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9話 ストイックヒスイ

 時の流れが緩やかな修練場。かつて森だった土地は、焼けた植物の灰で覆われて真っ白になってしまった。


 そんな白い土地の上に、ボロボロの男が寝そべっている。その隣には冷気を放ちながら停止している真っ白のスーツ男性。


 地面の上で寝ているのは、エメラルドさんを倒そうとしていたボア。妙なポーズで止まっているのは、エメラルドさんを倒すよう指示を出していたスーツ男性。


「よしっ!この勝負、私の勝ちですね!」


 ヒスイは相手の魔法使いが放つ魔法に対し、超能力1つで見事に立ち回り完全に勝利してしまった。

 強敵2人を倒したサイコアルラウネのヒスイは、勝利した喜びにより満面の笑みを浮かべている。だが……


「これ、やり過ぎじゃないかな……」


『ヒスイに相手を殺さないよう指示するのを忘れてました……!』


 エメラルドさんを消そうとしていた相手は息も絶え絶え……スーツ男性に関しては、もはや息をしてるのかすら分からない。


『この2人を急いで治療師の元に飛ばします!』


 私はボアとスーツ男性を瞬間移動でこの場から飛ばし、治療師が集まる施設に送った。

 この場には私とエメラルドさん、そして満足げな様子のヒスイが残った。


「さて!それでは……念力の基本から入りましょうか!」


「……えっ?まさか今から超能力の修行を始めるつもり?」


 先程、強敵との戦いを終えたばかりなのにヒスイは何食わぬ顔でエメラルドさんとの修行の為に声をかけた。

 エメラルドさんはヒスイのマイペースな調子にドン引きしている。


「あんなえげつない事しておいてよく修行する気になれるね……せめて心の準備くらいさせてよ……」


「えぇ?心の準備なら後で幾らでもできますよ?それよりも……エメラルドさんは表で命を狙われてるんです!今はとにかく修行が最優先、ですよね?」


「……ヒスイさん、人の心ってのはそんな急展開に追いつけるほど頑丈にはできてないんだって……」


「んー?つまりエメラルドさんは、急激に変化してしまった環境に追いつけていない……って事ですか?周りの森が消し飛ばされてナイーブになったとか……?」


「そうじゃない……いや、もういいです……」


「あ、心はもう大丈夫になった感じ?良かった良かった!」


「…………はぁ」


 ヒスイのどこかズレた会話に、エメラルドさんが辟易へきえきしている。


『あの……』


 私はエメラルドさんの耳元にそっと寄り添う。エメラルドさんは私を目視で確認しつつ、私に耳を傾けた。


『エメラルドさん……1つ言い忘れてました……』


「…………何?」


『ヒスイは……生まれた時から1人で何かをするのが好きで……ヒスイは、仲間と群れるより1人でずっと修行をし続けるストイックな子なんですよ……』


「つまりヒスイは、周りの子と碌にコミュニケーションを取ってないから、普段の会話が絶妙にズレてしまっている……と?」


『そんな感じだと思います……』


 先程ヒスイさんは敵を相手にズレた会話をしていたが、あれは敵を怒らせる為にわざとやったものだ。

 だが普段の会話も絶妙にズレているので、普通に会話を試みようとしたらだいぶ疲れてしまうだろう。


 因みに、ヒスイは他のアルラウネからは尊敬の念を抱かれている。

 だが、相手の気持ちをイマイチ理解できず一方的な会話をするヒスイに、大多数のアルラウネはウンザリしてあまり近寄ろうとしたがらない。


 孤立しやすいヒスイは、元から好きだったバトルの修行を長時間続け……最終的に、あのエメラルドさんがドン引きする程に恐ろしい相手を、軽くひねって潰せるくらいには強くなってしまったのだった。


「エメラルドさん、モヨさんとの会話は終わりましたか?」


「あっ、うん」


「なら大丈夫ですね!では早速、超能力の修行を始めましょう!私についてきてください!」


「わ、分かっ……うわっ!?」


 エメラルドさんが返事を言い終える前に、ヒスイはエメラルドさんを念力で持ち上げてしまった。


「レッツゴー!!」


「うわぁあああああああ!?!?」


 ヒスイはエメラルドさんを持ち上げたまま物凄い速さで走り出し、私の前からあっという間に姿を消してしまった。


『エメラルドさん、大丈夫かな……』


 この修行を提案した私が言うのもアレだけど、かなり心配……

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