりが入ったのは、何故だ。私が名付けた名前じゃないのに。やはり名前とは、きちんと間違いなく、誤解のないように付けないといけないもののようだ。
「学校の先生も、知らなかったよー。お兄さんが知らないのは、しょーがないよ」
我らがアイドル鈴白が参戦した。キーリーに取られないように、目を光らせないといけない事態だ。
「草の名前クイズは、チャンス問題だからな。田平も書けばいい。高橋先生は、学名を書いても加点はくれない。余白に『食える』とか、『食えるが不味い』とか書くと、たまに2点くらいくれる」
御形は、先輩面して、学校で行ったらしい謎の悪行? を弟に仕込んでいる。テストは点数を口頭で聞いただけだったが、ちゃんと回答内容も見ておくべきだったのかもしれない。106点取ったとか、意味のわからないことを言われて、揶揄われているのだろうと、聞き流していたのだが。
「鈴白は、オススメの料理名を書いたら、5点もらえたよ」
「マジか。田中先生、ノリがいいな。羨ましいぞ」
「あんたたちは、ホントに学校で、何をしてるのよ」
「裏のテストが50点満点だと、ちょっと嬉しくなるくらいだったのに、中学に入ったら、テストに裏がなくなったんだよ!」
「田中先生は、しょっちゅう配点間違えて、102点満点とか、96点満点とかのテストを作ってくれるよ」
「いいな、田中先生!」
「でも、96点満点のテストで、うっかり100点取っちゃったんだよ。悲しかった」
「ハコネェは、テストの度に点数見て、一喜一憂して楽しそうだけど、毎回100点じゃ、つまらないんだ」
「小1のくせに、一喜一憂とか言わないで! 何なんだよ、ホントに」
「お粥食べる時間あったら、勉強した方がいいよ。教えてあげるから。四字熟語くらい、クラスみんな通じるし」
「そんなの、あんたらの学校だけだ! 私はバカじゃない。フツーだ!」
「はいはーい。お昼は、七草うどんだよー」
今日のごはんは、七草縛りだ。庭の草だけでは飽き足らず、朝ごはん後に、キーリーを連れてスーパーに行ってきたのだ。荷物持ちがいるのをいいことに、調子に乗って、冷蔵庫に入りきらないほど野菜を買ってきた。早く食べてしまわねば、私が白菜につまずいて転んでしまう。
「ぎゃー。だから、金柑は別枠で出してって言ってるのに!」
「草なんて入ってないじゃないか。何が七草なんだ?」
七草うどんは、文字通り七草が入っているうどんである。なんというか、うどんが七草なので、私の所為ではないと思うのに、毎回不満をこぼされる意味がわからない。
「冬至の七草は、どっちかって言うと、ただの語呂合わせかな。南京、蓮根、人参、銀杏、金柑、寒天、うんどんって言ってね、『ん』が2つ付いてるのがミソなんだ。『ん』は、運に通じるから、沢山の運がつくといいね、とかいう。日本の縁起物って、大体そんなのだから、真面目に深く追求しちゃダメだよ」
冬至の七草なんて知ってる小1は、世の中にどれだけいるだろう。ああ、うちの子賢い。うちの子可愛い。明日も、七草うどんにしようかな。
「いや、それより気になるのは、春を食べた直後に冬が来たことだ。これが噂のハウス栽培なのか」
シュバルツは、またどうでもいいことを気にしていた。数学に飽きて、農家の人に興味が出て来たのだろうか。
「違うよ。これは保存と輸送の問題だよ。国内の南北だけでも緯度が違うから、場所によって同時期に違う気温に向く作物を収穫できるんだ。外国からも食べ物を輸入してるってのは、まだ翻訳してない?」
「したな。食料自給率のところで。日本の伝統的料理も、輸入品がなければ作れないとかいう話だろう?」
「ひょっとして、ハコネェより、シュバさんの方が、偏差値高いんじゃない?」
「異世界人より日本のことを知らないとか、恥じゃない?」
「変なのは、シュバさんだけだよ! 私は、フツーだから!」
波久部が劣勢だ。助けてあげたいところだが、甘やかすよりは、波久部が勉強をした方が、波久部のためになる。
「いや、俺が教えたから、村中全員知っている知識だ。シャルルにこちらの言葉を教えようとして、村人が挫折したのが発端で、村人全員が日本語を覚えた方が早いということになっていたのを俺が引き継いだ。だから、日本の知識は、ナデシコも、お母さんも、お父さんも知っている。知っているだけで、理解が薄いと今気付いたが。村も南北に広げるといいのかもしれんな」
「1キロ2キロ伸ばしたところで、変わらないからね」
「ああ、心配はいらない。その気になれば、世界中、どこの街でも制圧して、村に編入できる。シャルルのGOサインさえあれば、明日にでも領土は拡大する」
時々ネタにする、シュバルツの世界征服計画だ。ただの冗談話なのに、弟妹が本気にするからやめて欲しいものだ。
「が、外国からの輸入で足りるから、攻め落とす必要はないと思いますっ」
「ナズネェの肩に、異世界の平和が乗ってるんだね」
「教科書に、銃火器や毒薬の製造方法は載ってないよな。大丈夫だよな」
下3人が大慌てで、高三までの教科書と資料集の内容を記憶の中で、一生懸命精査しているが、シュバ衛門の手にかかれば、大体なんでも作れる。無駄な足掻きだ。だが、心配させるだけなので、言わない。
「資料集には、銃器の構造の図解はあったし、教科書にも戦術論はあった。だが、そんなものはなくとも、圧倒的な単純火力を持っているから、必要ない。こちらには、魔法がある。1人で出かけても、街を落とせる人間は、いつでも30人は用意できる。畑を放って良ければ、200人は投入できる。制圧後の統治を任せられる人材がいないのが、課題だ。旅行ならまだしも、皆、村から離れたがらないからな」
「言ってることが、ガチやべぇ。この人の手綱、ナズネェ以外に握らせた方がいいと思う」
「夜は、豪華に七草鍋だよー」
「豪華なら、肉を入れろよ! もう七草いいよ」
毎年恒例なのに、御形に怒られた。お姉ちゃんは、悲しい。
「ええー。遠慮した方の七草鍋にしたのに」
「遠慮しない方の七草鍋って、何? 御形、確認して!」
鈴音の号令で、御形が鍋を漁り始めた。自分用の鍋ならいざ知らず、弟妹用の鍋には、おかしな物など入れるハズもないのに、私は信用されていないのだろうか。
「葱、白菜、大根、春菊、ほうれん草、キャベツ、小松菜か。よし、みんな食いもんだな。水仙とススキとヒメジョオンはいないな? なら良し」
「ごめんね。ススキは、まだ見つけられなかったよ」
ちょっと前に水仙は咲いていたから、探せば葉っぱくらいはあるかもしれないけれど、探した方がいいだろうか。水仙は、食べてはいけなかったような気がするのだけど、御形の好物だと言うのであれば、安全に食べる方法を模索しなければならない。
「入れんな、って言ってんだよ。強いて言うなら、春菊も入れないで欲しいけど、食べたい人もいるから譲ったの!」
「水仙もニラだと思えば、美味しいのにー」
「俺が吐かせたから、生きてんだよ? もうマジでやめてね。ニラ食いたいなら、ニラ食ってよ。苗で見つけてきてもいいよ。もう水仙植えんのは、禁止だから。イフェイオンだって言い逃れしても、抜くから。なんで、こんなに雑草知識を収集しなきゃいけないんだよ。ハコネェが覚えろよ。隙間いっぱい余ってんだろ!」
「失礼だな。私は私の勉強でいっぱいいっぱいなんだよ。隙間なんてあるか! 長男が長女の管理しろ」
「そうだよー。ハコネェは、中学を卒業できるか瀬戸際なんだから、邪魔しちゃダメだよ」
「中学なんて行かなくても、卒業できるわ! バカにするな」
「ご馳走様でしたー」
何の用があるのやら、食後、御形がキーリーを連れて消えた。
「キーリーさん、内緒話いい?」
「ああ、なんだ?」
「ナデシコさんって、ナズネェが名前をつけたんでしょ?」
「そうらしいな」
「撫子って、夏の七草なんだよ」
「そうか」
「撫子は、女性らしさの代名詞だから、別に名前にしてもいいと思うんだけどさ。今日の昼飯とか夕飯の材料を名付け出したら、止めてね。その人が可哀想だから」
「うどんと鍋か。全部七草を書き出して、大丈夫なのと、ダメなのに分けてくれ。平仮名なら、全部読める」
「今すぐ書いてくる」
御形が、1人で居間に戻ってきて、何か勉強を始めた。たまに皆が集まった日くらい、勉強しなくてもいいのになぁ。本当に、赤ちゃんの時から、お勉強が大好きな子だよね。
あまり練られずにUPしてしまいました。
申し訳ありません。




