110.最後の魔法
結婚すると言えばここ! な結婚式場にやってきました。もう私の心は擦り切れているので、酒をかっくらって寝てしまいたいのだけど、皆様に同意を頂いたうちに、渡したいものがあったのだ。本当は、ここで話す予定だったので、ここに置いて来ちゃったんだよ。いつも通り、持ち歩いていれば良かった。
「キーリーが、前に聞いてきたでしょう? 婚約指輪ってね、プロポーズの時に相手にあげる物だったんだよ」
「知ってた。お前の弟妹、全員知ってたし。お前の頭の中は、マジでどうなってるのか、心配になったんだ」
「そっかー。あの子たち、まさかそんな余裕があったとは。じゃあ、あっち行ったら、課題の量増やしちゃおう。うふふふふ。あ、みんな手貸して」
あげる相手がシャルルだけなら、6本爪のダイヤリング一択で良かったんだけど、キーリーの手にそれはないなと思った時点で、平打ちリングに四角いブラックダイヤを埋め込んだ。ジョエルの分も、さっきこっそり作った。仲間ハズレにする予定などなかったのデスヨ。ちゃんと準備はあったのデスヨ。地龍になってて、良かったね。
近くにいた人順に、祭壇に置きっぱなしだった指輪を、さくさくはめていった。
「これで良し!」
「お前なぁ。作業感を出すなよ」
「申し訳ありませぬ。もう無理なんデス」
「初婚の男は夢みがちなんだ。大目にみてやれ」
シュバルツは、そう言いながら、私の指に指輪をはめた。ブラックダイヤのハーフエタニティリングだった。私がたった今送った婚約指輪にデザインが酷似している。本当に、何がどこまでバレていたのやら。誰にも何にも言ってないのに、どこから漏れたんだか。お姉ちゃんにはできないのに、お兄ちゃんはお姉ちゃんの上位互換なんだろうか。
「前に結婚した時に、婚約指輪は渡さなかったからな」
「薬指サイズの指輪ばっかり増やしてくれちゃって、どうしたらいいの?」
「あと10cmくらい指を伸ばすか、日替わりでつけたらいい」
「お願いします。指は伸ばさないで下さい」
「それは残念だ。お父さんは、シャルルを抱えて欲しい。お母さんは、元シャルルだ。最後の魔法を行使する」
シュバルツは、祭壇の前に立つと、呪文を唱えた。
「シャルルに付き従う全ての精霊よ。シャルルの望みを叶え給え」
シュバルツがそう言うと、私が二龍になった時に見た緑色と橙色のホタルが現れ、身体の周りをぐるぐる回った。意味がわからないが、とてもキレイだった。私の望みは、コレだったのか。見ているだけで癒されるような気がする。いつまでも見ていたかったが、眠くなってしまった。
「、、、給え」「おい、ジジイ!」
うるさい。折角いい夢に浸っているのに。
雲一つないキレイな青空に映える桃の花。シュバルツは白い花を植えていたのに、シャルル受けを狙って頑張って無理やり花の色を変えたのだ。そこに浮かぶ緑と橙の光は、、、。
「ん? ジョエル?」
「シャルル、もう大丈夫?」
「何が?」
ジョエルに抱えられるのは、日常に近い行為だが、今はいつになく身体が軽い。なんで抱えられていたのだろうか。
「もしかして、ルルー?」
「それは、今となっては難しい質問だね。名前で答えるとややこしいから、お姉ちゃんだよ、と答えることにしようか?」
「そこの阿呆二人! シュバルツが倒れたぞ。これ、どうすんだ!」
キーリーの声に目を向けると、床に転がるシュバルツにシャルルが口付けをしていた。なんてパンチのある絵面。今まで私は、あんなことをしていたのか。とても反省した。
「シュバルツ、どうしちゃったの?」
ジョエルに降ろしてもらって、シュバルツの側に座った。
「知らん。魔法を使って倒れた」
「魔力切れ?」
「そうかと思って、シャルルに頼んだが、すげぇムカつくんだよ」
「可哀想なキーリー。シュバルツ、そろそろ起きたげて」
横に座って、シュバルツの頭を撫でた。
魔力切れで倒れたことは何度もあるが、魔力切れで倒れている人を見るのは、初めてだ。寝ていると言うよりは、、、。呼吸をしているようには、全く見えない。顔色も悪い。見ているだけで、怖い。
「起きるよね?」
シュバルツは、呼吸をしていなかった。心音も聞こえなかった。どうして?
私は、シャルルをどけて、気道を確保し、心肺蘇生法を試した。聞いたことがあるだけで、実行したのは初めてだ。うまくできているかは、わからない。力一杯押した。力一杯吹き込んだ。何分経っても変わらなかった。それでも、諦めきれずに続けた。力づくで止められても、やめたくなかった。
シュバルツを失うことになるのなら、シャルルのままでいれば良かった。身体は無事、那砂に戻ることができたけど、何も嬉しくなかった。
あれから、2日経った。私は、まだシュバルツと祭壇の前にいる。皆は、シュバルツのお葬式の準備をしているらしいけど、私は受け入れられなかった。たまにシャルルが様子を見に来て、シュバルツに魔力を分けてくれる。それ以外は、シュバルツと手をつないで、横に座っているだけだ。昨日は、時々話しかけたりしていたが、返事がないことに耐えられなくなった。シュバルツは冷たいし、動かないけれど、ずっとキレイな顔をしている。絶対に生きてるから、と言い張っているのだが、私のただのわがままだということは、そろそろ認めないといけない。本当に生きていないのだとしたら、このままではいけない。シュバルツは、私に見送られたいと言っていた。事故ではなく、故意にこの状況を作り出したのだろう。だけど、仮令生きていないとしても、このまま朽ち果てるとしても、離れたくない。燃やすのも埋めるのも嫌だった。
「シュバルツ、もう耐えられないよ。動いてよ」
涙はかれることを知らない。まぶたが腫れ上がって、泣くだけで痛いくらいになっているのに、またあふれてきた。
「ずっと一緒にいたいから、結婚してって言ったんだよ」
シュバルツを涙で汚してしまったから、慌てて拭いた。
「私が欲しがる物は、全部用意するんでしょ。なんでシュバルツがいないの!」
次回、とうとうラストです。まったく感動のない終わりになります。




