108.お久しぶりです
光龍が住んでいるという、森にやってきた。
光魔法は、回復魔法だと習った。病気とかケガとかを治す魔法だ。人間が使う魔法には限界があって、なんでも治せる訳ではないようだけど、魔法の元締めをしてる金ピカドラゴンなら、なんとかできるかな、という期待をしている。とっとと見つけて、戻してもらおう。光精霊を統べる光魔法の第一人者だ。シュバルツより、魔法に詳しいに違いない。
竜は巨大生物ではあるものの、それでも容易には見つからないだろう広大な森だった。だから、放っておいても見つけることができないだろうに、先生が竜の魔法で迷いの森になっていると言っていた。だから、竜のところまで案内すると最後まで言っていたのだが、無視した。行き先がバレたところで、転移してしまえば追いつけない。転移魔法は風魔法だから、私が許可しなければ、誰も追ってくることはできないのだ。
光龍は、以前、気持ち悪い廊下を作っていた。森もあんな風にしているのだろう。私は、もうあんなものに付き合う気はないが。
「マチュア、森を枯らせる?」
私の不用意な一言で、森が端から順に枯れていった。植物にだけ作用するようで、時折、動物が逃げて行くのが見える。このまま枯らしていけば、いずれ光龍が見つかるだろう。見つかったら時間を巻き戻すか、植物を強制生育させるかして、森を戻せば良い。
枯れていく様をイスに座って観賞していたが、私は、大事なことを忘れていた。
「このバカ娘! 何をしているのだ!」
「ひぎゃあぁあぁああああああああああああ!」
速攻で光龍が出てきてくれたのに、私は、恐怖で意識を保っていられなかった。
「お嬢さん、お嬢さん! お嬢さん」
「きぃやぁああああああああああぁああああ!」
至近距離の先生の顔に耐えられず、状況を確認せずに魔法で吹き飛ばしたら、自分も吹き飛んだ。受け身は取らずとも精霊たちが勝手に守ってくれるが、とてもびっくりした。
「なんで先生がいるの? 竜に誘拐されたの?」
この状況には、心当たりがある。前回はシュバルツが誘拐されてきたが、今度は先生が誘拐されたのだろうか。光龍、人選ミスだよ。私は、先生も怖いんだよ。これ以上、シュバルツに怒られるよりは、良かったけども。
「お嬢さんに償いがしたかったから、追いかけてきたんだよ。魔法で負けるなんて、役に立てる自信をなくしてるけれども」
「私事で恐縮ですが、先生を全身が拒否してるから、同じ空間にいたくないんだよ!」
今となっては、どう考えても私の方が強いだろうに、それでも涙と震えが止まらない。二龍になっても克服できないのだ。もう無理だ。
「光龍が通訳が欲しい、と泣いていたよ。竜まで泣かせるなんて、何がしたかったんだい?」
「ぐふっ。光龍に聞きたいことがあって質問しに来たんだけど、竜が怖すぎて話ができなかったんだよー」
「その話の代行をさせてもらえないだろうか。罪滅ぼしなのだから、無論、無料だ。お嬢さんは、無料が大好きだろう」
「私の手伝いをすると、シュバルツの恨みを買うよ。シュバルツは、反対してるんだよ。私の肩を持っていいの? 肩を持ってくれたところで、生理的に無理なものは、改善の余地はないよ」
「自分の不利をわざわざ言うとは、相変わらずだね。問題ない、協力しよう。何を聞きたい?」
「光龍の光魔法で、私とシャルルの体を入れ替えて欲しい。できなければ、私が精霊を根こそぎ奪って、魔法の研究をしたい」
「その研究には、是非とも参加させて欲しい!」
なんと! 探していた共同研究者が、こんなところに。先生なら、知識経験共に申し分ないのではなかろうか。だが。
「先生の知識は有用だと判断した上で、断る!」
「何故だ!」
「さっきから、涙と震えが止まらないんだよ。察してよ」
「察した上で、引いたら終わりじゃないか。ひとまず、光龍に会ってくるから、森を修復して欲しい。ここまで荒野になってしまうと、オレには直せない」
「了解です」
「ヴィリエーミャ、森をちょちょっと直して」
端からまた徐々に緑が返ってきた。細かい植生がどうだったか覚えていないが、ぱっと見は木や草の種類や大きさは前と同じではないかと思う。動物がいない森になってしまったが、戻ってきてくれるかな。私も、ここまで大規模に森を消去するつもりはなかったのだけど、私が気絶している間に、森が半分くらい消えていて、ちょっと焦った。影響力のある魔法は、気軽に使ってはいけないね。
やりすぎて魔力を根こそぎ持っていかれたのかな。頭がくらくらしてきた。二龍になったのに、魔法は使い放題ではないんだろうか。魔力は、まだまだありそうなんだけど、なんだろう。イスをしまって、ベッドを出して、休むことにした。
「ここは、どこだ」
少し寝ている間に、土壁で囲われた部屋にいた。
「屋外にベッドを出して寝てるなんて、本当に無防備がすぎる」
「近寄るな!」
カマイタチを放った。基本はハズしているが、2、3発は掠らせた。うっかり直撃しても、後悔はしない。
立っていたのは、トリトリ先生だ。ここに現れる人間など、聞かなくても最初からわかっていた。最悪の人物しかいない。
「しゅっ、周囲に壁を作っただけで、半径3m以内に近寄ってもいないよ!」
先生も、ようやく実力が逆転したことを実感したのか、慌てている。もうセクハラは許さないよ!
「光龍に聞かなかった? 私は、ニ龍になったんだよ。敵なんて、そうそういないよ。嫌いな人はいるけれど」
「お嬢さんのお願いを聞いて、お嬢さんの保護をしたつもりでいるのだけど、今オレはどこに立っているのかな」
「ニ龍軟禁罪」
「そんなつもりは、まったくなかったよ」
先生は、ショックを受けたような顔をしていたが、許してなんてあげない。
「光龍からの伝言を伝えるよ。『2人の身体に異常はない。光魔法では戻すことはできない。』理論上無理だから、精霊を奪うのはやめて欲しいそうだ。そして、できることなら、既に奪われている精霊も返して欲しいそうだよ」
「そっか。やっぱりそうか」
この身体を入れ替えたのは、シャルルだ。だとしたら、風魔法か地魔法か、そのハイブリッドか、そのどれかだ。そうすると、もう他力本願は無理だ。意地でも独力で開発せねばならない。光龍に、お前光魔法のエキスパートだろと言うのは、まんま自分に返ってくるブーメランだ。魔法なんて意味がわからん、なんて言ってないで、ちゃんと向き合わなければならないようだ。
「光龍の人徳がない所為で、私にくっついて来ちゃった子は、返せないよ。何したのか知らないけれど、反省して謝って、許してもらえばいい」
次回、他力本願お姉ちゃんが、最後まで他力本願を諦めない話。




