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18.5話 ギルドの日常・騎士団編

 此処はグリーンタウンのギルド。



 日々、様々な冒険者がやってくる受付の裏側では、ギルドを影から支える存在である『ギルドスタッフ』が懸命に働いている。



 そして今日もギルドスタッフ達は、冒険者を相手に元気に働いていた。



「うーん……」


 今は休憩時間。赤の混じった黒髪の男性ギルドスタッフのガレオは、頭に生えている獣耳をピンと立てながら分厚い本のページをめくっている。


「勉強かな?」


 襟足の長い明るい髪色の男性スタッフのゴードが、うなるガレオに声をかける。


「あ、ゴードさん」


「随分と熱心に勉強してるね。確かガレオは冒険者……もしかして、ランクを上げる為の勉強かな?」


「そうです!今の俺のランクは3なんすけど、そろそろランク4の試験を受けてみようかと思って……」


 ガレオは手に持っていた冒険者の本をゴードに見せた。


「ほら、モヨさんのおかげで『のどかな翠の森』が発見しやすくなったから、俺もランクを上げて翠の森に行ってみようかと」


「いいね、あの森には翠の女王が集めた珍しい物が結構落ちてるって噂だしね」


 ゴードさんは頷きながら自分の席に座る。


「あと、森の中なのに多量の光が当たって物凄く綺麗とも聞きますから!是非行ってみたいんすよ!それにしても、エメラルドの海の周辺に翠の森ができるのは知ってますが、何でこの森の場所は時折変わるんすか?」


「翠の女王と呼ばれるアルラウネがいて、その女王の周辺が翠の森になるんだよ。翠の森がいつ何処に現れるのか分からないのは、翠の女王が移動するからだね」


「へぇ〜!魔物の中心に森ですか……何か凄いっすね!」


「翠の森に興味津々だね。もしかして、ガレオがこの森に行きたくなったのはモヨの影響?」


「そうです、モヨさんが数日前にあの森で、ひび割れた岩の隙間からエメラルドの木の実を見つけたって……それを聞いてから居ても立っても居られなくて」


「森の中にひび割れた岩……エメラルドの木の実が挟まっていたって事からして、多分エメラルドの海から持ち込まれた岩なんだろうけど……」


「岩?」


「あ、因みに森が綺麗に見えるのは、翠の女王の幻術が影響してるから。だから幻術に耐性が無い人はあの森に入らないよう注意してね。下手したら一生森から出られなくなって、そのまま魔物の餌食になるから」


「えっ……俺、幻術の耐性全く無いんすけど……」


 ゴードの話を聞いたガレオは目に見えて落ち込む。


「幻術関連の魔法が得意な人とパーティーを組めばいいんだよ」


「翠の森ですか〜?そんな場所で探索するより、もっといいお金の稼ぎ方がありますよ〜」


ガレオとゴードが会話をしていると、女性スタッフのセレナが会話に入ってきた。


「お金?いや、確かにお金も欲しいんすけど……」


「え〜?ガレオさん、最近欲しい武器があるから節約してるって言ってたじゃないですか〜?」


「ちょっ!?何でそれを知ってるんですか!?俺はそんな話は一言も………………してましたね」


「確か飲みに行った時に酔ったガレオが大声で言ってたね。俺も知ってるよ。セレナ、そのお金稼ぎの方法って何かな?」


「お教えしま〜す。最近、ヒカリダマの売値がとても高いのは知ってますか〜?」


「……えっ?まさかモヨさんを……?」


「違います〜!最近モヨさんの影響でヒカリダマが大人気なんですよ〜!ペットとか実験とかで〜!だから、野生のヒカリダマを保護して売ればお金が沢山手に入る〜って、初心者の間では有名なお話ですよ〜?そもそも、モヨさんを盗んだら死んじゃう噂があるのをご存知無いんですか〜?」


「死……?」


 セレナの口から飛び出した「死」の一言に、ガレオの顔が少し引きつった。


「あ、そんな事より〜さっきギルドの裏玄関から例のお客様がいらしましたので〜応接室にご案内いたしました〜。お客様、ゴードさんをお呼びしてましたよ〜」


「そういう事は早めに言ってくれると助かるかな……よし、分かった。俺はお客様の対応をするから、ガレオは部屋の隅で……いや、両手で口を抑えながら俺と一緒に来てほしいんだ。いいかな?」


「何なんすかその指示……はい、分かりました」


 ゴードからの妙な指示に戸惑いながらも、ガレオは指示に素直に従い自分の口を塞いだ。


「よし、じゃあ今からお客様の元に行くけど……絶対に大声出さないでね」


 ガレオは口を塞いだままこくこくと頷いた。




「失礼します」


 ゴードは口を塞いだガレオを引き連れ、客人のいる応接室に入った。


「お待たせ致しました、オリーブ様」


 ゴードは、応接室の椅子に座っていた男性に丁寧な口調で言葉をかける。


「こんにちは。個人的な話なのにこのような場を設けていただき、本当にありがとうございます」


 椅子に座っていた客人の男性は、1つにまとめた長い髪を揺らしながら立ち上がり、オシャレな眼鏡越しにゴードとガレオをじっと見つめた。身なりからして明らかに位の高い男性だ。


「あっ……!?」


 ガレオはこの客人を一目見た瞬間、驚きで目を見開いた。



「ローズ騎士団グリーンタウン支部所属の隊長アール・オリーブ様!?」



「オリーブ様、少々失礼します。ガレオ、こっち来て」


 ガレオが口を塞ぎながら大声で叫ぶと、ゴードは冷静な声でガレオを呼んで部屋の隅に移動した。


「全部言ったね。割とはっきりと、所属してる団体名から本名まで大声で言ったね」


「すっ、すいません!!まさか騎士団隊長が来てるとは知らずに……!」


 ガレオは耳を下げながら必死に謝罪をする。


「分かってるよね?冒険者と騎士団は物凄く仲が悪いって事。もしこの冒険者だらけの場に騎士団の隊長が居るってバレたら……」


「だったら俺を連れてこなければ良かったじゃないすか!?出会わなければこんな叫ばなかったのに……!」


「俺も最初はそう思ったよ。でも、オリーブ様が応接室から出たタイミングでガレオと運悪く遭遇したらどうなるかな?」


「めちゃくちゃ叫ぶと思います」


「だよね?だから最初は、ガレオを応接室から離れさせようとしたんだけど……多分ガレオの性格からして、俺が下手に何か隠そうとすると逆に詮索してくるような気がして……」


「確かに、俺は変な隠し事はあまり好きじゃないっすね……隠し事の内容が気になるあまり、ゴードさん探して問いただすかも……」


「やっぱり……だから、壁も何も無い外で叫ばれるより、防音性のある応接室の中で叫ぶ方がダメージ少ないと思って……」


「ですよね……」


「あと、ガレオって元々は騎士団に入る為に修行や勉強をしてたって聞いたし、此処にガレオがいればオリーブ様とスムーズな会話が出来るかなって……」


「あ……はい!両親に止められたので入団には至りませんでしたが……騎士団の事なら一般の方よりは知ってるつもりです!任せてください!」


「よし、任せるよ。オリーブ様、お待たせしました」


 ゴードとガレオは話を済ませると、客人であるオリーブに改めて声をかけ、お互いに向かい合わせの席に座った。




「オリーブ様、本日はどのようなご用件でいらしたのでしょうか」


「……ああ、そう言えば急いで予約だけ入れて、詳しい内容はまだ報告してませんでしたね。結論を述べる前にまずは、騎士団隊長である私がこのギルドに来るきっかけとなった経緯について簡単に説明しましょう」


 オリーブはギルドスタッフの顔を見つめながら、簡単なあらましを話し始めた。



「私は騎士団隊長と漫才師の仕事を掛け持ちしているのですが……」



「漫才師!?!?」


 ガレオは大声で叫び、隣で座っていたゴードはオリーブを見つめたままガレオの頭を思い切り引っ叩いた。


「おや、貴方は騎士団に詳しいとお聞きしていましたが、ご存知無かったのですか?普段は3人トリオを組んでコントをしているのですが……」


「トリオでコント!?」


 ガレオがまたまた叫ぶ。ゴードはオリーブに笑顔を向けたままガレオの首根っこを掴む。


「ガレオ、オリーブ様の耳を壊したくなかったらもう少し声量下げてね」


「すいません!あまりにもオリーブ様のイメージとかけ離れ……いえ、何でもございません!」


 ゴードに注意され、ガレオは耳を立てながら勢いのある謝罪をした。


「まあ、身分も本名も隠してるから知らない方の方が多いでしょう。とにかく私は、漫才師と騎士団の仕事を両立する日々を過ごしていました。騎士団の仕事でストレスを溜めては、溜めたストレスを原動力にネタを書いて発散する……」


「騎士団の仕事って、そんなストレス溜まるんすか……?」


「溜まりますよ。上司からは仕事をしっかりこなせと小言を言われ、冒険者からは悪態をつかれます」


「上司から小言……?ですが、オリーブ様は騎士団の中で特に評判が高くて、市民だけでなく、一部の冒険者からも支持されてると聞きましたが……このギルドでも、グリーンタウン支部の騎士団はまともで信頼できるって言われてるのを聞きました」


「だからこそです。私は騎士団としてしっかりと市民の平和を守り、冒険者と出会っても戦利品を奪わず見逃し、罪を犯した貴族を捕らえ……私としては真面目に働いたつもりでしたが、上からは「怠け者」と称され、本部からグリーンタウン支部に左遷されてしまいました」


「左遷!?」


「今の騎士団は、市民に対しては上部だけ取り繕って仕事は適当にこなし、冒険者を見つけたら何かといちゃもんをつけて戦利品を没収し、罪を犯した貴族は場合によっては見逃して……昔と比べて随分と落ちぶれたものです」


「…………」


 ガレオは無言になり、そっと視線を落とす。


「話を戻しましょう。2つの仕事を掛け持ちしていたある日、私は1人の占い師と出会いました。どうやら占いがよく当たると評判らしくて、私も折角だからと占いをお願いしました」


 オリーブは気にせず話を続ける。


「占いの結果、私が今現在勤めているお道化の方の仕事に大変な事が起こる。だからお道化の仕事はやめて、安定した職に就くべきだと宣言されました」


「お道化の仕事に大変な事……ですか」


「はい。なので私は昨日、騎士団の仕事を辞めて参りました」


「ええっ!?騎士団の方を辞めちゃったんすか!?」


「お道化ですよ?それ以外あり得ないのでは?」


「えっ!?いや、世間一般では騎士団をお道化と表現しな……いえ、何でもありません」


 ガレオは納得いかない様子で説明をするが、途中で諦めてしまった。


「まあ何はともあれ、私は占いを信じて騎士団の仕事を辞める事にしたのです。ですがこのまま騎士団を離れるのも納得できません」


「まあ、有名な占い師による占いの結果とは言え、名誉のある仕事を辞めるなんて……」


「なので私は自分自身が知る限りで、ローズ騎士団がこれまでにやって来た悪事の数々を証拠品と共に王に提出してきたのです」


「…………」


「王族に知り合いが居たので話はスムーズに進みました。更に、偶然王に会いに来られた親切な旅人も現れたので、その旅人にも事情を説明した所……その旅人は私の話に同情し、騎士団を潰し……説得しに向かいました」


「(もうめちゃくちゃじゃないっすか……)」


「(オリーブ様本人が、騎士団が大変な事になる原因作ったのか……ある意味占い通りの結果に……)」


 ガレオとゴードはオリーブの話に対して心の中で指摘を入れる。


「王は騎士団を一度解体するそうです。これで気持ちも晴れてすっきりし、心機一転した私は冒険者になるべく、ギルドの門を叩いたのです」


「つまりオリーブ様は、騎士団を辞めて冒険者になる……と。いや、騎士団を辞めて冒険者に転職する人は時折いらっしゃるのですが、まさか前居た組織をめちゃくちゃにして此処に来られるとは……」


「ですが、これで暫くは安泰に過ごせますよ。さあ、そろそろ本題に入りましょう」


「(サラッと凄い事を……)はい、ギルドへの入会をご希望ですね?オリーブ様、修練場で貰った書類はお持ちでしょうか?」


「はい、こちらに……」


 ゴードは慣れた手つきでギルドの入会手続きを済ませていく。時折ガレオが助け船を出したりして、順調に手続きを進めていく。


「…………はい、以上で手続きは完了です。オリーブ様は既にダンジョン検定も済ませていたので、ランクは5からの開始となります」


「分かりました」


 無事に入会手続きも終わった頃、応接室に1人の老人が姿を現した。レイトギルド長だ。


「ギルド長!」


「あ、レイト様お久しぶりです」


 ガレオは耳を立てて立ち上がり、オリーブは何食わぬ顔でレイトに挨拶をする。


「おう、アールか」


「前見た時より少し若返りましたか?」


「最近運動を始めて髭も整えたから若く見えるのかもしれんな」


 ある程度会話を終えた所で、ゴードがレイトに質問を投げかける。


「ギルド長、わざわざ此処に来るという事は……何かご用件があるのでしょうか?」


「此処に漫才の気配がしたから来た」


「そうですか……(そう言えばギルド長は漫才大好きだったような……)」


 少し気の抜けた回答をするレイトにゴードは少し呆れ、オリーブはレイトを見つめながら少し考える素振りをする。


「漫才ですか……では折角ですし、此処で簡単なネタを披露しましょう。一応ピンネタも持っているので」


「いいのか……!?」


 オリーブの提案にレイトの顔が明るくなる。


「もし宜しければ、スタッフのお2人も是非見ていってください」


「宜しいんすか……?」


「オリーブ様の漫才、私も興味があります。是非見せて頂きたいです」


「分かりました。では……最近作った新しい物を……」


 オリーブはその場で立ち上がると、その場で持ちネタを幾つか披露した。



 数分後……



「……これにてネタは以上となります。ご静聴ありがとうございました」


 やがてネタが終わると、ネタを熱心に見ていたレイトとゴードは笑顔でスッと立ち上がってオリーブに向けて拍手をした。


「久しぶりにピンネタを見たが、やはりピンも素晴らしいな……」


「オリーブ様のネタを初めて拝見しましたが、物凄く面白かったです……!」


 そんな中、ガレオは座ったまま静かにうずくまっている。よく見ると小刻みに震えているようだ。


「……………………」


「そちらのスタッフ、途中から一切反応がありませんでしたが……大丈夫ですか?」


「申し訳ございません。ガレオ、笑いすぎて呼吸困難になってるんです……」


「ああ、本当に良いネタだった……して、アールは何故此処に来たんだ?」


「実は昨日、騎士団の悪事を訴えて騎士団の仕事をやめ、冒険者になりに来たのです」


「おい、何故それを早く言わんのだ」


「(オリーブ様がネタを見せるきっかけを作ったのはギルド長なのでは……)」


 オリーブが騎士団を訴えたと聞いたレイトは表情を険しくさせる。そんなレイトをゴードは呆れながら見つめている。


「アール、その騎士団絡みの内容を詳しく話せ。ゴード、ガレオ、少し席を外せ」


「分かりました。ガレオ、行くよ」


「…………」


 ゴードは未だに呼吸ができないガレオを肩車して起こした。


「失礼しました」


「し、しつれ…………し…………した…………っ…………!」


「笑いすぎだよ……」


 ゴードは小刻みに震えるガレオを連れたまま、その場からそっと退場したのだった。



 後日、オリーブのネタが忘れられないガレオは、1人でお笑いライブに足を運び、やがて漫才の魅力に惹かれてのめり込んでいくのだった……

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