19話 話を聞いてください!
レイトさんと修行の約束をした次の日の朝……
「さてと……」
私の目の前には運動しやすい服に着替えたレイトさんの姿が。伸びていた髭をいい感じに剃り、長い髪を後ろで結んでいる。
私はそのレイトさんの足元に移動し、手足を出して直立した。
「よし、早速行くぞ」
『はい!』
私の返事と共に、ギルドの裏玄関から飛び出した。そう、今日から修行開始だ。
……とは言っても、レイトさんにとっては久しぶりの運動。最初は軽いジョギングから始める事にしたのだった。
「えっほ、えっほ」
レイトさんはお年寄りとは思えない軽快な足取りで緑のある町中をスイスイと移動していく。
『えっほ!えっほ!』
私は小さい足をバタバタと必死に動かしながらレイトさんの後をついていく。
緑と町が調和した綺麗な景色の道、硬い石畳をプニプニの足でしっかり踏みしめる。
『(わざわざ地に足つけて走る必要は無いけど、もしかしたら空を飛べなくなる日が来るかもしれないし……これからは走る練習もしとかないと!)』
レイトさんと修行。嬉しい反面、1つ心配事が……
『あの……』
「ん?モヨ、どうした」
「元勇者であるレイトさんとの修行はとても有難いのですが……レイトさん、ギルドの仕事は大丈夫なんですか?」
レイトさんはギルド長。毎日机に向かって難しそうな書類に文字を書き込んだり、物凄く有名な人達と会合したりと、常に何かと忙しそうな毎日を過ごしている。
「平気だ、むしろギルド本部から「冒険者に戻ってくれ」と懇願されてたんだ。昨日、ギルド本部に「俺は冒険者に戻る」と宣言したら人材派遣やら色々してくれると言ってくれたでな。だからギルドの方は大丈夫だ」
『それなら良かったです!』
『それにしても、こうやってレイトさんと修行できる日が来るなんて……!感激です!』
「そうか。それは良かった。だが、俺は集中すると無言になるから、黙々と修行したらモヨも退屈だろう……そうだ、1つ話をしよう。モヨはこの世に居る魔物はどうやって生まれたか知ってるか?」
『えっと、図書室の本によると……この星に生息する魔物は元人間だそうです!』
「その通り、この世にいる魔物は元人間だ」
レイトさんの一言述べた後、私とレイトさんの間に静寂が訪れる。
『……………………ええーーーーっ!?そうなんですか!?!?』
「何でそんな驚いてんだ」
『えっと……本を読もうとしたら、本の情報そのものを記憶に入れたみたいで……自分の記憶に驚いた形です。いやそれよりも!この世の魔物が魔人族と呼ばれる実体をほぼ持たない人間だったって本当ですか!?』
「その通り。そもそも、この世に生息する人間は大昔の人間からしたら動物であり、魔人族と呼ばれていた人間こそが真の人間だと言われていたんだ。だがある日、空から隕石…………おっ、此処に新しいスイーツの店ができたのか」
『レイトさん!?いい所で会話を中断しないでください!』
「すまん、店にミルクチョコを使ったスイーツがあってな……お、こんな朝早くから開いてるのか。よし、ちょっと買い物に行ってくる。モヨは欲しいものはあるか?」
『いえ!私はまだ食事できないので……』
「分かった。じゃあ行ってくる」
『レイトさん!?』
レイトさんは新しくできたスイーツ店に吸い込まれるように入って行った。早朝でまだ人気の少ない道、綺麗な石畳の上に1人取り残された。
私は手足をぷらぷらしながら、1人きりでじっとレイトさんを待ち続ける。
「あ!モヨちゃん、おはよう!」
『おはようございます!』
道の向こう側から歩いてきた中年の女性に挨拶をする。
「朝早くから元気ね!」
『今現在、レイトさんとジョギングしてるんです!』
「そうなの〜!モヨちゃん、頑張ってね!」
『はい!』
中年の女性は笑顔で手を振りながらこの場から歩き去った。
最初の頃と比べて、町ではけっこう有名になったと思う。冒険者だけでなく道ゆく市民の方からも挨拶されるし、店ではヒカリダマやオオヒカリダマを模したグッズや食べ物が売られてるのも見た。
グッズに関しては当時、この町はヒカリダマが名物なんだと思っていたけど、どうやら私が現れて有名になりだしてからヒカリダマ関連のグッズを作る人が増えたとの事だ。
勿論私が所属しているギルドでも、私を模したアイテムを販売している。
いざとなったら身代わりになってくれるヒカリダマキーホルダーと、魔物が見れない特殊な光を放出し、就寝時には枕にも使用できるオオヒカリダマのフカフカぬいぐるみ。
この2つの商品は道具としても優秀なようで、地元の冒険者は勿論、外から来た冒険者からもお土産も兼ねてよく買われていくらしい。
『(外から来た冒険者……そういえば、ブルーベリー鉱山で出会って宿屋に宿泊した冒険者達も、私のグッズ買ってってくれたなぁ)』
なんて事を考えていると、スイーツのお店からホクホク顔のレイトさんが出てきた。両手には煌びやかなスイーツが沢山入った箱を持っている。
「モヨ、待たせたな」
『いえ、今来た所です』
「嘘つけ俺と一緒に来ただろ」
レイトさんは手に持ったスイーツの箱をポーチにしまいながら私の隣に立ち、改めてジョギングを再開した。
「さっきは何の話をしてたんだったかな……そうだ、モヨの体内のダンジョンを見た冒険者達の存在を全て消し去った話だったか?」
『全然違います!』
あの時は確か、私の体内のダンジョンの情報が下手に外に広まってしまうと危ないのではないかと心配したミミンさんが、冒険者を呼び集めた際に「体内ダンジョンの記憶」のみを魔法で器用に消し去ってくれた。ミミンさんには本当に感謝しかない。
「じゃあ……最近巷で話題になっている旅人だったかな?」
『それも違います……が、そっちも気になります!』
「じゃあ教えてやろう。最近突然、物凄い腕を持つ旅人がどこからともなく現れたんだ。奴らは旅先で次々と悪を成敗して回っているとかで、市民の間では人気が出てるらしい」
『へぇ〜!悪を成敗ですか……まるでおとぎ話の主人公ですね!』
「そうだな。ギルドもその旅人に助けられたりしたそうだ。そのギルド関係者曰く、その旅人達の実力はとても素晴らしかったそうだ。だが……」
『?』
「1人に関しては実力はある、と言うよりただ力が強いだけといった感じらしくてな……戦闘技術は凡人だが、やたら力だけあったと……」
ジョギングしながらレイトさんの会話を聞いているとそのレイトさんの向こう側にいる人間と目が合った。
そこそこ伸びた黒髪に優しそうな顔の少年、歳は15くらいだろうか。その少年の両脇には2人の女性の姿も確認できる。少年の仲間だろうか。
(あ!あそこで歩いているのはもしかしてモヨ?)
黒髪の少年は綺麗な女性2人を引き連れながら、私達に向かって早足で駆け寄ってきた。
「特にリーダー格の男が妙な奴らし……ん?」
こちらにやってくる人間の気配に気付いたレイトさんは、足を止めて人間の方を向いた。
「ねぇ、そこの丸い君」
『えっ……私のことですか?』
突然、知らない人に声をかけられた。私は立ち止まり、返事をしながら少年の顔を見上げた。
「そう、君の名前はモヨさんだよね?」
『はい、そうですが……えっと……』
「少年、モヨに何か用事か?」
私が困っていると、レイトさんが間に割って入ってきてくれた。少年は入ってきたレイトさんに軽く目を向ける。
「あ、ごめん。おじさんは黙ってて」
『!?』
少年は、ギルド長であるレイトさんをおじさん呼ばわりして軽くいなした。どうやらこの人はレイトさんの事をご存知ないらしい。
「初めまして、僕の名前はヨイト。僕の後ろにいる2人は、仲間のシルクとミゥ」
「宜しくお願いします……(小さくて毛だらけで不便そうな身体、なんて可哀想なのでしょう……ああ、私にもっと力があれば人間の姿に変えてあげられたのに……)」
「ヨロ〜(モヨ以外と小さっ。これなら簡単に盗めそ〜)」
『よ、宜しく……』
少年の右側にいる清楚な雰囲気に長いローブを着たシルクと、猫とエルフのハーフっぽい顔立ちで軽装のミゥが私に挨拶をする。私はこの2人の心の声に戸惑いながらも挨拶を返した。
「僕達、旅をして世界を回っているんだ」
『旅、ですか……』
グリーンタウンは環境も治安も良く、観光客が沢山訪れる町だ。旅人もそんなに珍しい存在ではない。
「(モヨ。この旅人は、俺がさっき話題に出した「最近巷で話題になっている旅人」だ)」
『(えっ!?)』
レイトさんの心の声に思わず驚く。まさか話題に出していた人物が目の前に現れるとは。
「でね、その旅の途中で、冒険者の手助けをする妖精モヨの噂を聞いたんだ。モヨのサポートは素晴らしいって」
『えへへ……』
少年のヨイトに褒められ、私は思わず光りながら照れた。
「だから、モヨには是非とも僕の旅に加わってほしくて……モヨ、僕達と一緒に来てくれないかな」
『ヨイトさん……』
このような勧誘は時折あった。主に私を借りてくれた冒険者達が「是非とも仲間になってほしい」と勧誘してくる。
だけど私は今現在、所属しているギルドから抜け出す予定は一切無い。勿論、この勧誘もはっきりと断るつもりだ。
『ごめんなさい!私、今の仕事が大好きなので貴方の仲間にはなれません!』
私はヨイトさん達に向かって謝罪をした。こんないい環境から出る予定は今の所は一切無いので……
「(可哀想に……)」
だが相手は、仲間になるのを拒否した私を何故か哀れんでいた。
「大丈夫、僕は誰よりも強いから。そこにいるおじさんよりも遥かにね」
『えっ?』
「分からないかな……じゃあ言い方を変えるよ。モヨ、僕は君を自由にするために来たんだ」
『……?』
どう言う事?
『私は割と自由ですよ?今はそれなりに稼ぎもあるので、その気になれば今の仕事からも離れられますし、一人暮らしもできますし……』
「その自由は本物じゃない。作られた自由でしかないよ。でも、僕と一緒に来れば本当の自由を得られるんだ」
『いや、仮にギルドに居座る事自体が自由じゃないとして……ギルドをやめてヨイトさんについて行く事にしたとしても、私が縛られる先がヨイトさんになるだけで自由にはならな……』
「僕は自由だよ?」
会話が全く成立していない。彼はずっと自由だのどうのこうのと一方的な話をするだけで、私の意見を碌に聞いてくれない。
『えっと……だからヨイトさん……』
「大丈夫、僕はギルドみたいに君をこき使うような事はしないから」
ヨイトさんは私の話をさえぎり、一方的な勘違いで私を説得し続ける。
『私の話……』
「今の君はギルドに洗脳されてるんだ」
『いや、だから私の……!』
「大丈夫、怖くないから」
『(何でそんな感じで世直しの旅が出来てたの……!?)』
丁寧に対応しようと努力したが、流石に限界だ。私は少し強引に言葉をねじ込む事にした。私は喋り続けるヨイトさんを前に全力で意識を集中させた。
『『『 話 を 聞 い て く だ さ い ! ! 』』』
「!?!?」
私はテレパシーの音量を最大限にしてヨイトさんの頭にぶつけた。頭に衝撃が来たヨイトさんは驚き、その場で座り込んだ。
「ヨイト様!どうしたのですか!?(まさかこの毛玉がヨイト様に……!?なんて野蛮で下劣な種族……!)」
「大丈夫?(まーた人の話聞かずに突っ走ってる……自業自得だね)」
ヨイトさんの両隣にいた仲間が、座り込んだヨイトさんに急いで駆け寄る。シルクは私に凄まじい敵意を向け、ミゥはヨイトを心配するふりをしている。
『話を聞いてください!私は……!』
「…………凄い」
私が喋ろうとした瞬間、何か呟いたヨイトさんは物凄い勢いで立ち上がって私に詰め寄った。私は急いで飛び退いてレイトさんの後ろに隠れた。
「君凄いよ!!モヨは頭を揺さぶる力も持ってるんだね!」
『うわっ!?近すぎます!!』
「決めた!君は絶対に僕の仲間に引き入れる!」
『ええっ!?』
な、何で……!?この人、何で私の話を聞き入れてくれないの……!?




