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23話 大会前に……

『このソファー、フカフカです!』


 魔法大会のレイトさん専用控え室。物凄く豪華な内装に驚き、用意されたソファーの感触に更に驚き喜ぶ私。一方レイトさんは……


「この菓子の包装凄いな。菓子の1つ1つをこんな丁寧かつ綺麗に包むとは」


 どんな内装より、お菓子の包装紙のクオリティに驚いていた。


「ん、うまいな」


 どうやら美味しいらしい。レイトさんは無言でお菓子の包装紙を開けては、どんどん口に放り込んでいく。


 そんな風にレイトさんがお菓子をポリポリ食べていると、突然ドアがノックされた。


「レイト様、衣装合わせをしに参りました」


「いいぞ、入ってくれ」


「失礼します」


 控え室の扉が開き、外からオシャレな衣装を着た美人な男性が入ってきた。衣装や化粧のせいか、どこか冷たい雰囲気がある。


「お初にお目にかかります、私の名はクリスタルと申します。レイト様……久しぶりの晴れ舞台だというのに、随分とラフな格好ですね。先程までランニングでもしてたのですか?」


「よく分かったな。今日は観客のつもりで来たから、特に着飾る必要も無いと思ってそのまま来たんだ」


「外にでるならそれなりの格好というものがあるでしょう……では早速、レイト様の衣装合わせを始めさせて頂きます。モヨ様もどうぞこちらに」


『私もですか!?』


「当たり前です。レイト様を完璧にしても貴方がそのままでは、全く示しがつかないでしょ」


『わっ、分かりました!』


 私は駆け足でレイトさんの横に立った所で、クリスタルさんは手に持っていた鞄を広げた。


 そこからカラフルな布やアクセサリーが飛び出しては、クリスタルさんの周りを規則正しく浮かんでいく。


「失礼します」


 そこからクリスタルさんは、とにかく目まぐるしく動き回っていた事だけは覚えている。


 メジャーのようなものをレイトさんの身体に巻いたり、布や宝石を合わせたり、布に魔法を施したり……そんな大変そうな作業を、とにかく無表情のまま行っていた。


 クリスタルさんの頭の中では、次々にお洒落な衣装が浮かんでは消えていくのが見えた。



 そして数十分後……



「完成です」


 ついにレイトさんの衣装が完成した。


 白を基調に、差し色に緑が使われたシンプルかつお洒落な衣装だ。お洒落だけど動きやすそうで、生地は頑丈でとても軽そうだ。


「おぉ、これはいいな」


 レイトさんは衣装を着たまま軽く動く。とても軽やかだ。


「マジックワームから採れた糸を、最先端の技術で綿密に編み込んだ生地です。どんな鎧よりも遥かに頑丈で、補助魔法が無くとも魔法耐性は十分ございます」


 因みに私には宝石のついた緑と白の大きなリボンを着けてくれた。


『物凄くお洒落です!ありがとうございます!』


「当然です」


「ありがとな。お代はグリーンタウンギルドにでも寄越してくれ」


「既に戴いております。では私は、これにて失礼します」


 クリスタルさんは最後に一言だけ挨拶をすると、颯爽とこの場から立ち去っていった。


『何か、色々と凄い人でしたね……なんか、仕事一筋って感じでカッコよかったです……!』


「だな、奴の腕は凄くいいな。それにしても最先端の防護服は物凄く軽いんだな」


 レイトさんはくるくると動き回って衣装の感覚を確かめている。その場で跳ねたり、軽くジャンプしたりしている。ご老人とは思えない動きだ。



『レイトさん身軽ですね!』


「まあ、時々だが軽く運動してたからな」


 なんて会話をしていると、再び扉をノックする音が。


「何だ?」


『あ、多分ですがレイトさんに会いたい人が来てるんだと思います!外に物凄い長さの列が出来てますよ!』


「ホントか?」


 レイトさんは立ち上がり、扉の前まで移動する。


「何の用だ」


「レイト様、失礼します。あの……大会の参加者の方々がレイト様に挨拶したいと、長蛇の列を作っていて……」


「モヨの言う通りだったな。分かった、入れていいぞ」


「わっ、分かりました……では、1組ずつ入れていきます……」


 レイトさんの許可を得たスタッフらしき人が外で人と話し合いをしている。


 やがて話し合いが済んだのか、先頭にいた人がレイトさんの控え室の扉をノックし、とてもお洒落で可愛らしい少年が室内に入ってきた。



「失礼しますっ!」


 緑色の差し色が入った髪に、短パンの下にシンプルなタイツ。明らかに現代っ子で、都会の雰囲気をこれでもかと纏っている。


「レイト様、初めまして!スカイシティ初のアイドルユニット、『スカイダイヤ』の魔法使い担当、エメラルドですっ!」


 可愛らしい男の子は、ハキハキとした口調で元気な挨拶をした。


「スペシャルゲストにレイト様がいらっしゃると聞いたので、急いで挨拶にやってきました!(ヨボヨボ爺さんか……こんな様子じゃ、最初の競技を突破すら出来ないでしょ。あー、構えて損した)」


 ……ん?


「あの大英雄レイト様が冒険者として復帰するって新聞で知りました!僕、勇者の話が大好きで大好きで……!よく伝記を読んでいた僕としては、とても嬉しい話ですっ!(伝記なんて読んでないけどね。と言うかこんな様子じゃ、復帰して早々に脱落しそ〜)」


「ありがとな」


「うわぁ〜!あのレイト様にありがとうなんて言われちゃった!嬉しい〜っ!(疲れるけど、これくらいオーバーリアクションすれば相手は喜ぶでしょ)」


『……』


 エメラルドさんのドスの効いた心の声に、私は思わず引いてしまった。そんなエメラルドさんは、パッと私の方を向いて可愛らしい素振りで駆け寄ってきた。


「あっ!かわいい〜っ!君知ってるよ、グリーンタウンギルドのマスコットのモヨでしょ!こんな可愛い子がギルドでお出迎えしてくれるなんて……冒険者の皆んなが羨ましいっ!(うわ、想像以上に単純な造り。こんなのが今話題のギルドのマスコットなの?)」


『!?』


 想像以上に毒を吐きまくる心の声に、私は驚きのあまり硬直する。


「本当に可愛らしいなぁ……あ、そろそろ次の人に代わらないと!レイトさんっ!今日はどうぞお手柔らかに、宜しくお願いしますっ!(この話題性しかない爺さんを踏み台にして、僕は更に注目を集めてやる!)」


「おう、宜しくな」


「では、失礼しまーすっ!」


 エメラルドさんは物凄い笑顔で両手を振り、そのまま控え室から退場したのだった。


『(な、何て打算的な人なんだ……)』


 エメラルドさんの物凄い心の声に戦慄する。


 相手の力量を見誤り、毒を吐く短所はあるが、あんなに若いのに物凄い野心と向上心を持つのはある意味凄い事だと思う。何やかんやで、彼と大会で会うのが楽しみになってきた。


「モヨ、どうした」


『いや、この世には面白い人間が沢山居るな、と思いまして……』


「…………どの漫才師の話だ?」


 そう言う意味じゃないですレイトさん。




「次の方入りまーす!」


「いいぞ」


「失礼します!」


 こうして、次から次へと入ってくる大会の参加者達。皆んなは勇者レイトさんと、そしてオマケで都会で少し話題になっているらしい私を見に来たようだ。


 魔法大会の参加者は殆どが冒険者や魔法学校の生徒、後は魔法関連の仕事に就職してる人が多かった。


 だが中には、魔法に魔法とは関係ない職業に勤めている一般の方も居た。


 この大会が過度に注目されているからか、魔法が使える芸能人の方がそこそこ居た。


 そこそこ有名か、まだ名の売れてない方々が多く、この大会で良い成績を残して少しでも有名になるつもりらしい。


 誇張された大会の話の影響がこんな所にまで現れるとは。



『(皆んな大変なんだなぁ……)』




 参加者からの長い挨拶を終え、最後にやってきたのは2人の男性。


 彼らはコンビの漫才師『グレードマン』として活動しているらしく、漫才にハマっているレイトさんの為に、私達に短いネタを見せてくれた。


「いや!それは水平伝播じゃない!この話はもう終い!おわり!」


「「どうも、ありがとうございました!」」


 物凄い数の参加者と挨拶しているにも関わらず、2人のネタを真面目に見るレイトさん。


「…………あの、僕らの漫才どうでしたかね?」


「声は大きいしハキハキ喋れてるから言葉は分かりやすいな。テンポもいい。だが、ネタの内容はマニアック過ぎてちと分かりづらかったな」


「あーまだ分からない感じですか……」


「実は僕ら、前にも同じ事を指摘されたんですよ……やっぱり、もう少しレベル下げた方がいいですかね?」


「俺は素人だから漫才の事はあまり分からん。だが、もう少し内容を分かりやすくしてほしいとは思ったな」


「成る程……分かりました!貴重な時間をありがとうございました!」


「僕達はこれで失礼します!」


「おう、頑張れよ」


 2人は笑顔で挨拶をしてこの場から去った。


『外には誰も居ません。挨拶に来た人はこれで全員みたいです!レイトさんお疲れ様です!』


「おう。少なくとも80人以上は居たな」


 物凄い人数だったが、恐らくこれで全員ではないだろう。


「いやー多かったな」


『ですね……』


 ようやく大会参加者の挨拶が終わり、栄養剤片手に一息つくレイトさん。


 何かしら理由を付けて挨拶を途中で終わらせる事だって出来た筈なのに、まさか列に並んでいた人全員と挨拶してしまうとは……




 挨拶が終わり、数十分が経過した頃。外にスタッフらしき人が来てドアをノックする。


「失礼します!そろそろお時間となりますので、集合場所までご案内します!」


「おう、ありがとな」


『ありがとうございます!』


 私はレイトさんと共に部屋から出て、大会スタッフの後を追いかけて長い廊下を移動する。


『(いよいよ大会……まさか、私も出る事になるなんて……)』


 今までは冒険のサポートとして、陰から冒険者を支えてきた。


 だが今回は今までとジャンルが違う。普段の仕事と違って命の危機は無いが、だからと言って気を抜ける状況ではない事は確かだ。


  遠くから観客の歓声が聞こえてくる。物凄い感情の波も一緒に流れてくる。普段とは状況も環境も違う。物凄いプレッシャーだ。


『…………』


「……モヨ、緊張してるのか?」


『あっ、はい……!もし失敗したら、レイトさんに色々と迷惑がかかりますし……この大会はかなり注目されてるという話でしたから、新聞記者の方とか来ているでしょうし……』


 もし私が失敗して、記者の方に変な記事を書かれてしまったらと思うと……いや、それ以前にこっちがヨイトさんに負けたら、私はギルドと別れる事になってしまうんだった。


『ヨイトさんには絶対に勝ちたいのに……色んな物が頭にのしかかってる気分です……』


「…………モヨ、お前は真面目に考え過ぎだ」


『……そうですかね』


「そうだ。モヨは失敗を恐れてるようだが、失敗したら原因を突き止めて次に活かせばいい。俺自身もそれなりに強いから、失敗は幾らでもリカバリーできる。な、モヨはそこまで気にする必要はないだろ」


 こんな状況の中でも、レイトさんは普段と変わらない。いつもの穏やかな態度で私に接してくれる。


「何があっても俺が全部何とかしてやる。モヨはもっと気楽にやってくれ」


『はっ、はい!』


 そんな普段通りのレイトさんから心強い励ましを貰ったお陰で、私の心はだいぶ軽くなった。


『……レイトさん。私、出来る限り頑張ってみます……!』


「おう」


 レイトさんのお陰で幾らか気持ちが落ち着いた私は、改めて気を引き締めてレイトさんの隣に浮かんだ。




「到着しました」


 ようやく目的地に到着したようだ。物凄く広い廊下に、沢山の挑戦者が均等間隔で横並びで並んでいる。私達が到着してからも数は更に増えており、合計で100人は居るようだ。


『大会まではまだ時間はありますね』


 始まるまでは大体20分くらいあるだろうか。私はとりあえず、周りにいる大会参加者の顔を眺めてみる。


「(いよいよ、か……)」


「(ど、どうしよう……始まっちゃう……)」


 どの挑戦者も真剣な表情をしている。ある者は目の前の大会に集中し、またある者は私同様に周りのプレッシャーに震えていたりと、様々な心持ちでこの大会に挑んでいるようだ。



 そんな緊張感が漂う中、大会スタッフが神妙な面持ちで私達の前に姿を現した。


「全員集まりましたね。ではこれより、魔法大会の予選を始めさせていただきます」


「えっ?予選?」


「予選はするって同意書に書いてあったろ。何するかは分からないけど」


「こんな所でやるのか?」


「一体何するんだ……?」


 スタッフの言葉に大会の参加者一同がざわついている。


「予選の競技内容は『マジックラビリンス』。これから挑戦者の方々には、大会グラウンドのあるゴールへと向かって進んでいただきます。ですが、道中は巨大迷路となっており、普通に迷路内を移動してゴールを目指すのは至難の業です」


「迷路!?」


 どうやらグラウンドのある出口を目指して迷路を進まなくてはいけないらしい。


「普通に目指したら至難の業……ですが魔法使いなら話は別、魔法ならあっという間に抜けられるでしょう。魔法の力を利用し、誰よりも早く出口まで駆け抜けましょう。制限時間は、大会が始まって10が経過した頃となります」


 大会から10経過……私の時間感覚で換算すると、約35分以内に出口に辿り着く必要がある、という事だ。


「まじかよ……(予選であまり魔力を使いたくないんだけどな……)」


「はぁ!?大会が始まるまでに!?(始まるのは朝時が終わってから10経過だよな……えっ?本当にそんな短時間で巨大迷路を抜けられるのか?)」


「(迷路か、それなら楽勝だな))


 スタッフの説明に、周りの参加者は様々な反応を見せる。得意な人もいれば不得意な人もいるようだ。


「このシャッターが上がり切り、私が合図した瞬間に予選開始となります。皆様、準備の方をお願いします」


 スタッフの一言に、横一列に並んでいる周りの挑戦者はグッと気を引き締める。レイトさんも真剣な顔で目の前を見つめる。私も気を引き締め、目の前に集中する。



 目の前にある巨大なシャッターはガラガラと音を立てながら上がっていく。


 やがてシャッターは全て上がり切った。目の前には、3つの大きな入り口が並んでいる。



「入り口はどれに入っても構いません。では……始めっ!!」

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