6話 自分の力で
夜のスカイシティ。帰宅中、私達が乗る車が警察官っぽい謎のに停められた。どうやらこの謎の男の目的はエメラルドさん本人らしい。
「この魔法シールについて詳しく話を伺いたいので、一旦車から降りてもらっても宜しいでしょうか」
こんな事を言っているが、ドランさんの車に妙なシールを貼り付けたのは警察官の格好をした謎の男だ。謎の男は私達をどこかへと連れてく口実を作るために、ドランさんの車に細工をしたらしい。
仕組みが分かってしまえば非常に単純な手口に見えるが、詐欺に免疫のない人なら捕まった焦りからつい騙されてしまうだろう。
「(僕らが所属してるギルドをよく思わない別のギルドが、金で雇った人間を使って色々やってるって話があって……特に、大人気のスカイダイヤを潰そうと大々的に動いてるとか……)』
『あの警察官のフリをした人は、他所のギルドの差し金って事ですね……』
私とエメラルドさんは心の中でこっそり会話をする。
『ギルド同士でいざこざはあるとは聞いていましたが、まさかこんな方で妨害が来るとは……』
この世界には複数のギルドが存在している。私達が所属しているのは『グリーンギルド』という、グリーンタウンで生まれたしっかりしたギルド。
他の主なギルドをざっくりと説明する。
魔物だけでなく悪い人間相手も討伐対象とするギルド『狩り物』。
免許や資格が無くても入れる荒くれ者だらけのギルド『レンジャー』。
様々な商売に手を出している賑やかなギルド『ダイダイ』。
「(マネージャーからは「しばらくの間は1人で行動するな」って言われたんだよ。モヨとドランさんと一緒なら大丈夫だろうと思ってたのに、まさかそれでも手を出してくるとは……」)
『でも大丈夫ですよ。相手はこの変な人を合わせて11人の冒険者、主にランク2、3の冒険者で構成されており、最高ランク5の冒険者が3人。私ならこれくらいの人間相手は簡単にどうにかできますが……どうしますか?』
「(えっマジ?そこまで分かる上にそいつらをどうにかできるの?)」
『相手を読み取る力が強化されてるので、遠くからでもある程度は分かります!今さっきこの人達を雇った相手も分かりました。相手はダイダイギルドのギルド長です』
「(マジで?)」
『雇い主どうしますか?』
「(雇い主どうにかできるの?)」
今の私は、ここから動かなくても人間相手ならどうにかできる。この世界中に散らばる光妖精に指示を出し、テレパシーの力を使って相手を自由に操れたりする。
今の私は、この世界の生き物なら何とかできる力を持っている。
『エメラルドさんの言う通り、相手はスカイダイヤの弱体化が目当てのようです。どうしますか?』
「(消すのだけは絶対にやめて。それにこれは……)」
エメラルドさんが私に何か言おうとする前に突然、ドランさんが謎の男に対して声をかけてしまった。
「警備員さん、占いに興味あります?」
「えっ?」
ドランさんに突拍子のない話を振られて驚く謎の男。
「私、こう見えて占いが得意で……ここで会ったのも何かの縁。ここはひとつ、貴方の本日の運勢を占わせては頂けないでしょうか」
1日が終わりかけてるのに今日の運勢占うの?
「いや、今はこのシールについて話を……」
「まあまあジェイさんそう言わずに」
「えっ」
ドランさんは問答無用で占いを始める。突然名前を呼ばれた謎の男ことジェイさんは驚き目を丸くする。
「なんで俺の名前を……」
「ジェイさんの本日の運勢。貴方は今日から清掃員です」
それ占い関係なくない?
「何を言ってるんだお前……!ごちゃごちゃ言ってないで車から……!」
ジェイさんがセリフを言い終える前に突然、ドランさんは目にも止まらぬ素速さで右手を車外に突き出し、ジェイさんの額に人差し指を突きつけた。
「…………?」
ジェイさんは途端に大人しくなり瞳が濁る。
「貴方は清掃員です。貴方は清掃員としてゴミを片付けなければなりません」
「はい……」
ジェイさんはドランさんの言葉に対して無表情で返事をする。
「今現在、この近くに片付けなければならない粗大ゴミがありますね。エメラルドさんを暴行し、2度と表に出れないよう骨を折ろうとしているゴミが10個ほど……」
「はい……奴らは近くの空き地に屯してます……」
「ジェイさん、貴方は清掃員です」
「はい……」
「清掃員としてゴミは片付けなければなりませんね」
「ゴミ……片付けないと……」
ジェイさんはフラフラと後退りして車から離れると、フラフラと歩いて路地裏へと消えてしまった。どうやら仲間の元へと向かったようだ。
「ドランさんすご……」
「ふっ……我々3人の手にかかればこれくらい余裕です」
『私は何もしてませんよ?』
「僕もただ見てるだけだったよ」
「あとジェイさんの名をフワッティに改名しておきました」
可哀想に……
「さてと……」
ドランさんはハンドルを握り、再び車を走らせた。程なくして、ついにエメラルドさんの住むマンションに到着した。
「着きましたよ」
門の向こう側に見えるマンションはとても巨大で豪華でオシャレだった。
「……車出してくれてありがとう、ドランさん」
エメラルドさんはとても言いづらそうだったが、それでも感謝の言葉をドランさんに贈った。
「えっと……色々とありがとう」
「いえいえ。またパイプ詰まりを起こした際はぜひ私をお呼びください」
「今日の記憶全部飛んだ?」
ドランさんと言葉を交わしつつ、エメラルドさんは車の扉を開けて外に出た。私もエメラルドさんの後を追って外に出る。
「エメラルドさん」
外に出たエメラルドさんにふいに声をかけるドランさん。
「何?」
「困った事があったらいつでもご相談ください。力になりますよ」
「…………ありがとうございます(ドランさん、何でもお見通しなんだろうな)」
エメラルドさんは改めて礼を述べると、ドランさんの顔を見ないまま私を引き連れて門に向かった。
門のそばにいるガードマンらしき人の横を通り、そのままマンションへと入って行った。
扉を開けて中に入ると、豪華なマンションの外装に引けを取らないほどに素晴らしい内装が現れた。
エメラルドさんは無言でエントランスを通り過ぎ、所持していたカードを目の前にある大きな扉に向かってかざした。
扉はひとりでに開き、奥に並ぶエスカレーターのボタンを押してエスカレーターを呼び出す。
『(エメラルドさん、大丈夫かな……)』
エメラルドさんは終始無言のままマンション内を進み、やがてエメラルドさんが暮らしてると思われる部屋にたどり着いた。
「入って」
エメラルドさんはカードを目の前にある扉にかざし、ガチャリと音を立てて開いた扉を通り抜けて行った。
私も慌ててエメラルドさんの後を追って室内に入った。
部屋の中はファンシーで可愛らしい物がたくさん飾られていてとてもオシャレだ。
窓にかかるカーテンの隙間から、真夜街の街が作り出す素晴らしい景色が見えた。
『エメラルドさん……外の景色、すごく綺麗ですね……』
「…………そうだね」
普段なら「僕はもう見飽きちゃったかな〜」なんて言いそうな所だが、元気がないせいなのかエメラルドさんは適当に相槌を返し、無表情のままベッドに横たわった。
『エメラルドさん……大丈夫ですか?」
「…………」
エメラルドさんは返事をせず枕に顔を埋める。私とエメラルドさんの間に気まずい空気が流れる。
「モヨ、ごめん」
しばらくして、エメラルドさんが思い口を開いた。
「折角楽しい観光だったのに……楽しい時間を台無しにしてごめん」
『えっ?いや、そんな……台無しにしてきたのはあのジェイ……フワッティっていう冒険者の方ですから!』
私はエメラルドさんの隣に移動する。
「……そういうのじゃないよ。相手の狙いは僕なのに関係ない2人を巻き込んで、2人に守ってもらっといて勝手にイラついて……」
『いえ、そんな……』
「……(僕、いまだにモヨの事を下に見てるんだろうな……モヨに守られそうになった事に対して勝手に怒って拗ねてる……)」
「(2度とこんな風にならないって決めたのに……僕って本当に最低……)」
エメラルドさんの心の中が暗く澱んでいる。
「本当にごめん。僕を守ってくれたのは本当に感謝してる。けど、今回の事件は僕が原因で起こった事だから……ワガママを言うようだけど、これは出来れば僕だけで解決したかったかな」
『えっ?これはギルド全体の問題だから、エメラルドさんだけが原因じゃないのでは?ギルドのスカイダイヤが狙われてるって話では?』
私がそう問いかけるとエメラルドさんは再び黙ってしまったが、観念した様子で再び口を開いた。
「スカイダイヤのメンバーはね、僕以外は全員お金持ちなんだよ」
『えっ?』
「僕は一般市民。他のみんなはお金持ちの子で、教養はあるし実力もある。僕以外は皆んなランク8なんだよ」
エメラルドさんの言う通り、ギルドでは実家がお金持ちの冒険者はほとんど高ランクだ。
逆に一般市民の冒険者はランク2、3で留まっている事が多いと聞いたことがある。
「皆んなは性格に癖はあるけど結構しっかりしてるし、いじめは無いし……僕以外は色んな意味で本当に無敵なんだよ。何があっても実家がなんとかしてくれるし、実力もあるから襲われにくい」
「対して僕はランク6の一般市民。敵から見ればものすごく襲いやすい相手だし、捏造記事なんて出されたら僕は手も足も出せない」
「ハッパギルド長が死ぬまで面倒見てやるって言ってくれたけど、それでも限界があると思う。ギルド長は僕を拾ってくれたけど、そのせいでスカイダイヤに僕という弱点を作っちゃった」
「ギルドの面目を潰せる材料として僕が狙われてる……出来れば、この問題をモヨやドランさんに頼んでどうにかしてもらいたい……」
ここまで言ってため息を1つ吐く。
「でも、自分の力でどうにかしたい気持ちもある…………」
『エメラルドさん……(そこまで深く思い詰めて……)』
どうやらエメラルドさんは、自分が弱いせいでギルドに迷惑をかけてると思い込んでいるらしい。
だがこれは、ギルドを潰そうとしてる相手が悪いだけで、エメラルドさん本人は全く悪くない。
『エメラルドさん、悪いのは……』
「あースッキリした!」
私がエメラルドさんに声をかけようとした瞬間、エメラルドさんは唐突に明るい声を上げながらベッドから飛び起きた。
「愚痴を吐いたらスッキリした!よく考えたら僕だけで何とかするとか無理に決まってるじゃん!」
エメラルドさんは小走りで窓に駆け寄り、カーテンを開けながら言葉を続ける。
「ドランさんは「困った事があったらいつでもご相談ください」って言ってたし、この問題はドランさんに全部任せちゃおうかな!このままだとギルドにも迷惑かかるし!」
エメラルドさんは笑顔を無理矢理作りながら捲し立てる。完全に空元気だ。
今のエメラルドさんは「自分で問題を解決したい気持ち」と「ギルドにこれ以上迷惑をかけたくないからすぐに解決したい気持ち」で葛藤しているようだ。
『(自分だけでこの問題は解決できないと理解しながら、それでも自分自身の力で出来る限り解決したいと思ってるんだ……)』
私はエメラルドさんの気持ちを尊重したい。
目の前にチートがあるのに安易に頼らず、最後まで自分の力で解決しようとしたエメラルドさんの願いを叶えたい。
『エメラルドさん!』
私は声を荒げながらエメラルドさんの顔に急接近する。
『エメラルドさんはこの問題を自分で何とかしたいと思ってるんですよね?』
「え、うん……そうだけど」
『なら話は簡単です!』
私はエメラルドさんから離れ、両手を広げてとある提案を打ち明けた。
『エメラルドさん、今から私の世界で修行しましょう!』




