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2話 出発の時

 スカイシティに移住する事が決まり、数日後……


『ついにこの日が来てしまった……』


 今日はスカイシティに遊びに行く日であり、スカイシティに移住する日でもある。


「モヨ」


『あっ、レイトさん!』


 私がギルドの裏口でソワソワしてると、少し元気の無いレイトさんがこちらに歩み寄ってきた。


「荷物は全部持ったか」


『はい!レイトさんから頂いたベッドや家具、大会で購入して頂いた品物の数々!忘れ物は無いか何度も確認しました!』


「そうか」


 私の宣言にレイトさんは淡々と答える。


『後はエメラルドさんを待つだけです!』


 今日はエメラルドさんと一緒にスカイシティを観光する。


 スカイシティの中心とも言えるスカイタウンの街にに住むエメラルドさんが、スカイシティの中を案内してくれるそうだ。


 更に、数日前に私が「スカイシティに移住する」話をしたらエメラルドさんは、エメラルドさんが住んでいるスカイタウンのマンションに私を泊めてくれると言ってくれた。


 こんな小さい姿のまま都会で一人暮らしをするのはとても心配だったので、マンションに招いてくれたエメラルドさんには感謝しかない。


「モヨ。スカイシティに移住したら、スカイタウンって言う街にあるギルドに世話になると思うが……そこのギルド長の言うことは馬鹿正直に聞くんじゃないぞ」


 レイトさんは、私がスカイシティに移住する事が決まってから、事あるごとにスカイタウンのギルド長の事を話していた。


『確か、スカイタウンのギルド長『ハッパ』さんはギルド業以外にも色んな事業に手を伸ばしてるとか言ってましたね。あのスカイダイヤが結成される原因の1つでもあるとか……』


「そうだ。モヨ、アイツは悪い奴じゃない。だが、だいぶ金にがめつい奴だ。どんな仕事を持ちかけてくるか分からんぞ」


『凄い人なんですね……』


「ハッパは確実に、スカイシティに移住したモヨを使って様々な金儲けをする。アイツの事だから度を超えた事はせんと思うが……モヨ、アイツの儲け話は出来るだけ断れ」


『分かりました!』


「本当か?」


『嫌な仕事はちゃんと断ります!安心してください!』


「もし嫌な仕事を押し付けられたら俺に言え。どうにかしてやる」


 何をどうするつもり?


『さてと、そろそろエメラルドさんが来る時間ですが……』


「確かエメラルドがギルドまで迎えに来るんだったな」


『はい、乗り物に乗って来てくれるらしくて……』


「そうか……道路が無いからここまで車では来れんだろうから、飛行棒か自転車で来るのかもしれんな」


『自転車……』


「今の時代なら、免許さえあれば誰でも空を飛べるからな。(技術が進歩したお陰で飛行中に魔物に食われんようになったし、これからもっと空を飛ぶ乗り物が増えていくだろうな)」


 レイトさんほ裏口の扉を開けて空を眺める。私も外に出て一緒に空を眺める。


 2人で雲一つない水色の空を無言で眺める。平和でとても和やかな空気が流れる。


『…………ん?』


「モヨ、どうした」


『空に車のような物体が飛んでいるような……あっ!ギルドの屋上に向かってきます!


「車が空を……まさか飛行車か?(まだ世に出回ってない筈だが……)」


 とりあえず私達はギルドから出て空を飛び、ギルドの屋上へと移動した。青々とした木々が生えた屋上の中央に、ブラウンの高級そうなクラシックカーが停車する。


 車の助手席側の扉が開き、中から可愛らしい私服姿のエメラルドさんが姿を現した。


「モヨ!お待たせ!」


『エメラルドさーん!』


 私は大喜びでエメラルドさんに飛びつき、エメラルドさんは笑顔で私を受け止めた。


「久しぶり!昨日振りだね!」


『ラジオのお陰でいつでもお話は出来ますが、やっぱり直接会うのが1番ですね!』


「(今時だな……)」


 私とエメラルドさんの会話に対して神妙な面持ちになるレイトさん。


「……所で。エメラルド、この車はどうした」


『あっ、それ私も気になってました。この高級そうな車、一体どうしたんですか?』


「あー、これは……」


『?』


 私達の質問に言い淀むエメラルドさん。


 そんな中、車の運転席が静かに開き、中から1人の男性が姿を現した。


『あっ!ドランさん!?』


 空飛ぶ車から現れたのは何と、天才吸血鬼の異名を持つドランさんだった。


『やっほ』


 少し遅れて、ヤミダマのトコさんも私達の前に現れ簡単な挨拶をした。


『ドランさんお久しぶりです!』


「おや、皆様奇遇ですね」


「ドランさんってば何言ってんの……僕とモヨが観光するって話を何処からか聞きつけてきて勝手に加入してきた癖にさ」


『勝手に……?』


「うん。今日の朝、バイクに乗ってモヨを迎えに行こうと扉を開けたら何故か目の前にいて……何か流れでドランさんも参加する事になった……」


『えぇ……?』


 エメラルドさんはため息を吐きながら力なく答える。


「エメラルドさん、体調が優れないようですが大丈夫ですか?」


「誰のせいでこうなってると思ってんの……?」


 相変わらずマイペースなドランさんに頭を抱えるエメラルドさん。


「おいドラン。この車はどうしたんだ」


 そんな中、レイトさんはこの中で1番気になる車についてドランさんに改めて質問をする。


「ああ、これですか。商店街のくじ引きで当てました」


 この世界に商店街とくじ引きがあるんだ……


「そんな庶民的なイベントで手に入る物じゃないでしょ……」


 この世界でもくじ引きは庶民的なイベントなんだ……


「それよりもドランさん、さっき空を飛んだから車にまた燃料を入れないと、まともに走れないんじゃないの?」


「そうでした。少し失礼します」


 ドランさんは懐から中くらいのドラム缶のような物を取り出すと、開けた給油口に中の液体を注ぎ始めた。


「あの車、空を飛ぶ時に物凄い量の燃料を食うらしくてさ、時折ああやって燃料を入れないとまともに飛べないんだってさ」


 この世界なら、技術が発達すればいずれは燃料無しで空を飛んだりするのだろうか……いや、歩くだけで遠くに行ける道具を作った方が遥かに効率的かもしれない。


「燃料を入れ終わりました。これでいつでも出発できます」


「そうか……」


 ドランさんの『出発』の一言を聞いて、レイトさんは目に見えて落ち込む。


「…………モヨ、向こうに行っても達者でな」


『そんな風に言われると、まるで永遠の別れみたいじゃないですか……修行の時とか、暇ができた時にいつでもレイトさんに会いに行きますから』


「それもそうか……」


 私の言葉を聞いてもいまだに落ち込み続けるレイトさん。


「…………向こうが嫌になったら俺に言え。いつでも消し去ってやるからな」


『何を消し去るおつもりですか!?』


「何となく分かるだろ。ま、冗談だけどな」


 レイトさんが言うと全然冗談に聞こえない。


 その間にエメラルドさんは、私達を見つめるドランさんを引っ張って無言で車に乗り込んだ。どうやら気を遣って2人きりにしてくれたようだ。


「…………モヨ」


『はい』


「…………街に行ってこい。色んな物を見て学べ。身体には気をつけろ」


『分かりました!レイトさんもお元気で!』


「おう」


 レイトさんのいつも通りのあっさりとした返事を聞いた後、私は振り返って車に近付き、そのまま車の後部座席に乗り込んだ。


『うわっ!?物凄く広いです!!』


 車の後部座席側は高級車のように物凄く広かった。沢山の綺麗な革張りの座席、中央には見た事ない素敵なお菓子が積まれたオシャレな黒テーブル。


 冷蔵庫のような箱の上にコップや氷を入れる道具がある事から、ジュース的な物まであるらしい。


「これ全部モヨの為に買ったんだって。移動中に食べていいってさ」


『やったー!!』


 エメラルドさんの説明に私は大喜びで飛び上がる。


 車の内装に大喜びして辺りを見回す。ふと外を見やると、そこには寂しそうな目を向けるレイトさんの姿が。


「そろそろ出発します。モヨさん、何か言い残した事はありますか?」


 ドランさんはそう言いながら後部座席のレイトさんが見える窓を開ける。


『勿論あります!』


 私は大急ぎで窓から身を乗り出してレイトさんを見つめた。


『レイトさん!』


「何だ、忘れ物か」


『そんな所です!』


 私は笑顔で答え、大きく息を吸い込んだ。


『レイトさん、行ってきます!』


「…………おう」


 私の全力の挨拶にも相変わらずの返事を返すレイトさんはとても寂しそうで、何だかいつもより一回り小さく見えた。


「出発します」


 挨拶が終えたのを確認したドランさんは、いつも通りの淡々とした声で出発の合図をする。車はエンジン音のような機械音を鳴らしながらゆっくりと宙に浮かび上がる。


『レイトさん!お土産買ってきますから期待しててくださーい!!』


 私は声を張り上げながらレイトさんが見えなくなるまで手を振った。レイトさんは手こそ振り返さなかったものの、最後まで私を見つめ続けた。

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