16話 冒険者の反撃
修練場の森の中。
ダイダイギルドのランク7冒険者ジミーに力を与えて魔改造し、適当に操り続けて約数分が経過した。
『まさかのほぼ全滅かよ……』
大した力は無いはずの魔改造ジミーは、ほんのちょっと走り回っただけで周囲の敵をほぼ一網打尽にしてしまった。
多少は骨のある相手でも、吠えたり腕を振り回しただけで重傷を負った。
『もう7人くらいしかいないじゃん……』
もっと力のある相手と勝負できるかと思っていたエメラルドだったが、とんだ期待外れだ。
『ジミーは……とりあえず適当に暴れさせとこ』
魔改造ジミーに指示を出して後は放置。
『さてと……』
お次は何をしようかと呑気に考えていると、エメラルドの遥か後方の草陰で身を潜めていた1人の冒険者が動き出した。
「(いまだ!喰らえ化け物!)」
冒険者は杖から針のように鋭い魔法弾を放った。
魔法弾はエメラルドの首を目掛けて光の速さで飛んでいった……が、魔法弾はエメラルドの首元に到達する寸前でパリンと音を立てて消えてしまった。
「(なっ……!)」
冒険者が驚いている隙に、エメラルドはテレポートで冒険者の背後に周る。
『分かりやすい攻撃するね〜』
「うおっ!?」
突然背後に現れたエメラルドに冒険者は驚き飛び退きつつも、咄嗟に武器を構えてエメラルドと対峙した。
「い、いつの間に……!」
『別にいいじゃん。それより、君の所属ギルドって『狩り物』だよね。その様子からして、ダイダイの関係者から僕を討伐しろって命令された感じ?』
「……」
『狩り物』は数あるギルドの1つで、魔物討伐だけでなく悪人の討伐にも力を入れている。
ターゲットにする人間は犯罪者や危険人物が主で、何もしていない一般人を討伐するような真似は絶対にしない。
『大金を積まれたら、ターゲットが一般人相手だろうが殺す違反者も居るとは聞いてたけど……これ、上にバレたらマズいんじゃないの?』
「だからこそお前を始末する。一般人を始末していた証拠が表に出たら、俺はギルドの連中から追われる身となる……」
『自業自得じゃん。君って見た目は硬派な感じするのに、中身はけっこう臆病者なんだね』
「黙れ!」
冒険者が構えた杖をかざすと、上空に無数の輝く針が現れた。
輝く針はエメラルド目掛けて光の速さで飛んでいく。だが……
『ただ速いだけじゃん』
輝く針はエメラルドの頭上でパキパキと音を立てて消えていく。
「なっ……!分厚い魔法壁を貫通する威力の針だぞ!一体どうやって……っ!?」
冒険者がセリフを言い終える前に、エメラルドはテレポートで瞬間移動して冒険者の真正面に現れた。エメラルドはエネルギーを込めた指先を冒険者に向けている。
『えいっ!』
エメラルドが冒険者に向かって指を弾く動作をすると、指に蓄えられていた念力が冒険者に向けて放出された。
「!?」
物凄い衝撃が頭にぶつかり、冒険者は声を上げずに後方へとぶっ飛んだ。
持っていた杖は手元から離れて遠くへ飛んでいき、木にぶつかって真っ二つに折れてしまった。
『一体どうやって、って……敵相手にわざわざ答えるわけないでしょ』
エメラルドは気絶した冒険者を見下ろしながらため息をつく。
『これで普通の冒険者は倒し終えたかな…………ん?』
上半身を回して軽く伸びをした所で、エメラルドは魔改造ジミーの気配が消えたのを察知した。
『ようやくまともな相手が出てきた』
エメラルドは再度テレポートをして、ジミーを倒した相手の近くに降り立った。
『お疲れ様ー』
「あっ!?お前は……!」
「エメラルド……なのか……!?」
「ツノ生えてる……」
気絶して横たわるジミーの前には、ボロボロの姿で武器を構えたままの冒険者が3名。
1人は剣士、もう1人は魔法使い、最後の1人は何も持たない謎の青年。
「(あいつのツノ、ジミーが生やしていたツノとそっくり……)ジミーを化け物に変えたのは君だね?」
最初に謎の青年が口を開く。
「悪りぃな、お前のナイトは俺が狩っちまった」
剣士が口角を釣り上げながら、エメラルドに嫌味ったらしいセリフを吐く。
『ナイト?』
「アンタを守る奴はもういない。これでアンタはひとりぼっちよ」
オシャレな装いの魔法使いは杖を突き出し、怒りを含んだ笑みをエメラルドに向ける。
『?』
「アンタ……この状況がまだ飲み込めてないのね。可哀想に……」
「お前は、そそのかして契約したジミーに強大な力を与えて仲間にしたんだろ?だが、ご覧の有り様だ」
剣士は剣先をジミーに向け、まるで大きな獲物を見せびらかすかのように振る舞う。
「此処には君と契約するバカはいない」
「こっちはランク10の冒険者3人、対するアンタはランク6の魔法使い……のフリをした悪魔1人。例え高位の魔人だったとしても、アンタにはもう勝ち目はないわよ!」
冒険者3名は意気揚々としてエメラルドに詰め寄る。一方エメラルド本人は、困った様子で3人の顔を見つめている。
『えっと……ジミーとは契約してないよ?』
「はっ、ウソばっか」
『ホントホント。ぶっつけ本番で使った新技でこの人を操っただけだよ。無理矢理力を入れたせいか、ジミーは大した力も出せなかったみたいだし……』
「あ?」
エメラルドが本音を漏らせば、その場にいた冒険者3名がエメラルドをギロリと睨みつける。
「ふん。負け惜しみは醜いだけよ」
「全くだ。それと、ジミーの変な力の弱点はとっくに目星がついてんだよ」
魔法使いと剣士はエメラルドを睨みつけながら武器を構え直す。
「君もジミーと同じ変な力を持ってるなら、弱点もきっと同じものだろうね」
謎の青年はその場から後退りしてエメラルドから距離を取る。
「リラ!相手が捌ききれない量の攻撃で畳み掛けるぞ!」
「分かってるわよ!」
剣士は構えた剣を振り回して物凄い数の斬撃を飛ばし、魔法使いは無数の火炎球を発生させては周囲に飛ばし、全方位からエメラルドを襲った。
エメラルドがいた場所は大爆発を起こし、凄まじい土煙が上がった。
「気配が消えた……」
「どうやらエメラルドは綺麗に吹き飛んだみたいね……」
剣士は剣を構えたままエメラルドがいた方を見つめ、魔法使いはため息をつきながら杖を下ろした。
「以外と呆気なかったわね……もっと楽しめるかと思ったのに……」
「とりあえずエメラルドを潰した証拠を見つけて持ってくぞ。それでないと俺達が村を潰した証拠が消えないからな」
「そうね。村人を生贄にした話が出回ったら私のファンが減ってしまうもの」
「俺が生贄の力で能力を底上げしたって知られたらダセェしな……それにしても、めんどくせぇ事しやがって……」
「でも、エメラルドは倒せたから証拠は消せるわよ」
魔法使いは風魔法で周囲に蔓延する土煙を払う。
煙が晴れた先に広がるのは荒れた地面。
そして冒険者が放った斬撃と無数の火炎球。
「…………は?」
エメラルドにぶつけた筈の攻撃が、時が止まったかのようにピッタリと停止していた。




