14話 ダイダイギルド(後編)
ダイダイのギルド長バリは、一刻も早くスカイダイヤを潰す為に様々な行動に出た。
底辺のギルド『レンジャー』にエメラルドの討伐を依頼し、スカイダイヤの遠征地に嫌がらせをするよう頼み込んだ。
主に裏仕事や工作活動をメインに行う危険な冒険者達にも依頼し、徹底的にスカイダイヤの評判を落とそうと目論んだ。
だが、行動は全て失敗に終わった。
スパイそのものが行方不明になった。スカイダイヤの遠征先に何度か魔物を発生させたが何故か話題にすらならなかった。
スカイシティのグリーンギルドに、魔法の子であるモヨが移籍したことで、更に手を出しづらくなった。
「それでもバリは現在もなお、スカイダイヤに固着し続けている……さて、ダイダイの話はこれくらいにしましょう。皆さん、他に聞きたいことはありますか?」
『さっきまでの回想みたいなやつ全部ドランさんの解説だったんですか!?』
てっきり別視点が始まったのかと……
「これも下準備ですよ」
「何言ってんの?」
ドランさんの台詞に呆れるエメラルドさん。
「さてそれでは、修練場の中にダイダイのメンバーを集合させるとしましょう。モヨさん、これから私が言う人物を全て集めてきてください」
『分かりました!』
数十分後……
『集めてきました!』
エメラルドさんの駆除に関わっているメンバーを全て集め、修練場の森の中に閉じ込めた。
ダイダイに所属する一部の冒険者、別のギルドに所属する冒険者、などなど……
「あ、ダイダイのギルド長も連れて来れたんだ」
『部屋で仕事してた所を捕まえてきました!』
現在、連れてきたメンバーには幻覚を見せ、その場に留めている。私達の前でぼーっとして直立している。
因みにレイトさん、ヒスイ、バスラ、ナワは別の場所に避難させました。
『さて、ドランさんの言った人はこれで全員ですね。捕まえる前に心を読んで、エメラルドさんの駆除に関わったかどうかちゃんと調べましたので、間違いはないと思います!』
「ありがとうございます」
ドランさんは私にお礼を言い、改めてエメラルドさんに向き直った。
「エメラルドさん、役者は揃いました。あなたが望むままに、思いっきりやってしまってください」
『エメラルドさんが合図したら、連れてきた人達の幻術を解きます!』
「…………」
ドランさんと私はエメラルドさんの合図を待つが、当の本人は何故か妙な顔をしたまま停止している。
『あれ?エメラルドさん、どうしましたか?』
「……なんかやる気出ないなぁ」
『えっ?』
どういうわけか、エメラルドさんはやる気が出ない様子だ。
「こういう敵との対決ってさ、もっとこう……展開とか段階踏んだりとかさぁ……もっと盛り上がりみたいのが欲しいんだよ」
『盛り上がりですか……』
「なんというか、今のままじゃ曖昧なまま戦闘が始まりそうで……」
『あ、それもそうですね。向こうも急に「戦え」って言われて森に放り出されたら戸惑いそうですし』
「別に不意打ちで倒しても僕はかまわないよ?そもそも相手は僕を潰そうとしてきた相手だし?せめて何かテンションが上がる何かがあればいいんだけど……」
「でしたら、私に良い考えがあります」
そう言うとドランさんは音もなく空を飛び始め、集められた団体の真上で急停止した。
「失礼します」
ドランさんが団体に向かって声をかける。
「「「「!」」」」
すると、先程までボーッとしていた人の群れが一斉に目を覚まし、慌てて頭上にいるドランさんの方を向いた。
「皆様、どうぞこちらをご覧くださいませ」
ドランさんが片手を天に掲げると、人々の脳内に映像が流れ始めた。内容は人それぞれ、どうやらドランさんが幻覚で見せてる映像らしい。
「あ……」
「な、な……!?」
最初は静まり返っていた人の群れが、映像が進むにつれて騒がしくなっていく。
1人1人の脳内を覗いてみると……事件現場のような映像やら、やたら強い口調で相手を責め立てる映像やら、やけに物騒な映像が流れている。
「ど、どうして……!?」
「なんでこの映像があるんだ!?」
「おい答えろ!!コレをどこで撮った!!」
どうやら相手方の脳内に流れていたのは、表に出したらマズい映像だったらしい。
「この証拠で俺を揺する気か!?」
「こんなもの見せて脅すなんて……!何が望みなのよ!!」
「この映像を買い取らせてくれ!金なら出す!」
修練場の中は阿鼻叫喚の渦だ。そんな騒がしい人の群れに対し、ドランさんは再び口を開いた。
「皆様。この映像を流されたくなければ、この森のどこかに潜んでいるエメラルドさんを捕まえてきてください」
「は……!?」
『ええっ!?』
ドランさんの言葉に修練場内がざわつく。
ドランさんはどうやら、嘘の映像で相手を脅し、エメラルドさんを襲わせようとしているようだ。
「確かにそれなら相手は戦わざるを得ないよね」
『ですが、少し過激すぎな気も……』
私達がコソコソ話す中、ドランさんは更に言葉を付け加える。
「もしエメラルドさんを捕まえられなければ……先程、皆様にお見せした映像を外に流します」
「「「「!?」」」」
ドランさんがそう告げると、その場にいる全員が驚き、目に見えて焦り出した。
「生け取りにして私の前に持ってきなさい。生死は問いません」
どっち?
「誰か1人でもエメラルドさんを捕まえてくれば映像は処分します。さあ、全力でエメラルドさんを探しなさい」
ドランさんの演説が終わると、その場にいた人々は大慌てで動き始めた。
人々は私の力により、私とエメラルドさんの姿は見えていない。みんなは目の前にいるエメラルドさんを無視して森の中へと消えていく。
ある者は全速力で駆け出し、またある者は魔法で空を飛び、またある者は召喚した魔獣に乗って移動し……1分経つ頃には、この場から人の姿は完全に消えていた。
「さてと……エメラルドさんにも、彼らと戦う理由が必要ですね」
「一応あるんだけど……まさか何か変な物出して脅さないよね……」
ドランさんに対して少し怯むエメラルドさん。
「エメラルドさんには褒美でも与えましょう。では、もし相手全員を倒したら「ビーズセット」を差し上げましょう」
「いらない……」
「何故?こんなに綺麗なのに……」
「僕が子どものおもちゃで釣られるわけないでしょ」
逆に何故ビーズセットでいけると思ったのだろう……
『うーん…………あ、そうだ!エメラルドさん、勝利したご褒美として『宇宙旅行』はいかがですか?』
「えっ?宇宙……に、旅行?」
『はい!実は前に、バスラと一緒に宇宙を飛んでいたら気になる星を発見しまして……』
「ちょっと待って」
『後で説明します!文明が発達した星なので、目の肥えたエメラルドさんでも、きっと楽しめますよ!』
「宇宙旅行って、本気で言ってるの……?でも、すごく楽しそう……」
『エメラルドさん、どうですか?』
「…………うん!それ凄く良さそう!なんだかやる気出てきた!』
エメラルドさんはツノの生えた魔人の姿に変わり、超能力で宙に浮いた。
『遠くで見てて!全員ぶっ飛ばしてくるから!』
エメラルドさんは拳を握りしめながら張り切ると、身体の中心に力を蓄え始めた。私達は急いで
『とりあえずまずは、雑魚掃除から始めよっかな』
エメラルドさんは蓄えたエネルギーを手に集めると、地面に向かって全力でエネルギーを放出した。
エメラルドさんを中心に、念力により生み出された衝撃波が発生した。
目に見えない物凄い衝撃が周囲に広がり、森の中をうろつく冒険者達に次々と襲いかかる。
「があっ!?」
「うおっ!?」
低ランク冒険者は力に耐えきれず、あっという間に遠くに飛ばされ消えていった。謎の力を前に、手も足も出ない様子だ。
衝撃波に触れてしまった冒険者はもはや探索の続行は不可能だろう。
『さて、力試しにその辺の奴と軽く戦ってみようかな』
エメラルドさんは近くにいた冒険者をテレパシーで察知すると、冒険者のいる方角に向かって勇み足で駆け出したのだった。