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11話 進化してみます?

 時の流れが緩やかな修練場で、約3年ほど経過した。外の世界はまだ3時間ほどしか経ってない。


 私は修練場に移動し、エメラルドさんの様子を見に行った。


「モヨさん!勉強教えてください!!」


「僕、もっと色んな修行してみたいな。テレパシーとか他の超能力も学んでみたい」


 何か知らないうちに2人のやる気が上昇していた。


 光妖精がどこか行ってる間に、2人の間にどんなやり取りがあったのだろう。


「冒険者になるには勉強も必要らしくて……!」


『私は前々から『冒険者は勉強も大事!』って言ってましたよ?』


「冒険者であるエメラルドさんに言われたので……!」


『(私はギルドの関係者マスコットなんだけど……)』


 どうやらヒスイは冒険者であるエメラルドさんに勉強を促されたらしい。今まで勉強をやりたがらなかったのに、今は必死になって学ぼうとしている。



『エメラルドさん。何だかやる気で溢れてるみたいですが……何かありましたか?』


「前に来た始末屋より強くならないといけないのに、このままだと修行に飽きそうで……」


 エメラルドさんに関しては単純に、修行を長続きさせたいだけだったらしい。


『3年も修行を続けられたのは凄いと思います!これからも修行を続ける為には……やはり目標が必要ですよね!』


「目標って言ってもなぁ……念力はある程度強くなったから、新しい超能力を極めるとか?」


『その目標もいいですね!ですが、私が提案したいのは……新たな『進化』ですかね』


「進化?」


 私の言葉にエメラルドさんは首を傾げる。


『そうです!実は魔物だけじゃなくて、魔人と呼ばれる種族も進化できることが分かったんです!』


 前にチーター作成者の使用する機器に接触した際、チーターを作る力と共に様々な知識も得ていた。そのうちの1つが『魔人の進化』だ。


「魔人って……吸血鬼とか魔女とか、実体をほぼ持たない魔法に強い種族だよね?あの人達って進化できるの?そもそもそれが僕と何の関係が……」


『関係あります!とにかく修行をしてエメラルドさんの中に眠る魔人の力を覚醒させ、新たな種族に進化するんです!』


「えっ、僕の身体って魔人混じってんの?」


『エメラルドさんがこの世界に来た時に調べさせていただきました。ご自身ではご存知なかったんですか?』


「初耳なんだけど……因みに、僕は何の魔人なの?」


『どうやらエメラルドさんは『悪魔種』という、魔法と知能が高い種族の力が混じってるようなんです』


「マジ?全然知らなかった……(魔法が得意なのもこの種族の力のおかげだったの?)」


『なのでエメラルドさんも、このまま修行を頑張れば、もしかしたら進化できるかもしれないんです!因みに進化に興味はありますか?』


「進化には興味はあるけど……魔人ってどうやって進化するの?魔人が進化するなんて初めて知ったんだけど」


『進化する方法は複数ありますが、1番手っ取り早いのはエネルギーを貯めることです!進化する為に必要なエネルギーが一定数集まれば、あっという間に進化するらしいです』


「エネルギーかぁ。それってマナとは全く関係ない力だよね?」


『はい。このエネルギー、普通に修行してれば体内に少しずつ貯まるそうですが……普通に貯めてたら何百年もかかるみたいです』


 私はエメラルドさんに説明をしつつ、片手からエネルギーの塊を生み出した。


『ですが、私はそのエネルギーを生み出す力を持ってる……と言うより、私自身の力がこのエネルギーそのものなので、進化しようと思えばあっという間に進化できますよ』


「マジ?そんなあっさりできるものなの?」


『出来ます!ですが、良い進化先にたどり着きたいならある程度修行するのをオススメします!』


「だよね……でも、頑張り次第で強くなれるのはいいね。何だか燃えてきたよ(進化する為の修行なら、もっと続けられそうかな)」


 進化できると知ったからか、エメラルドさんの修行の心に再び火がついたようだ。


『最終目標は進化に設定して……とりあえずまずは、簡単な目標を達成する為に頑張ってみましょう!ダンジョンのボスを1人で倒してみるとか……』


「いいね。例えば?」


『ブルーベリー鉱山のボス『ブルージャイアントゴーレム』の討伐とかどうですか?』


「あれかぁ。念力使えるようになったから1人で何とかなりそうだけど……単純に馬鹿力あるしタフだから、倒すのは大変そうだね。でも変な小細工は使用しないらしいし、最初の目標としては悪くはないかな」


『よし!目先の目標も決まりましたね!後は……修行をつけてくれる先生を増やしましょう!最近、シルバーディスクに進化して多芸になったバスラとか、あとテレパシーが得意な私とか!』


「それくらいバリエーションあるなら退屈せずに済みそうかな。モヨ、ありがとう」


『いえいえ!』


 再びやる気が出たエメラルドさん。心の中はやる気と希望と熱意で満ち溢れている。


『では早速バスラから呼んでみましょうか!』


「うん!」


『もう来てるよ!』


 私の隣に銀色のお皿のような物体がパッと現れた。


「えっ、何この銀のお皿……」


『僕バスラ!』


「お皿が喋った……」


 この後エメラルドさんは、私が呼び出したバスラと共に森の奥へと消えていった。



 やる気が出たエメラルドさんは、この後もダレることなく全力で修行に励んだようだ。




『エメラルドさん!高速で空を飛ぶ特訓しよ!』


「分かった!」


 バスラとは主に、念力で空を飛んだり、テレポートで瞬間移動を試みたり、念力で力を上げて岩を殴り割る特訓をしていた。


 テレポートはすぐにこなせるようになり、魔法無しで岩を真っ二つにできるほどには力を上げられるようになった。



『無重力空間で訓練してみましょう!』


「何それ?」


 私との特訓ではテレパシーの他に、私が作り出した無重力空間の中で超能力を扱う訓練をした。


「以外とムズい……!」


 重力の無い空間で超能力を扱うのは大変そうだったが、数十日ほどですぐに無重力に慣れたようだった。


 無重力空間ならではの技を考えたり、色んな魔法も試してみたりと、彼なりに試行錯誤していた。



 魔法の特訓も欠かさなかった。


『エメラルドさん……これ……レイトさん差し入れです……』


「は?」


 外で酔っ払って暴れていたらしいレイトさんを捕まえた私は、レイトさんをエメラルドさんの前にそっと差し出した。酒に酔ったレイトさんは何故か若返っている。


「(レイト様は酔っ払うと若返って暴れ回るって本に書いてあったような……)」

 

「此処は……そうだ、確か魔王軍が待ち構える森をあえて突っ切るって話だったな。では、風魔法で道を開けさせて……」


「おい待て!こんな所でそんな馬鹿みたいにデカい魔法使うな!あと魔王軍はもう全滅してるっての!」


『エメラルドさん、レイトさんは酔っ払っていて全力は出せないようです。私もレイトさんの力を抑える手助けをするので、とにかくレイトさんの暴走を止めてください!』


「僕にこんな面倒事押し付けるんじゃねーっ!!」


 私とエメラルドさんは魔法と超能力を駆使し、何とかレイトさんを止めた。


 数時間後、酔いが覚めたレイトさんが申し訳なさそうにしながらボロボロのエメラルドさんに頭を下げた。


「エメラルド、すまなかった……」


「と、止まって良かった……です……」


 レイトさんは暴走を止めてくれたお詫びとして、エメラルドさんの修行に付き合うと約束してくれた。


 このお陰で、エメラルドさんの魔法技術は大幅に上がった。




 約40年後……



 結論から言うと、エメラルドさんは物凄く強くなった。


 念力で高速で空を飛び、その辺の物を自由自在に浮かべて飛ばせるようになった。


 テレポートは完璧。魔力無しで風を操り、テレパシーで遠く離れた相手も感知し会話ができる。


 レイトさんの助けもあって魔法の腕もかなり上達した。


 上級ダンジョンである『エメラルドの海』のボス『エメラルドマンドラゴラ』を1人で何とか討伐できた。



 エメラルドさんの凄まじい努力と、40年も修行を続けられる精神は本当に素晴らしいと思った。

 途中で多少は気晴らしをしたものの、それでも何十年も修行を続けられるとは。


『(ダンジョンボスを1人で倒すっていう目標が良かったのかな……)』




 そして今日、エメラルドさんが待ちに待った最後の仕上げに取り掛かる。




「その辺のダンジョンボスなら1人で倒せるようになった……ねえモヨ、これならもう進化しても大丈夫じゃない?」


『できると思います!』


「よし!」


 エメラルドさんは右手をグッと握りしめる。


『今のエメラルドさんは悪魔族の下位種『デーモン』です。普通に進化すれば『ハイデーモン』、魔力をある程度上げて進化すれば『マジックデーモン』、他にも『デビルピエロ』や『アイアンデーモン』とか色々あるそうです』


「魔力はだいぶ上がったから……エメラルドの進化先は『マジックデーモン』か?」


 高度な魔法の使い過ぎが原因なのか、何故か若返ってしまったレイトさんが口を挟む。


『はい、普通なら進化先は恐らく『マジックデーモン』です。そこから魔法に強い悪魔に進化していき、最終的に『上流悪魔』という貴族っぼくて物凄い魔法を操れるロイヤルな魔人になるようです』


『普通なら……でも、今のエメラルドさんは魔法だけじゃなくて超能力も使いこなせるようになったよ。もしかしたら超能力のおかげで新しい進化ができるかも!』


 私のそばにいるシルバーディスクのバスラは楽しそうに話す。


 その隣には、元プラチナワームで今は『ゴーレムモドキ』というサナギのまま動き回れるゴーレムっぽい姿に進化したナワが、ワクワクした様子でエメラルドさんを見つめている。


 ナワもエメラルドさんの特訓に参加したメンバーの1人。主にエメラルドさんの対戦相手として手助けしてくれた。


「エメラルドさんの身体はほとんど人間だから、もしかしたら進化できないかもしれないけど……でも40年以上も特訓したなら、きっと進化できる筈です!」


 前よりは空気が読めるようになったヒスイは、ただ純粋にエメラルドさんの進化を楽しみにしている。


「モヨ、心の準備はできたよ」


『はい。それでは……エメラルドさんにエネルギーを与えます!』


 私は両手に力を込め、エメラルドさんの体内にエネルギーを発生させた。


「うわっ!?」


 エネルギーはエメラルドさんの身体に吸収されていく。相手に無理をさせないよう、少しずつ少しずつエネルギーを送っていく。



「うぅ……!」



 やがてエメラルドさんの身体全体が輝きだし、物凄い閃光を放ちながら爆発した。



 辺りに土煙が舞い、エメラルドさんの姿を隠す。



『邪魔!』



 念力で土煙が吹き飛ばされ、エメラルドさんが姿を現した。



『こ、これは……』



 頭部から4本のツノが生え、緑色に輝く瞳には不思議な模様が浮かび上がる。


 緑色の髪の毛は怪しく輝き、まるで水中にいるかのようにユラユラ揺れている。


 前と身長は変わらなかったが、緑色に輝きながら宙に浮かぶエメラルドさんはどこか神々しく見えた。


『何か力がみなぎってくるような感覚……僕、ちゃんと進化できたんだ……!』


 本来、マジックデーモンは2本のツノと大きな翼が生え、身長もそれなりに高くなる筈だが、今のエメラルドさんにはマジックデーモンに見られる特徴は全くなかった。


『前より魔力も超能力も向上してます!』


『モヨ、僕って何になったの?マジックデーモン?』


『いや、マジックデーモンじゃないです……』


『じゃあ何なの?』


『それが……今のエメラルドさんが何の種族かも分からないです。私のデータにありません!』


『ホント?つまり新種?』


『それ絶対に新種ですよ!』


『やった!』


 エメラルドさんは両手をグッと握りしめながら喜ぶ。


『名付けるなら『サイコデーモン』ですかね?』


『シンプルでいいんじゃない?変な名前よりかは遥かにマシだよ。そうだ、折角だしどれくらい力が上がったか試してみようかな』


 エメラルドさんはその場でテレポートし、遠くに見える岩山の前に移動した。岩山の上には、これまた大きな大岩が鎮座ちんざしている。


『それっ!』


 エメラルドさんが岩山に向かって力を込めると、大きな大岩……の下にある巨大な岩山の根本が割れ、岩山がその場でスッと簡単に持ち上がってしまった。


『山が浮いた!?』


「大きな山が持ち上がってる!」


 バスラとヒスイが驚く中、大岩ごと持ち上がった岩山は念力で綺麗に浮かんでいる。


『凄い!念力が手に取るように簡単に扱える!』


 大岩ごと持ち上がった岩山を指一本で軽く放り投げる。岩山は物凄い速さで遠くへ飛んでいった。


『凄いですよエメラルドさん!そうだ、折角ですし試しにその新しい姿でダンジョンボスと戦ってみますか?』


『うん!』


『じゃあ難しめのボス呼んじゃいますからね〜!』


 私は大張り切りで力を使う。ダンジョン内をうろつく光精霊を操ってボスの元まで飛ばし、ボスを瞬間移動でこの場に飛ばした。


『てやーっ!!』


 私が呼び出したのは……腕利きの冒険者が入るのをためらうダンジョン『水晶迷路』のボス、クリスタルマジシャン。


「!?」


 突然、別の世界に飛ばされたクリスタルマジシャンは目を白黒させながら辺りを見回している。


『クリスタルマジシャン!?さすがに段階飛ばし過ぎじゃない!?』


『いえ、今のエメラルドさんなら互角に戦えるかと!それに今はこの場にレイトさんやヒスイ、バスラとナワもいますから!ダメそうだったら助太刀出来ます!』


『それもそっか……』


 エメラルドさんが気を取り直した所で、クリスタルマジシャンが宙に浮かぶエメラルドさんを発見。


「…………!」


 怪しく輝くエメラルドさんを敵と認識したクリスタルマジシャンは、両手に持った2本の杖で魔法を発動させた。

 輝く水晶のようなエネルギーが幾つも発生しては、何の構えも取っていないエメラルドさんに向かって物凄い速さで飛んでいく。


『はあっ!』


 エメラルドさんは念力エネルギーを右手に込め、クリスタルマジシャン目掛けて全力で放った。右手から緑色の不気味な閃光が飛び出す。


 不気味な閃光は魔法の水晶を吹き飛ばし、クリスタルマジシャンの持つ頑丈な杖が粉々に消し飛んだ。


「ぐげっ」


 念力エネルギーが込められた閃光を浴びたクリスタルマジシャンは、全身からグシャリと嫌な音を鳴らし、妙な声を上げながら遠くへ吹き飛んだ。


『捕まえたっ!』


 エメラルドさんは念力ですぐさまクリスタルマジシャンを掴むと、左右から凄まじい威力の念力プレスを喰らわせた。


 クリスタルマジシャンは呆気なくペシャンコになり、水晶帽子と光水晶をドロップして跡形もなく消えてしまった。


「エメラルドの奴、凄いな……あのボスモンスターは、ランク10の上級冒険者ですら相手をしたがらんほどに強く厄介な奴だ」


『それを呆気なく倒してしまうなんて……』


 …………もしかしてエメラルドさん、強くなり過ぎた?

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