8話 ヒスイの実力
私の体内の異世界、時の流れが緩やかな修練場の中にて。
『これからエメラルドさんには『超能力』を習得していただきます!』
私はエメラルドさんに向かってそう言い放った。
対するエメラルドさんは何がなんだか分からない様子で、私とサイコアルラウネ『ヒスイ』の顔を交互に見つめる。
「…………超能力?僕が?何で?数百年かけて魔法を極めるとかじゃなくて?」
「いえ、魔法では…………エメラルドさん数百年も修行するつもりだったんですか!?」
「当たり前じゃん」
普通の人なら数十年で悲鳴を上げそうだけど、向上心のあるエメラルドさんなら数百年の修行も見事に成し遂げられそう。
『私としては、魔法よりも超能力を習得してほしい所ですね』
「何で魔法より超能力を推すの?魔法使いの僕に対してそこまで言うってことは、何か深い理由があるんでしょ?」
『勿論です!なんと、超能力は……』
「魔法より超能力の方が強いんです!」
私が説明する前に、横入りしてきたヒスイがざっくりとした結論を言ってしまった。
「は?」
案の定、目に見えて不機嫌になる魔法使いのエメラルドさん。
魔法使い相手に「魔法より超能力の方が強い」なんて言ったら普通は不機嫌になるだろう。
「何故不機嫌に?魔法より強いのは本当の事ですよ?」
『今のは言い方が悪いよ……エメラルドさん、もう少し詳しく説明しますね。超能力の「念力」は、念じるだけで人や物を持ち上げられる能力です。空気を動かせば風を巻き起こす事もできます!』
「……まさか、その要領で「超能力で魔法をねじ曲げたりせき止めたりできる」とかいうつもり?」
『その通りです!流石は賢いエメラルドさん、話が早いです!』
「…………信じられないんだけど」
未だにしかめっ面のエメラルドさん。
「確かにさっき、この人が魔力不使用で物を飛ばして「本物の超能力」らしきものを見せてもらえたけど、その力が魔法より遥かに優れてるなんて……」
「なら、ここで試してみますか?エメラルドさん」
エメラルドさんの疑問に対し、ヒスイが笑顔で答える。
「えっ?ここで魔法と超能力をぶつけ合うの?」
「そうです。エメラルドさんが私に向かって魔法を放ち、私は超能力……念力のみでそれを止めます。それで超能力の実力を体感していただこうかと」
「……まあ、それが1番分かりやすいよね。いいよ、それでやろうよ」
気を取り直したエメラルドさんは、ヒスイの提案を受け入れたようだ。
『超能力側がヒスイで魔法側がエメラルドさんで対決をする流れになったようですが……魔法側の変更を求めてもよろしいですか?』
「えっ?魔法放つ人を変えるつもり?僕以外に魔法を使える人が此処にいるの?」
『此処にはいません。今ちょうど、外で丁度いい感じの魔法使いを発見したんです!エメラルドさんの代わりにこの人に魔法を放ってもらうのはどうですか?』
「ほかの魔法使いを僕の代わりにするって……そいつ、僕の代わりになるくらいには魔法は扱えるの?」
『エメラルドさんを倒すと豪語していた方なので、それなりに強いんだと思いますよ!』
「えっ?」
『光精霊がその場面をしっかり見て記録していたので、その記録を映像で是非ご覧ください!』
私は空中に光精霊を集めて長方形の大きなスクリーンを作った。
「おぉー、映画みたい……」
『映像を流します!』
空中に浮かんだ巨大な画面に映像が映り、同時に音声も流れ始めた。
『数分前の映像です!』
「ここは……路地裏?」
真夜中、薄暗い路地裏に佇む1人の不審な男。そこにスーツ姿の男性が現れ、不審な男の前で停止した。
『ボア、お前に仕事を頼みたい』
スーツ姿の男が不審な男に声をかける。
『今度は誰を消すんだ?』
ボアと呼ばれた不審な男は、不敵な笑みを浮かべながらスーツの男性を見つめた。スーツの男性は無言のまま、懐から1枚の写真を取り出した。
『コイツは……?』
『最近、巷で騒がれてるスカイダイヤのメンバーの1人、魔法使い担当のエメラルドだ。今回はコイツを始末してほしい』
『この子どもを?』
『今回は殺さなくてもいい。大怪我を負わせるだけで十分だ』
『コレ、まだ子どもだろ?上から始末を頼まれるとは……どんな悪いことしたんだ?』
『お前が知る必要はない。無駄な詮索をするな』
『はいはい。今回も俺の華麗な魔法でパパッと片付けるとしますか』
『油断するな。奴は16歳にして冒険者ランク6を獲得している腕のある魔法使いだ』
『ランク6……まあ、魔法使いの腕前なら俺の方が上だ。すぐにカタをつけてやるさ。で、コイツの詳しい情報は?』
『いつもの場所に前金と共に置いてある。情報は見たらすぐ燃やせ、いいな』
『分かった』
スーツの男性は写真を懐にしまうと、再び歩き出して路地裏から離れていった。
『……はい!こんな感じです!』
「こんな感じです!じゃないんだよ」
映像を全て流し終えた後。場面は再び、時の流れが緩やかな修練場の中に戻る。
「なんか映像の中で僕の命が狙われてたんだけど?」
『大怪我を負わせるだけでいいらしいですよ』
「そういう問題じゃないでしょ!これどうすんの!!」
『後で個人的に何とかするつもりでしたけど……超能力の相手をさせるなら丁度いいですよね?と、言うわけで……はいっ!』
私は外にいる光精霊に例の男を連れてくるよう指示を飛ばした。
それと同時に、先程映像に出ていたボアとスーツの男が私達の目の前にパッと姿を現した。
「ん?」
「こ、此処は……?」
「げえっ!?」
目に見えて戸惑う2人。そんな2人を目の当たりにしたエメラルドさんは妙な悲鳴を上げながら私の背後に隠れた。
『大丈夫です!この2人には既にテレパシーで『私とエメラルドさんの姿を見えなくする』という指示を与えてあります、私達が襲われる心配はありません!』
「それにしたってさぁ……せめて心の準備くらいさせてよ……」
なんて会話をしてる間に、2人の男は近くで佇んでいたヒスイの姿を発見。
「……小娘、お前が俺達を此処に呼んだのか?」
「折角ココに来たならお話でもしません?」
ボアの台詞に質問で返すヒスイ。ボアは眉間にシワを寄せ、懐から魔法杖を取り出した。
『あっ、始まるみたいです!私達は少し離れて観戦しましょう!』
「えっ、大丈夫……?仮に僕より強い相手だとしたら、かなり苦戦を強いられると思うけど……」
『ヒスイなら大丈夫です!』
私達は大急ぎでボア達から離れ、近くの木陰に身を潜めた。
一方ボアは杖を構え、目の前のヒスイをギロリと睨みつけている。
「……俺に何の用だ」
「エメラルドさんを潰すのをやめてくれたら釈放しますよ?」
「人の話を聞けっ!!」
ヒスイのズレた会話にカチンと来たボアは、杖に込めた膨大な魔力を炎魔法に換えて周囲に解き放った。
「げっ、ヒュドラ……!(コイツ、とんでもない魔法を……!)」
エメラルドさんが『ヒュドラ』と呼んだ魔法は、白と黒に輝く炎となって周囲に広がって恐ろしい怪物の頭に姿を変えた。爆炎の中から怪物の頭が幾つも姿を現していく。
『凄い熱……!』
ヒュドラは轟々(ごうごう)と音を立てながら集団でヒスイを取り囲む。ヒュドラの熱は凄まじく、周囲に生える植物や木々がじわじわと燃えていく。遠くから見ている私達の元にも凄まじい熱が流れ込んでくる。
「質問に答えろ。お前、何で俺の依頼を知ってるんだ」
「貴方が依頼を受けたからエメラルドさんを潰すんですよね?」
「話を聞けと言ってるだろ!!」
ヒスイの質問にボアがブチ切れた。ボアが激しく叫ぶのと同時に、ヒスイを取り囲んでいたヒュドラは卑しい笑みを浮かべながらヒスイに一斉に飛び掛かった。
「ヤバい!」
エメラルドさんが叫ぶ間もなく、ヒュドラの魔法は爆発して炎上。広範囲に広がる森のほとんどをあっという間に爆炎で飲み込んでしまった。
『はいっ!』
私は相手の攻撃が届く前にエメラルドさんを連れて瞬間移動。ヒュドラのいる遥か上空に再び姿を現した。
「モヨ!ヒスイさんが……!防御魔法でもあれは流石に……!」
『大丈夫ですよエメラルドさん!ほら、アレ見てください!』
私は真下の、ヒスイが立っていた場所を指し示した。
地上、何もかも焼き尽くされた森の中央に肩で息をするボアの姿があった。周囲は紫の煙で覆われており、ヒスイの姿が完全に見えなくなっている。
「…………小娘相手に少しやり過ぎたか」
「酷いな……後で元に戻しておけ」
「はいはい……」
その隣にはスーツの男性が立っており、ヒスイが立っていた場所を見つめている。
「攻撃はもう終わり?」
ボアが気を緩めた瞬間、ヒスイが立っていた場所から明るい声がした。
「自信満々にあんな事を言ってたから、もっと強いかと思ってたけど……」
魔力の感じない不自然な突風が周囲に吹き荒れ、辺りを包んでいた紫の煙を全て吹き飛ばしてしまった。
「おじさんの攻撃、全然だったね」
煙の中からヒスイが再び姿を現した。先程、あんな化け物のような魔法を喰らったにも関わらず、ヒスイの表面には傷どころか汚れ1つ付いていない。
「あ……?」
「今度はこっちから行きます!」
ヒスイは右手をボアに向けた。一瞬で顔中に汗を噴き出したボアは、瞬時に防御魔法を展開して衝撃に備えた。先程の攻撃魔法の威力からして、防御魔法も相当凄いのだろう。
「それっ!!」
「があっ!?」
ヒスイが掛け声を放つと同時に、ボアが風もないのに簡単に吹き飛んだ。防御魔法を展開してるにも関わらず綺麗に吹き飛び、ボア本人は思わず目を見開く。
「まだまだぁ!」
ヒスイが右手を回すと、ボアも手の動きに合わせてブンブンと周囲を飛び回った。物凄い速さで回転し、左右に揺さぶられ、激しく上下に振られて地面に叩きつけられた。
振り回され過ぎてボアの意識がかすれているのか、防御魔法が次第に弱まっていく。
「これで終わりっ!」
ボアは高く打ち上げられ、私達のいる遥か上空で停止。ボアの顔が私達の前に現れ、偶然にもボアとエメラルドさんの目が合ってしまった。
「…………!」
「ど、どうも……」
オモチャのように激しく振られたボアは息する余裕もないのか、エメラルドさんを見ても唸り声すら上げない。
「それーーーっ!」
真下からヒスイの掛け声。それと同時にボアが急降下し、物凄い速さで地面に叩きつけられてしまった。
「…………」
幸い、魔法服と魔法に体が守られていたボアはペシャンコに潰される事はなかったようだが、ヒスイの激しい攻撃で完全にノックダウンしてしまったようだ。
それを見たスーツの男性は、懐から水晶のような物を大急ぎで取り出した。
「くっ……!」
スーツの男性は大急ぎで高度な魔法を展開し、ヒスイ目掛けて放った。氷点下を遥かに下回るおぞましい光線が放たれ、あっという間にヒスイに命中。だが……
「な、何故……!?」
氷の輝く光線はヒスイの目の前で停止している。ヒスイは涼しい顔で光線を見つめている。
周囲が光線の放つ冷気で次第に凍っていくが、それでもヒスイは顔を歪めず笑顔を保っている。
「私は強いアルラウネなので、熱も冷気もある程度なら平気なんです!」
ヒスイは相変わらずズレた返事で相手を煽る。
「ま、魔法が停止……!?お前、一体どんな手を……!」
「お返しします!」
「は……」
ヒスイが相手に向かって手のひらを突き出すと、光線がその場でU字のように曲がった。
光線はあっという間にスーツの男性に命中。スーツの男性は真っ白になり、冷気を帯びたまま固まってしまった。
「よしっ!この勝負、私の勝ちですね!」
ヒスイは宣言通り、魔法に対して念力1つで見事に立ち回ってしまった。




